モテ期
子供の頃はずっと髪を短くしていて、この王国の女の子としては珍しいほうだった。しかし、十六歳の成人を機に髪を長く伸ばすようになった。すると生来の艶やかで美しい髪が引き立ち、平凡だと思われていた容姿が非凡な美しいものとなった。
そして突然モテ期は訪れた。しかし、大勢の男が群がって来るのは彼女にとってはとても煩わしいことだった。それに男達の中に特に心を動かすような素敵な人はおらず、嫌悪感を起こさせる者達も多かった。彼女は男を手玉にとって、貢がせて捨てることが出来る程器用ではなかったし、上手に受け流すことは苦手だったので、何とかこの居心地の悪い状態を抜け出そうと長い髪を少女の時のように短く切った。すると群がっていた男達は半数以下に減った。しかし、それでもしつこく付きまとってくる男の中には彼女の最も嫌いな者もいた。そこで彼女は残った髪も全部切り坊主頭になった。これにはさすがにしつこかった男達もドン引きで、彼女はやっと静かな生活に戻れた。
一方、王国の跡取りの王子はなかなか妃を決められないでいた。彼は飾り立てた華美な女性が極端に嫌いだったのだ。しかし、父である国王に急かされたのでこう宣言した。
「年頃の娘達を集めて妃選びをします。娘達の中で一番髪の短い者を選びましょう。しかし、髪の短い者を選ぶというのは秘密ですよ」
やがて、王子の妃選びに年頃の娘達が集められた。王子様は見目麗しく評判の良い青年だったので、娘達は密かに期待し思い切り着飾って城へと向かった。
髪を全部切った坊主頭の娘は一応スカーフを被り普段着で城を訪れ、王子にお目通りする列に並んだ。
坊主頭の娘の番になると王子様は言った。
「娘さん、スカーフをとって見せてくれませんか?」
「はい、王子様」
娘がスカーフを取ると、見事な坊主頭だったので、国王もいくら髪の短い者を選ぶと言ってもこれはないだろうと思ったし、誰もが妃として問題外だと思ったが、王子さまは
「何と清々しい! 潔いまでの短さだ! 皆の者、私はこの娘を妃にする」
と坊主頭の娘を妃に選んだのだった。
やがて王子は王となり、坊主頭の娘は王妃となり、『坊主頭王妃』として近隣でも有名となる。坊主頭が理由で妃に選ばれたので今更髪を伸ばす訳にもいかない。王妃は「何でこんなことに?」と坊主頭を抱える毎日だった。
王妃は一生涯、坊主頭だったが、王家の子孫には美しい髪の美姫が生まれたらしい。




