01-02 キャラメイク
クローズドβ当日、結城野美人は悩んでいた。
ああは言ったが、普通にやるのも芸がない。
「…考えてても仕方ねぇ。時間過ぎたし、とりあえず入ってみっか」
―――
「ようこそ、Chimera Park On-lineへ。私はサポートを担当するAI、HAL-TAです。
まず始めに、クローズドβから正式版へのデータの引継ぎは一切ありませんのご了承ください。
では、キャラクターを作成しましょう」
カンペを見ながら棒読みでそう話す小人。
辺りは一面真っ白な空間が広がっている。
彼女はとりあえずカンペを取り上げてみた。
部外秘と書いてあるだけで、他にはなにもなかった。
「…なんだこれ?」
「あっ返してください!
部外者には読めないようプロテクト掛けてあるんです。
私新人なんで、無いと困るんです!」
「まあいいや」
返されると気を取り直して話を続ける。
「説明を続けさせて頂きます。
キャラクターは始めにアーキタイプから選択していただきます。
クローズドβでは肉食獣、草食獣、肉食鳥、草食鳥、肉食虫、草食虫の6つのカテゴリーから選択していただきます。
開始地点はそれぞれのカテゴリーで分けられています。
一部難しいものがあり、特に虫は上級者向けですので気をつけてください。
これが一覧です、どうぞご確認ください」
目の前にずらっと表示される。
適当に1つ選んで表示させると幼生と成体という2つが表示された。
「…ああっ?」
「あっ、幼生と成体ですね。説明させていただきます。
プレイヤーは最初幼生から開始します。開始後、ゲーム内時間で12時間経過することで成体となります。
幼生の場合セーフエリアへの出入りは自由ですが、成体の場合は制限されます」
「セーフエリア?制限?」
「セーフエリアはその内部で他のものに襲われないエリアで、復活地点として登録できます。開始地点もここになります。
1つのセーフエリアに滞在できる時間が決まっており最長で1日です。それを越えると自動的に外へ追い出されます。
幼生の場合は出入り可能ですが、成体の場合1度外に出ると5日経過するか死亡するまで中に戻ることは出来ません」
「へー」
他にもいくつか開いたが、。
上級者向けというし、虫でもやってみるかと考えたが見た中の1つに目が引き付けられた。
ライノー種、HANTでよくお世話になってる奴だ。
ゼンからライノー種の角を付けた額当てを買い、何度も使いつぶしている。
最初渡されたとき「お前はこれを頭に付けた方がいい」とか良く判らないことを言われたが、頭突きが強化され値段も手ごろなので愛用している。
(そういえば最近森に売りに来るハンター見かけるな。行商人プレイでも流行ってんのか?)
彼女は知らない、額当てをしていない彼女を見つけて角付き額当てを買い取ってもらうと良い事がある、とプレイヤー達に噂されていることを。
そしてプレイヤー達は知らない、それを知った開発陣が本当にその行為でリアルラックがほんのわずかながら上がるよう仕込んだことを。
(これであれやれれば面白いかな。まあ、出来なくてもどうせ消えるデータだし)
ライノー種を選択し、名前は少し考えてヤサイにする。
色や形をある程度変えれたが、面倒なのでそのままにした。
「このキャラクターでよろしいですか?
……はい、では続いてチュートリアルへ移ります。これは省略できませんのでご了承ください」
小人が巨大化した。
実際には彼女の視点が下がっただけだが。
「まず始めにステータスを見ましょう。コンソールウィンドウは頭で思い浮かべると表示されます。
そこからステータスウィンドウを選択してみましょう」
言われたとおりに思い浮かべ、ステータスを選択するとこう表示された。
名前:ヤサイ
種族:アーキライノー
年齢:0h
状態:幼生
HP:100%
ST:100%
Str:-
Vit:--
Dex:-
Agi:-
FS:
《草食》
《四足動作Lv1》《四足跳躍Lv1》
《ライノー種基本セット》
《ライノー種:硬皮Lv0/1》《ライノー種:角Lv0/1》《ライノー種:頭Lv1》
《ライノー種:目Lv1》《ライノー種:耳Lv1》《ライノー種:鼻Lv1》
《ライノー種:胴Lv1》《ライノー種:肢Lv2》《ライノー種:尾Lv1》
MS:
《言語:草食獣》
《因子:ライノー種》
FP:0
「Lv0のものは、成体になるとLv1になります。
言語は、取得していないものとの会話は出来ませんし、フレンド登録していても名前は表示されません」
「まじか…」
フレンド登録機能―登録した相手が居るかどうか検索する機能で、ついでに相手の頭の上に名前の表示なども設定できる。
Chimera Park On-lineはHunter and Nature Troopsで登録した分を利用できるので直ぐに探せると思っていたが、難しそうだ。
(…まっ、いいか。会えんでも)
「続いて成長について説明させていただきます。
食事をきちんと取っていれば時間経過と共に能力値が増加します。
食事には成長補正があり、より良いものを食べることで能力増加量は向上します。
ただし、セーフエリアにある〈無限の飼料箱〉からでは成長補正を受けることは出来ません」
「…ってことは草食獣だと闘う意味って無いのか」
「いえ。草食獣が倒した場合、相手の死体から成長補正の高い草が生えます。
この世界には餓死がありますので草食獣はその分有利なため肉ほどの成長補正はありませんが、食べれる量などトータルで見た場合に草食獣と肉食獣で成長補正に大きな違いはありません。
食事は取れば取るほど成長補正は上がりますが色々と隠しパラメーターはありますし、満腹状態で更に食べた場合寿命に影響を及ぼしますので、暴飲暴食は避け健康な生活を送ってください。
あっ、便意はありませんのでトイレは心配する必要がありません」
「いや、意味ありゃいいんだが。なんだかな……」
「納得していただけたみたいですね。では次に移ります。
フィジカルスキル―FSとマインドスキル―MSについて説明させていただきます。
FSは肉体的特長や行動能力が該当し、MSは知識的なものなどが該当します。
多くのスキルは特定の行動をすることで取得できます。
他の取得方法につきましては転生システムが関連しますので続けて説明します。
キャラクターには寿命が存在します。
食事などで変化しますが基本は120時間です。
HPが0となって死亡した場合には寿命が低下して復活地点へ送られますが、寿命が来ると冥界に送られ転生することになります。
冥界と申しましても、ここと同じような殺風景な場所です。ここと違うのは他のプレイヤーもいる点、カウンセリングルームなどの各種施設がある点です。
冥界での外装は基本的に人型の影に固定され、成長も餓死もいたしません。
施設ではFSをフィジカルポイント―FPに還元できます。
また、生存時間からFPが算出され、支給されます。
このFPを消費してFSを取得し、レベルを上昇させることができます。
FPを消費してのFS取得は冥界でなくとも出来ますが、FP獲得は今のところ冥界でしか行えません。
特定行動で取得するスキルは一度取得すればFPで取得できるスキルに並びますが、レベルを上げれる上限は自分で行動して上げた分までです。
また、一度取得して還元されたFSは、取得したレベルを超えない限りFPに還元されません。
FPで取得限界よりも低いレベルで取得した場合、還元されるFPは取得に消費した分+超えたレベル分となります。
FPを消費することでしか取得やレベル上昇できないスキルもありますので奮ってご利用ください。
なお、現世に戻る際に幼生か成体かを選択できます。
現世に戻ると能力値が低下します。
能力値が低下するといいましても初期値を下回ることはありません。普通に進めていればある程度強化されていることでしょう。
先ほどLv0のものは成体になるとLv1になると申しましたが、正確にはここで設定したLvになるという事です。
1度転生後、獲得FPが20以上になりますと初心者モード解除となり、プレイヤー同士の戦闘が解禁となります。
ここまでで何か質問はありますか?」
「この因子ってのは?」
「FPでFSを取得する際、自分の持つ因子の系統のFSを取得できます。
他に質問はありますか?」
「…怪我とかどうなるんだ?」
「怪我、いわゆるHPへのダメージは時間経過などで回復しますが、部位ダメージで回復まで行動に障害が生じる場合もありますので気をつけてください。
薬草などもありますので、探してみてください。
他に質問はありますか?」
「……ねぇな」
「ありがとうございます。これで説明は終わりです。
最後に動作の練習をしましょう。お手本ライノ君、カモン!」
何処からとも無くライノー種が1体現れる。
そのライノー種には「お手本」と書かれた襷がかかっていた。
「ライノ君歩く! ライノ君ダッシュ! ライノ君ジャンプ!」
言われたとおりにライノ君は歩き走り飛ぶ。
「こんな感じで動きます。では実際に試し見ましょう。
動くように念じてみてください。
スキルアシストシステム―SASが掛かりますのできっと大丈夫です」
前に進むことを思うと足が動き出す。
そのまま駆け足に移行しジャンプする。
感じは上々で、SASが無くても大丈夫だと判断し、《四足動作》などのを切る。
「大丈夫なようですね。では次に練習コースを…って、ああ?! SAS切ってる?!」
「ん?…何か文句あんのか?」
「いえ、良いんですけどね…。SASを切ってもスキルは成長いたしますし。
気を取り直して、出ろっ、練習コース!!」
パチンッと指を鳴らすとごごごごっと地面が盛り上がり形を変えていく。
「はい、これがライノー用練習コースです。
これをクリアすればチュートリアルの全行程終了となります」
山あり柵あり穴ありの小規模なアスレチックコースだ。
感覚を確かめるように歩き出し、スピードを上げ瞬く間にクリアする。
「とりあえずこんなもんか。後は出たとこ勝負だ」
「クリアおめでとうございます。
練習を続けても結構ですが、ここでは成長も新たなスキル獲得もできません。
冥界にも同じコースはありますし、他の種族のもありますのでスキル構成を変えた際には試してみてください。
開始地点へ進む場合には、あの光にお進みください。
これでチュートリアルは終了となります。
引き続きChimera Park On-lineをお楽しみください」
「おう。んじゃな」
光に入ると途端に光景が変わり、磨かれた石舞台のようなとこに立っていた。
ここがセーフエリアなのだろう。
中央部に大きな餌箱らしきものがあり、周りには他にもプレイヤーらしき生き物が結構いた。
人の頃よりも低い目線。
空は遥かに高く、大地は果てし無く広い。
思わず心が震える。
「さーて、始まりだ」
彼女はにやりと太い笑みを浮かべた。