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ちょんまげ

彼ほど『ちょんまげ』の似合う人はいなかった。

 人々は彼を見ると

「あの人はちょんまげを結っているけど、あれほどちょんまげの似合う人はいない」と思い感嘆するのだった。彼にはちょんまげ以外の髪型の選択肢はありえなかった。それほど似合っていた。彼にしても

「俺にしてもちょんまげは譲れない。ちょんまげこそ俺のチャームポイントだ」と思っていた。

 では、何故彼が『ちょんまげ』を結うことになったのか? それを説明するには世の中を画期的に変えた【美容最適化システム】について言及しなければならない。

 美容最適化システムは、その人に最も似合う服装や髪形を提案し、供給するシステムだった。例えば素朴さが売りの容姿の人には、すっぴんを前提にスキンケア用品が支給され、逆に化粧映えする人には最も似合う化粧品が支給される。

 又、人によってはダイエットを提案されダイエット食品などが支給されるが、太っていても害がなく、ふくよかさや貫禄が似合う人は、ゴーギャンの絵に出てくる女性のようだったり、相撲取りのような男性だったりする。

 服もその人に似合うものだけが支給されるので、コーディネイトに無駄がない、さんざん服選びに失敗しては処分したり、似合わないのに恥をかきながら着ていた昔の人の苦労が嘘のようだ。その人に最も似合う服があらゆる時代、あらゆる国の民族衣装から選ばれチャイナ服の人の横をアンデスのインディオの虹色の縞模様の民族衣装の人が歩き、その後ろをインドのサリーを着た人が歩くというふうに街は華やかさの中に混沌としていた。

 当然、髪形もその人の最も似合うものがデータとして美容室に流され、似合う範囲内での選択となるのだった。


 似合うということが最低条件としてあるが、まるで選択肢がないというわけではなかった。

 しかし、彼のちょんまげの髪型は動かすことのできない最適条項だった。彼のちょんまげ姿には品格があり、若殿様のようで、彼の個人データは若殿として分類され、服装も羽織、袴の和風の物がチョイスされた。


 美容最適化システムは、その人に似合うということを追求して、その人の趣味にまで干渉するようになった。

 例えば若殿の彼には乗馬が勧められたので、彼は休日には大きな公園の乗馬場へ行って白馬に乗ったが、彼にはある楽しみがあった。

 それは、乗馬のコースの隣のバイク練習場の彼女をのぞくことだった。

 彼女は夜露死苦ヨロシクと刺繍された、紫色の特攻服のヤンキー姿で小型バイクに乗る練習をしていた。あまり、バイクに乗るセンスはないみたいで、こけては「コンチクショー!」と叫び、その後で「ファイト!」と叫びバイクの練習を続けていた。

 その気取りなくあったかな雰囲気が若殿の彼には輝いて見えた。それで休憩所で彼女と会った時、声をかけようかとしばらく見つめていると彼女の方から

「あんた、白馬に乗った若殿様だね。あたいもバイクより馬に乗りたいよ。ところで誰か付き合っている娘はいるのかい?」

「システムが姫君みたいな人と付き合うのを勧めるけど、気が向かなくってね」

「あたいはパンクファッションのモヒカンの人を勧められているけど、違うような気がするよ、ねえ、あんた」

「なんだ?」

「あたいたち気が合うと思わない?」

 そこで二人は休憩所にあるシステムの端末にIDカードをかざしてパートナー登録をしようとした。しかし、大奥すら持てる若殿だが、ヤンキーの彼女とは認められなかった。

 似合わないと判定された二人なので何かを変えなければならなかった。彼女は

「あたいはあまり変えることはできないよ」と言った。それに対し彼は

「俺には裏技の心当たりがあるんだ」と答えた。

 自分に似合うことをするのが最高という価値観に支配された世の中で、この愛を貫くためには何でも出来ると思った。

 彼は帰ってデータを書き換えた。ちょんまげは変えることはできない。しかし、ちょんまげにはバカ殿というジャンルがあった。

 若殿の最適な職業は政治家や企業のトップなどのエリートコースで、バカ殿に変えると最適な職業はコメディアンになってしまうが、その代わり、どんな女の子とでもパートナー登録をすることが出来る。

 彼はちょんまげを高く結い、金の扇子を持ち金の袴を穿いて、顔を白粉で真っ白に塗り、口紅をさして、求愛の踊りを踊りながら彼女に会いに行った。


 彼女は緋色の特攻服に緋女ヒメと刺繍をしていた。茶髪に特徴的なアイメイクを涙に濡らし、黒い涙を流しながら走り寄って来た。

「あたいのバカ殿様!」

「ヒメ!」

 彼女をお姫様抱っこして、白馬に抱き上げて一緒に乗った。


 こうしてバカ殿とヒメはバカップルとして幸せに暮らしました。





この話のバカ殿は、志村けんのバカ殿よりカッコイイと思います。

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