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Chimera Park On-line  作者: カカセオ
第2章
16/20

02-04 転生

「お兄ちゃん、今日も行くの?」


 朝食の席、飯をかきこみながら妹が質問してきた。


「…とりあえずな」


「へー、気に入った?」


「…わからない」


「えっ、結構長くやったんでしょ?遅く帰って来たんだし」


 遅くなったのは別件だが、それは口には出さない。

 それに結構長くやったのは事実だ。

 だが…


「…ほぼチュートリアルだけだ」


「チュートリアルそんなに長いの?」


「…人による」


 中身自体は30分もかからずに済む。

 おれの場合は、いくらでも練習できるからとある程度自由に飛べる様になるまで粘ったので結構な時間がかかった。

 他の人間なら一通りSAS付きで動き、すぐ出ていただろう。


「ふーん、まあでもタダで出来るっていうし放課後やろうかな」


「…そうか」


「ここは、手伝うとか言う所じゃない?」


「…下校時間にはもういない」


 人混みに遭わない為には時間をずらせば良い。

 昨日はタイマーを30分だけにしたのが敗因だ。

 今日は学生が来る前、14時頃には帰れるようセットしよう。


「もしかして、昨日遅くなったの人混み避けたから?」


 違うが口に出したくない、というか思い出したくもないので沈黙する。

 妹は沈黙を肯定と受け取ったようだ。


「そっかー。じゃあ、しょうがないね」


「…時間」


「え?あー、もうこんな時間!

 ……ごちそうさま、後片付けお願い。

 じゃ、いってきます!」


 そう言い残すと鞄を抱えてばたばたと出て行った。

 両親は共にもう先に出ているので、残ってるのはおれだけ。

 自分の食事を終えると、食器を重ねて流しへと向かった。

 ジャーっと水を流す。

 カチャ、カチャ、カチャ…。

 サルも洗う、アライグマも洗う。

 出来るだけストレスを削減しようと、そう言い聞かせながら洗う。

 洗い終えると、掃除機をかける。

 それを終えてから戸締りを確認してVRセンターへと向かった。

 昨日とは違い、時間待ちしている人間はいない。

 受付で生体認証をして個室へ向かい、VRスーツに着替える、

 プラグを繋ぎ、VRセルに横たわり起動させる。

 メニューからChimera Park On-lineを選択。

 タイマーは…5時間で良いだろう。

 目覚めると培養槽の底の上、昨日ログアウトした場所だ。

 初回時と違って次のログイン時に人間の集った広場からという物もあるらしいので心配だったが、これは違うようだ。

 だが、扉の向こうには沢山いるかもしれない。

 心を決め、扉だと思う緑の光源の下へと飛んでいく。

 近づくとスライドして道が開けた。

 扉の向こう側は丸くて広い空間が広がっているようだった。

 そちらもオレンジと緑の光が薄く辺りを照らしていたが、全体を照らし出すまではいってない。

 天井から落ちたらしき瓦礫と、闇に沈んだ天井から垂れ下がって時折火花を散らすコードらしき物が見えた。

 見渡してみた限り誰もいない。

 扉から入ってすぐの所には瓦礫がなかったので、一旦降りる。

 緑の光源はこの扉の所以外に後2つ、どちらかが出口だろう。

 飛んでいくと見えないコードに引っかかるかもしれないので地上を行く事にする。

 そういえば、飛ぶのに気を取られて走るのを忘れてたな。

 その場で練習を開始する。

 元々歩けるので、程なくして走れるようになった。

 飛ぶより遅いが、疲れは少ないように感じる。

 それじゃ向かおう、とりあえず右側へ。

 ある程度行くと後ろから音がしたので振り返る。

 扉が閉まったようだ。

 扉には見たことのない記号のような物が刻まれていた。

 文字なのだろうか?

 たぶんそうだ、開けてみないとその先が何なのかわからないのは不便だろうし。

 読めないのは《言語》のSASを切っているからだろう。

 そういえば、β版の情報であったな。

 HANT世界に行った時、筆談しようと日本語書いたけど伝わらなかったと。

 相手には違うように見えて読めなかったという。

 確かめるためにSASを入れたりはしない、おれ的にはむしろ好都合だし。

 気を取り直して、目指す緑の光源の下へ向かう。

 途中、瓦礫を避けたり乗り越えたりしながら進み、ようやくたどり着いた。

 開いた扉の先には丸い部屋。

 中央に巨大な台があり、ここだけ無傷の明かりが煌々と照っていた。

 たぶん転移装置だろう、ここには用はない。

 残る1つへと向かう。

 ようやくたどり着くと、開いた扉の先から薄明かりと共に熱気と硫黄臭が流れ込んできた。

 とても暑いのに快適という不思議な感覚、これが《火耐性》の効果か。

 人間が高温下で不快になったり火傷したりするのは、その温度に適応できないからだ。

 《火耐性》のおかげで高温に関しては限度なく適応できる、はず。

 《転生》では効果を見せなかったが、あれは熱と感じただけで別物かもしれない。

 扉の外の地面は岩のようだ。

 真向かいに岸壁があり、光に照らされている。

 扉からの明かりが薄いのは、こちら側が影だからか。

 地鳴りのような音が扉の向こうから聞こえてくる。

 ここから先にどれだけの世界が広がっているのか。

 期待と不安を抱え、扉の外へ足を踏み出した。


「うわぁ…」


 出てすぐは岩棚になっており、左右の岸壁は向かいの岸壁と一続きに繋がっている。

 岩棚の先へ進み下を覗き込むと、その岸壁の円柱の底には大きな赤い池が広がり時折激しく噴き上がっている。

 活火山の火口、その中にここがあった。

 息はできているので毒ガスは出ていないのだろう。

 その光景にしばし言葉を失う。

 くぅとお腹が鳴り、我に返る。

 そもそも食べ物を探しに出たんだった。

 気を取り直して、とりあえず辺りを見回す。

 他にも岩棚がちらほらとある。

 それとは別に岸壁に赤い何かがあった。

 時折炎を噴き出してる、あんな所からもマグマが?

 一瞬そう思ったが、よく見るとトカゲの形をしている。

 サラマンダーか?

 人影はないけど火蜥蜴(サラマンダー)が居た…ちょっと寒いな。

 岸壁のそこかしこに居る。

 餌になるかな?

 見える範囲で一番小さいのでもおれの倍はありそうだ。

 …あれ、そこかしこ? 

 慌てて振り返ると大きな口が開いていた。


「わっ!」


 思わず後ろへ飛び退く。

 今まで居たのは岩棚の端っこ。

 という訳で火口へと落ちていった。

 さっきまで居た岩棚がどんどん遠ざかる。

 慌てて翼を広げバタつかせる。

 温度は大丈夫でも、この高さから叩きつけられればタダではすまない。

 何とか空気を掴んで体を浮かす事に成功したが、無理な力がかかった所為で翼が痛む。

 何処か止まれる所がないか周りを見回すと、1つ気付くことがあった。

 ある高さよりも下にサラマンダーは1体も居ない。

 サラマンダーの熱耐性はそれほど高くないのかもしれない。

 となると、マグマの近くが安全だろうか?

 そう思って下を見ると、見える範囲には何も居ない。

 限界が近づいてきたので、とりあえずマグマに着水?する。

 比重が違うのか水よりも容易く浮かべた。

 そういえば火やお湯を食べれるとか。

 だとすると、コレでも良いのだろうか?

 マグマに嘴を突っ込み食べる、というか飲んでみる。

 熱いどろっとした物が喉を通っていく。

 味はよくわからないが、不味くはない。

 お腹の中が温かくなった感じがして、空腹が収まる。

 食べれるようだ。


「…………ゲプッ」


 とりあえずお腹一杯になるまで食べた。

 翼の痛みも引いた。

 次は予定通り《転生》の練習をしよう。

 それには足場がある方が良い。

 火口の底から見上げると、サラマンダーの居ない範囲にちょうど良い岩棚を見つけたので飛んでいく。

 岩棚に降り立ち、《転生》をしようとあの時の感覚を思い出す。

 たしか、胸に熱を灯し、それを体に流していくんだったよな。

 どこから熱が生まれたのだろう?

 とりあえず胸に体の熱が集まるようイメージする。

 強く強く、長く長く一心に想う。

 その内少しずつ胸が温かくなっていく感じがした。

 出来る、と思った瞬間に熱は霧散した。

 もう一度意識を集中し、ようやく胸に熱が灯る。

 次は、これを体に流すんだ。

 少しずつ動かし、慣れた頃を見計らって体に流す。

 左足から左翼、頭を通して右翼へ、右足に降ろしてそこから胸へと戻す。

 少しでも集中が途切れると消えてしまう。

 何度も何度も試し、体を一周させることに成功した。

 すると熱がほんのりと温かくなっている感じがした。

 後は動きを速くしながらこれを繰り返すだけだ。

 しかし、そう簡単にはいかなかった。


「うっ……くっ……がぁっ!」


 熱くなるそれで、焼かれ押し広げられる痛みが集中を掻き乱す。

 その内、最初から速く動かしても良い事に気付いた。

 ただし、その場合は押し広げられる痛みが早い段階から始まる。

 始めは緩やかに流すのは、体を慣らしていく意味があるようだ。

 だが、速くやれるなら速いほうが良い。

 お腹が空いたので、一旦マグマに降りて補給する。

 岩棚に戻ると、今度は最初から出来るだけ速く流していく。

 痛みに集中を妨げられながら、それでも少しずつ長く流せるようになっていった。

 これには思わぬ利点もあった。

 普通にやると焼かれる痛みと押し広げられる痛みが同時に来てどうしようもなかったが、これなら押し広げられる痛みだけ先に慣れる事が出来る。

 日も暮れ、月光とマグマの赫きだけが辺りを照らし出す頃になって、ようやく押し広げられる痛みに慣れた。

 後は焼かれる痛みで集中を途切らせないようにすれば成功だ。


「がぁっ!……はぁ…はぁ…………ぐっ……うっ……くっ……」


 熱が強まり焼かれ出す頃、また集中を途切らし始めた。

 だが、少しずつ少しずつ耐えれる時間が長くなる。

 お腹が空けばマグマに降り、お腹を満たせばまた始める。

 永延とやり続け耐え続け、そして何十度目か何百度目か何千度目かやっていた時にそれは起きた。

 何度も体を流して胸に来た瞬間、その熱の塊が爆発した。


「がぁ――――――――――――」


 今まで耐えていたのを遙かに超える痛みに意識を飛ばされ、気付いた時には倒れ込んでいた。

 息は絶え絶え、立ち上がる事も出来ない。

 成功か?

 息を整え、立ち上がる。

 成功なのかどうか、また成功できるかどうか、確かめるにはもう一度やるしかない。

 胸に熱を灯し、左足、左翼、頭、右翼、右足、胸へと目まぐるしく流す。

 熱は瞬く間に増大し、やがて爆発した。

 気が付けば、また息も絶え絶えで倒れ込んでいる。

 成功だ。

 これで今出来ることは出来るようになった。

 次はここを飛び立ち、外の世界を見に行こう。

 そう思ったとき、アラームが鳴り響いた。

 人間に戻る時間だ、終了を選択する。

 最後にマグマに降りて思う存分お腹を満たし、岩棚でその時を待った。

 程なくして、VRセルで目を覚ます。

 着替えてVRセンターを出る。

 目論見通り学生は居ない。

 そのまま家へ向かう。

 家に着き、部屋へ入る。

 まだ課題が残っているので、それを片付けていく。

 ふと思い立ち、イメージしてみた。

 胸に熱が灯った…ような気がした。



―――



 CPOスキル条件スレ3個目


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72:とりあえず一通りは出たのかな


73:まあ、普通のはな。βの時見たのはまだ


74:乳ビームとか大砲とかな


75:あれはちょっと特殊すぎ(笑)


76:頑張れば出来るんじゃないか?(笑)


77:《石食》付いた!


78:乙


79:どうやるんだ?


80:土から始めて、砂、石と


81:マジ乙


82:そういうのは取るまで味に補正無いしな


83:だがこれで鉱石食べれる。ふふふ、機動要犀超えてやる!


84:あー、奴に潰されたのか


85:でも、退治されてただろう。リベンジ果たしたんじゃ?


86:パーツ揃えたら足りなかった。自爆したからだと判断したけど、後日残りが無いか探しに行った奴らが大穴発見


87:・・・まさか、微塵隠れ?!


88:知ってるのか?!ら(ry


89:たしか、爆発にまぎれて地中に潜るんだよな。あの巨体でやれるか普通(笑)


90:うわ、ありえねー(笑)


91:非常識な話は横に置いてっと。そういや石食って石の装甲出来るんだろ。木を食ったら木の装甲とか出来るのかな?


92:それ言ったら、草食って草の装甲とか肉食って肉の装甲とか出来るんじゃないか?(笑)


93:バランスよく食べてたら《肉食》も《草食》も付かなかったけど《健康優良生物》ってのが付いた。効果は《雑食》での成長補正が少し上がる


94:えー(笑)


95:《健康優良生物》(笑)


96:一つの食事に長く拘ったら何か付くのかもしれないな、試してみるか


97:鳥って走れないのか?初期スキルに《高速移動》ないし。走ろうとしても《移動》で早歩きぐらいだし


98:SAS切れば?


99:歩けねえよ!


100:ダチョウとかやれば良いじゃないか。最初から付いてるぞ


101:1月待てとか・・・


102:鳥で取ったけど、あれあまり意味無いぞ


103:それでも良いからどうやるのか教えて


104:全速力で走る


105:だから走ったって。早歩きだけど


106:全速力というのがポイント、そうすると全速力で走れる。ついでに、《飛行》より遅いし疲れるよ


107:・・・だけど、俺は鳥で走ってみせる!


108:ガンバレ


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