分吸配機
彼は長生きを願うお年寄りや知的障害者に対し激しい嫉妬の感情を持っていた。それは彼らがあまり人生を苦しいと感じないで「のうのうと生きてやがる」と思ったからだ。まあお年寄りはともかく、知的障害者に対する嫉妬からくる憎しみは相当なものだった。
彼は何かにつけいちいち苦しんでいた。仕事はなるべく楽で割の良いものを意識的に選んでいたが、仕事でなく休日でも雑用というものは尽きることなく発生し彼を苦しめる。髪が伸びれば切らなければならないし、髭も剃らねばならない。一定の几帳面さがあるので無精にしていることもできない。
夏は暑いことに苦しみ、冬は寒いことに苦しみ、かと言って春、秋も朝晩の寒暖の差に苦しんだ。買い物をしなければ生きていけないことに苦しみ、買い物の残骸のゴミ出しに苦しんだ。
そしてついに自分の性格に見切りをつけ、自分の「苦しむ力」を願いをかなえるアイテムである【分吸配機】で取り除いてもらうことにした。
「苦しむ力」のほとんどを手放した彼は、暑い時は暑いし、寒い時は寒いし、それ以外にも不快なことはあっても、過敏に苦しむことがなくなった。
一方、彼が手放した「苦しむ力」を【分吸配機】から少しずつ譲り受け、例えばゴミ屋敷解消とか、ルーズさ解消とか、寒暖に鈍感で着替えなどによる体温調節が出来ないなどの例で一定の成功を収め幸せになった人達もいたということである。




