メッセージ
未来からの過去の自分へのメッセージは抽象的なことより具体的なことの方が良いと思った。何しろ使えるメッセージの字数は二十字だから。
そもそも発明されたタイムマシンは燃費が悪すぎた。費用はかなり掛かるのに、過去や未来に送れるものはハガキを薄く軽くした大きさの紙だけだった。複雑な記憶媒体は受け付けないので印刷する文字をいくら小さくしても送れる情報は限られる。
そして初のタイムマシンでもあるのでタイムパラドックスや現在に与える影響なども考慮して、恐る恐る当たり障りのない程度の情報を過去に送って実験している段階だ。
この度、俺は【還暦の人間が十六歳の頃の自分にメッセージを送る】という実験をする百人の中に選ばれた。ハガキ大の紙の両面に百人分の宛名代わりのマイナンバーと二十字以内のメッセージを印刷してタイムマシンで過去に送る。
そして話は戻るがそのメッセージの内容について悩んでいる。結局、いくら未来の自分からのアドバイスと言っても教訓的なことは上手く伝わらない気がする。還暦まで生きて自分の人生を総括すると、俺の人生は空回りを繰り返してきたから、空回りしないように伝えたいのだが、その時々で意欲や情熱を持って努力してきたことの価値や経験を否定することは出来ない。
そこで、もっと実利的で具体的なメッセージにしようと思うが、ロト6とか数字選択式の宝くじの当選番号や当たり馬券、値上がりする土地、株などの情報を漏らすのは禁止されているし、自分宛ての個人的メッセージに限られる。禁止されるギリギリの線で考え出したメッセージは
「宝くじは高額当選しないのでその分積立よう」
の二十字だった。
さて、タイムマシンが作動した時間が過ぎ時空の歪みを超えたように感じたので、改変された過去の痕跡を確かめる。そして、俺は年収分くらいに相当する積立預金を発見した。
そして、もう一つ発見したのは、溢れかえるほどのギャンブルをしたいという貯めに貯めた欲求だった。
俺は積立預金を下ろして、還暦祝いのカジノ旅行へと旅立った。




