千のカツラを持つ女
その流行は熱病のように一時代を築いた。
高校生以上の人々はみんな髪を剃り、或いは極端に短くし、外出する時はその日の気分で様々なカツラを被るという流行だ。
もう、髪が中途半端な長さになり、きまらないということはないし、寝癖も気にしないでいい。
カツラ技術の進歩により、夏は帽子を被る程度の負担で蒸れることはないし、却って涼しくなる素材も現れた。そして冬は暖かい素材のカツラもあった。
今日はロング、明日はセミロング、その次はパーティーだから複雑に結った金髪の髪型にしようという具合だ。
男性も気軽にロングヘアーを楽しんだ。
しかし、その流行は十年くらいで終わった。誰もが自分に最も似合う髪型を絞り込めたのだ。人々は変装用にお気に入りのカツラを少し残して売り払い、中古市場にカツラが安く出回るようになった。
多くの人は売り払ったカツラだが、買い集める人々もいる。カツラの流行で一番恩恵を受けた、頭髪の薄い老人層などだ。
私は、二十代だが、カツラを買い集め「千のカツラを持つ女」と言われている。普段は色々変身してオシャレを満喫しているように装い見栄を張りつつ実は家で、極端な短髪&ジャージで思い切りくつろいでいる。