ロボットのクッキー職人
そのロボットの専門分野はクッキーを焼くことだった。工業機械ではなく、人型ロボットなので、人間と同じようにオーブンを使ったりしながらクッキーを焼いているが、手先は特別で精密な動きも得意だった。
オーソドックスなクッキーのレシピの情報は大抵入力されていて作ることが出来た。
しかし、そのロボットのクッキー職人の面白さは学習機能によってたまに入力される情報によって、作るクッキーの作風が左右され、その新作クッキーを楽しみにしているファンがいることだった。そして、何を学習させるかを決めるのを顧客は楽しみにしていた。
香辛料の情報を学習した時は、様々な香辛料を使ったクッキーを試作した。カレークッキーなども作ったが、結局、好評だったのはシナモンとカルダモンのクッキーだった。
果物について学習した時は各種のフルーツクッキーを焼いた。スイカクッキーとかドリアンクッキーなども作ったが一番好評だったのはレモンクッキーだった。
動物図鑑を学習した時はどんなクッキーを作るのだろう? と思われたが、その情報はクッキーの形に反映されて、色々な形の楽しい動物クッキーを作った。
そして、今、目の前にあるのは・・・。
「このひねった形はドーナツなんかにもあるよね」
「何の情報を学習したの?」
「数学」
「無限記号?」
「メビウスの輪みたいだね?」
「チョコレートで一続きに線が引かれているよ」
「メビウスの輪だから表も裏もないものね」
「もう少し硬めに焼けば、この路線もいけるんじゃない?」
「知恵の輪クッキーとか?」
「パズルを学習させてみようか?」
また、ある時は怪談を学習させてみると・・・。
「骸骨のクッキーだね!」
また、ある時、栄養学を学習させると・・・ロボットは作ったクッキーを差し出しながら
「バランス栄養食クッキーでございます」と言った。
また、ある時は芸術を学習させてみると・・・。
「これは螺旋を表しているのか?」
「いえ、うんこです」ロボットは答えた。
ロボットのクッキー職人の店はまあまあ繁盛していた。




