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悪魔への手数料

 今日もポストにチラシが数枚投函されていた。チラシをポストから取り出し、自宅マンションのドアを開けて帰宅し、リビングのソファーに腰を下ろしてチラシを見る。

 不動産の広告、宅配ピザの広告、美容院の広告・・・そして。

「この変なチラシは何かなぁ?・・・悪魔を呼び出す易しい魔法陣の書き方と呪文・・・手数料格安。魂は取りません・・・」

 白地に黒字の地味なそのチラシに興味を引かれ熟読すると、このチラシのターゲットは昔の恨みを晴らしたいけど、相手が今、何処で何をしているのか分からない人向きということだった。

 そういえば小学校時代にイジメにあったなぁ。ずいぶん傷ついたけどその後、ある人が言っていた「幸せになることが一番の仕返しです。嫌な記憶を楽しい記憶で上塗りしてしまいましょう!」という言葉を信じて、楽しんで生きることを心掛けてきた結果、イジメの記憶はぼんやりとかすんでしまって誰にイジメられたのかも忘れてしまった。でも、消えない微かな痛みが胸にいつまでも残っているのはどうしようもない。この胸の痛みをどうにかしたいと思っていた。

 まさか本当に悪魔を呼び出せるはずがないと思いながらも、チラシの説明の通り魔法陣を書いて、呪文を唱えてみると、煙のようなものが発生して、部屋が白く霞んだ後、地味な司法書士でもやってそうなスーツ姿の男が現れた。


「はじめまして。あなたの願いは伝わっています。我々のモットーはスピード解決です。さっそくあなたの恨みを清算致しましょう」

 と言うなりすぐに消えてしまった。


 それから数日、街を歩いていると、催眠術にでもかかったような同年代の人が私の方へ虚ろな表情で歩いて来て、「慰謝料です」と言って、お金の入った封筒を押し付けるように渡すようになった。イジメのあった時のクラスメイトなのだろうか?

その数は三十二人だった。金額は最高でも十八万円くらいで、最低は六十円だった。結局、合計金額は三十万円くらいだった。


 お金が集まった頃、悪魔の男は再び現れた。私は

「恨みを晴らすって慰謝料のことだったのですか?」と言うと

「それが一番効率的な方法です。魂をいただけるなら話は別ですが、あくまで軽い恨みを晴らす簡略な方法として採用されております。手数料は慰謝料の三十%頂きますね」

「そのお金は何に使うのですか?」

「魂と引き換えに大金をお望みのお客様のためにプールされております。それではあなたの恨みは見事に清算されたということで、あなたの胸の痛みと、このことに関する記憶を消去させていただきます」


 こうして、悪魔は手数料を回収し、去って行った。


「あれ、何していたんだっけ? 意識が遠のいた気がする」

 私はリビングでふいに気がつくと目の前のテーブルに覚えのない数十万円が置かれていた。不審より「ラッキー!」と思う気持ちが強く、欲しかったオシャレなバッグを買いに出かけた。



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