02-02 VRセンター
Chimera Park On-lineのサービス開始当日、おれは近所のVRセンター“koTan”に来ていた。
昨日受けた診断でVR適正は最高評価の秀を与えられたので問題なくやれる。
保護者の同意も手に入れてある。
入り口には数人がたむろしていた。
サービス開始してから料金の時間一杯やるつもりで待機しているのだろう。
平日のまだ午前9時前、流石に若い者はいない。
特殊な事情でもない限り、利用すれば学校に通報が行く。
おれの場合は特殊な事情に当たるので問題はない。
ぎりぎりを狙うつもりも無いのでさっさとVRセンターに入る。
中に入ると仕切られた受付ブースが幾つも並んでいる。
そこには台があり、その上に掌を乗せると生体認証して奥へ行けるようになる。
奥へ行く扉は10個。
入口と出口が分けられており、男性用と女性用が2組ずつ、残りは個室用だ。
奥も性別と個室で分けられており、区画や階層が違って行き来出来ない様になっている。
これには理由がある。
VRセンターではVRセルに入るのにVRスーツが義務付けられている所が多い。
VRセルとの接続を妨げないようVRスーツは通電性はあるが浸透性の無い素材で作られており、目立たなく付けられた腰のパーツから伸びるコネクタをVRセル内のプラグに接続し、そこから排泄物などを吸い取るようになっている。
当初コネクタは腰の後ろに付けられていたが、VR液を注入し浮いている時ならばともかく、その前の寝転がる時に邪魔だという意見により改良がなされた。
前に付いている物もあるが人気はなく、大抵は横に付いている。
後ろに付いている物もしっぽ付きと呼ばれ、一部に根強い人気があるので今だ作られ続けている。
VRスーツを使えばVR液の汚染も少なくなるし裸でやらなくて済むのだが、問題点があった。
VRスーツはその性質上薄く伸縮性のある素材が使われ、全身にピッタリと張り付くように作られている。
体の線が諸に出て、俗に水着より卑猥と呼称される。
装飾パーツによってアニメのパイロットスーツ程度までに抑えられている物もあるが限度はあるし、VRスーツもそれなりに値は張りパーツが多いほどメンテナンスにも手間がかかる。
VRセンターでは無料で貸し出されているのでそれを利用する者も多いが、コストパフォーマンスから実用的な物―裏を返せば装飾パーツが少ない物が揃えられている場合が多い。
また、当初のVRセルは蓋が透明な物ばかりだった。
元々が医療器械であり、外部から内部を見て異常を観察できるようにという配慮からだが、それが裏目に出た。
VRセンターが設置された当初はプール場のように更衣室は別だがVRセルの場所は一括という所が多かった。
その結果、水槽に浮かび時折ピクピクと動く薄絹の人間を見て欲情する者が発生。
VRセルから出たらよくわからない液体を踏んだというのから、ストーカーまでそれに纏わるとされる事件が多発し、一時期VRセンターは禁止された。
禁止が解除されたのは蓋が非透過型のVRセルが開発されたからだが、その後も問題は少なからず生じたので性別で分ける事が義務付けられた。
個室の設置もそれに伴い義務付けられた。
所謂どちらとも言えない者や特殊な事情を抱えている者への対応の為だ。
普通の人間も利用できるが、その場合は時間料金が少し値上げされる。
空いてるブースの1つに入り、生体認証をする。
『認証いたしました。ルームナンバーは108になります。
シングルルートへお進みください』
個室用の扉の前に立つと自動で左右に開く。
中に入ると後ろの扉が閉じ、前の扉が開く。
両方とも生体情報を自動で読み取り、資格ある者にのみ反応して作動する。
不審者などがあればここで排除される。
先へ進むとエレベーターがあった。
呼び出しボタンを押し、暫くするとエレベーターが来たので乗り込む。
行き先は地下1階のみ、少しの浮遊感の後エレベーターの扉が開いた。
そこは幾つもの扉が並んでいる廊下だった。
迷いそうだが案内図に認証すればルームナンバーは提示されるので問題は無い。
まあ、覚えているのだが。
108、ここだ。
掌を押し当てると生体認証され扉が開いた。
自動で開かないのは、近付くだけで開くと色々と問題があるからだ。
中にはVRセルとロッカー、シャワーだけ。
入ると扉は自動的に閉まった。
ロッカーを開き着ている物を全部脱いで入れ、底に設置されているボックスを開く。
中にはVRスーツ、受付ブースで生体認証した際に身体データも読み取って、体に合う物が自動的にこのボックスに配送されるのだ。
使い終わった後、またここに入れれば自動的に回収される。
なぜこれだけの事を知っているかというと、子供の頃VRに憧れて色々と調べたからというのと、このVRセンターが出来た時に1度だけ利用した事があるからだ。
その時やったのはDEEP BLUEというダイビング物だが、やってみてがっかりした。
画像度はそこそこだが粗はあるし、何よりダイビングスーツを着込み酸素ボンベ背負って跳び込まなければならなかった。
そこはVRなんだから素潜りでいいだろう。
最低時間料金分だけやり、さっさと引き揚げた。
それ以降は何一つ手を出して居ないので、ここに来るのは2年ぶりぐらいだ。
VRスーツの首の所を広げ、そこから足を入れていく。
両足とも指を通し終えたらスーツをたくし上げ、両手を通す。
その状態でも体に沿っているが、首のスイッチを押すとプシュッ!と空気が抜け、第二の皮膚の様にピッタリと体に張り付いた。
模様は入っているが装飾パーツは一切無いしっぽ付きタイプ。
準備は出来たのでVRセルに近付く。
蓋を開けプラグを引き出してコネクタに接続する。
中に入って寝転がる。
仰向けになるとしっぽが障るので横向きになる、どうせVR液が満たされれば修正されるのだ。
スイッチを入れると蓋が閉まり睡魔に襲われた。
気が付くと真っ黒な世界、目の前のパネルだけが明るく輝いている。
『本日は当VRセンター“koTan”をご利用いただき真にありがとうございます。
メニューからご利用なさるコンテンツをお選びください』
Chimera Park On-lineを選択。
『そのコンテンツは本日サービス開始ですが、まだ開始時間になっておりません。
それでも選択いたしますか?』
Yesを選択。
『承知いたしました。
時間設定をお使いになりますか?』
VRセンターでの支払い方法は銀行口座からの引き落としだ。
生体認証を使い口座額を確認し、限度近くになるとアラームを鳴らす。
時間設定を使用すると、時間が迫るとアラームが鳴り、その時に継続か終了かを聞いてくる。
終了を選ぶとその設定した時間に強制的に終了しVRセルから排出される。
Yesを選択し、とりあえず最低時間の30分にしておく。
『設定が終了いたしました。
サービス開始時間までスリープモードに移行し、待機しますか?』
Yesを選択する。
『それではスリープモードに移行します』
パネルが消え、意識が失われた。
気が付くと今度は真っ白な空間、手前にはサルとチワワを掛け合わせたかのような変わった生き物が立っていた。
「春野 草太様ですね。
本日はChimera Park On-lineをご利用いただきありがとうございます。
私はキャラクターメイキングのサポート、及びチュートリアルを担当するハルと申します。
短い間ですがよろしくお願いいたします」
そう言いぺこりと頭を下げ、つられて此方も頭を下げる。
「それではキャラクターメイキングについて説明させていただきます。
大まかな流れとしては本ゲームで使用するPCの名前を決め、種族を決め、モードを決めていただきます。
まず名前は何にしますか?」
入力画面が目の前に表示される。
名前は決めてきた。
こうだったら良いなと思っていた名前―蒼。
同じそうならこっちの方が良かった、間違ってもくさったとは言われなかっただろうし。
なお、父親の名前は太陽、母親の名前は嵐、妹の名前は花だ。
もう少し考えて、いや考えたんだろうがもう少し何とかならなかったのだろうか。
読みも聞いてきたので―アオ―と入力する。
「蒼ですね。
…………はい、大丈夫です。登録されました。
続いて種族を決めていただきます。
種族は獣類、鳥類、虫類に大分類され、その下に幾つも小分類があります。
蒼様には、その小分類から種族をお選びいただきます」
事前に手に入れた情報と違うので聞いてみる。
「肉食獣や草食獣とかじゃないのか?」
「β版の情報を調べてきたのですね。
製品版では仕様が変わりまして、初期は《雑食》を取得しております。
また、要望が多数ありましたので初期取得言語は《言語:合成獣》となっております。
他に質問はありますか?」
「…ないな」
「承知いたしました。
それでは種族をお選びください」
パネルに一覧が表示される。
選ぼうと思っていたのは鳥類。
ランダム、ホーク、イーグル、レイブン、スワロー、ガルス…
ランダム?
「これは?」
「ランダムですね。
その大分類に属する種族がランダムで選択されます。
初期に選択できないレア種族になる場合もございます。
ただし、はずれ種族になる場合もございます。
PCの作り直しは現実時間で30日経過しないと行えませんのでご注意ください」
少し考える。
合わなければすぐ止めるし、自分で思惟的に選択するよりも天に任せた方が良い。
ぽちっとランダムを選択する。
「ランダムを選択しますか?」
「…ああ」
「本当に良いんですね?」
「…ああ」
「…それでは、種族はランダムとなりました。
最後にモードを選択していただきます。
モードは不老モードと寿命モードの2種類あります。
モード別の説明に入る前に、共通事項を説明させていただきます。
このゲームでは行動によってステータスやスキル、パーツに経験値が入ります。
例えば走るとステータスのAgiやFS《高速移動》、レッグパーツなどに経験値が入り強化されます。
また、移動の仕方を考えて動いていればMS《高速移動方法》の経験値を取得します。
経験値が一定値以上になればスキルを取得したり、レベルなどが増加いたします。
大雑把に説明いたしますと、ステータスは自分がどこまで出来るか、FSは効率の良い動き、MSはその動きのサポート、FPは部位強度を表します。
ステータスが高ければ色々なことを出来ますが、FSのレベルが低いと動きに無駄が出ますし、FPのレベルが低いと動くだけでダメージを負ったりします。
FSのレベルが高ければステータスが低くてもある程度動け、FPのレベルが低くても損耗が抑えられます。
MSは該当するFSの効果や成長を助けます。
FPのレベルが高ければ、多少の無理な動きが出来るようになります。
また、食事内容によってステータスの上昇のし易さが変動します。
現実に例えると肉を食べて運動すると筋肉が付き易くなるとか、青魚を食べると頭が良くなるとかですね。
これを成長補正と言います。
空腹ですと成長補正はつきませんし、一定時間空腹ですと餓死しますのでご注意ください。
ここまでが共通事項です。
何か質問はありますか?」
「…ないな」
「では、続けてモード別の説明に入ります、と言っても不老モードの方はこのままですので割愛します。
ですので寿命モードの説明に入ります。
寿命モードを選択いたしますと成長補正が増加し、特定の行為継続により取得するFSの条件が緩和されます。
その代わり、寿命が設定されます。
寿命になりますと自動的に死亡し、ステータスが素体値になります。
素体値とはステータス初期値に寿命時のステータスと年齢から算出された数値が足されたものです。
初期状態ではステータス初期値がそのまま素体値となります。
素体値は成長補正に関わります。
寿命はゲーム内時間で30日、ログアウトしてる間は年齢は加算されません。
怪我を負ったり、死亡したりすると寿命が減少いたします。
モード変更は不老モードの場合はゲーム内で30日経過後にいつでも、寿命モードの場合は寿命で死亡後復活した時に行えます。
現在スタートキャンペーン中です。
あなたが利用しているVRセンターは当キャンペーン対象店舗です。
本キャンペーン中に寿命モードを選択いたしますと漏れなくPCの寿命までの無料パスがプレゼントされます」
一も二もなく寿命モードを選択する。
気になった事があるので質問する。
「今のプレイから適用されるのか?」
「はい、適用されます。
寿命モードですね。
それでは最終確認を行います。
名前:蒼
種族:ランダム
ゲームモード:LIFE
これでよろしいですか?」
「…LIFE?」
「LIFEは寿命モードをさします。
不老モードだとNO-LIFEとなります。
他に質問はありますか?」
「…ないな」
「では、これでよろしいですか?」
「…ああ」
「承知いたしました。
それではキャラクターメイキングを終了いたします、お疲れ様でした。
無料パスは当ゲームにのみ有効ですのでご注意ください。
続きましてチュートリアルを始めます。
省略は受け付けておりませんのでご了承ください」
「…ああ」
「PCはシェルターという施設の内部で誕生いたします。
そこから外に出て世界を自由に旅するのが基本的な進め方です。
世界にシェルターはいくつもあり、開始地点となるシェルターは1~9番の中からランダムに選択されます。
シェルターの役割はFSの変更、FPの取得、PCの回復、シェルター間の移動、電脳サーバーへの転移、死亡時の復活です。
FSの変更ですが、例えば《肉食》を取得した場合スキルの固定をしてない場合、《雑食》と入れ替えるか質問されます。
どちらを選択するにせよ、その後シェルターでいつでも入れ替えることができるようになります。
なおスキルを固定しておくと取得時点で質問は出ず、オプションで決められた処理を行います。
質問が煩わしい場合はご利用ください。
FPの取得ですが、GNを消費してFPを取得することが出来ます。
GNは世界に生息する生物やPLを倒す、もしくは現在装備中のFPから時間経過で獲得します。
FPに必要なGNはそれぞれ違い、該当GNが無ければ取得できません。
シェルターではPCの回復も行えます。
回復に費用はかかりません。
FPの耐久度が0%になった場合は部位欠損となり、通常の手段では回復できませんが、これもシェルターで回復できます。
ただし回復した際、該当FPのレベルが1減少いたします。
レベル0になるとそのFPはロストします。
ただし、初期に装備している基礎FP―[A]と記されたFPはレベル1未満になりません。
FPのレベルが10になりますと[A]は外れます。
ロストするとストックにあるFPが、ストックに無い場合はレベル1の基礎FPが補充されてそこを埋めます。
これらは全てシェルターにあるバイオラボで行う事が出来ます。
ここまで何か質問はありますか?」
「…欠損まで行かない障害とかは?」
「はい、ございます。
1つのFPの中でも細かく分かれているので、どの程度ダメージを受ければこうなるとは一概に言えませんが、大体25%刻みで悪くなっていくと思ってください」
「…わかった」
「他に質問はありますか?」
「…ないな」
「では説明を続けます。
一度訪れたことのあるシェルターは相互に転移装置を利用して行き来する事が可能です。
PCは他のPCと行動をする集まり―トループを組めますが、トループのメンバーの中に1人でも行ったことが無い者がいる場合、そのシェルターには転移できません。
また、転移装置からは電脳サーバーにも転移することが出来ます。
電脳サーバーはどこのシェルターから入っても共通です。
シェルターに戻るときは、電脳サーバーにある転移装置を使用します。
電脳サーバーにはバトルスタジアムと課金アイテム販売所があります。
バトルスタジアムは登録いたしますと、登録されているPCをPLの動作を学習したAI―PGが操作するGCと対戦することが出来るようになります。
相手に勝利するとFPチケットを相手との能力差から算出された枚数獲得します。
ただし、ログインしていない時間を含め現実時間で24時間経過しないと勝利しても新たにFPチケットを獲得できません。
また、他のPLのバトルを観戦することも可能です。
課金アイテム販売所ではゲームプレイをサポートする各種課金アイテムが販売されております。
FPチケットもこの施設で使用します。
課金アイテムの代金は無料パスに含まれませんのでご注意ください。
FPチケットや課金アイテムで取得したFPには[T]が記されています。
[T]付きFPは電脳サーバーでトレード可能です。
ただし、[T]付きFPでは装備中の時間経過によるGN獲得は生じません。
電脳サーバーでは、PLは通常のPCの姿ではなく白い人型の影で表現されます。
ここまで何か質問はありますか?」
「…ないな」
この時、何があろうと電脳サーバーには立ち寄らないと強く心に刻んだ。
「では、最後に死亡時の復活の説明をいたします。
PCが死亡した場合、シェルターのバイオラボで復活いたします。
モード変更はバイオラボで行えますので、寿命モードの場合寿命後のこの時点で行えます。
一旦バイオラボの外に出ると次の寿命まで変更できませんのでご注意ください。
死亡時にFPの耐久度が50%未満の場合、該当するFPのレベルが1減少します。
以上がシェルターに関する説明です。
シェルター以外にも復活地点などはありますので探してみてください。
何か質問はありますか?」
「…ないな」
「では、続きまして…の前に、えいっ!」
気合を入れてピッ!と此方を指すハル。
ボフッ!とおれは煙に包まれ、煙が晴れるとハルが巨大化していた。
いや、何か体の感じが変だ。
見下ろすと白い毛に包まれていた。
横を向き手を伸ばすと翼が広がった。
「…これは?」
「カリバードだよ。
というわけでチュートリアル恒例、実際に体験してみよーのコーナーだよ!
ホントならここで選択した種族だよ。
でも蒼様はランダムだから、向こうに行ってのお楽しみだよ。
だから代わりにカリバードだよ」
何かテンションが変化した、もしかしてこっちが素か?
「…わかった」
「それじゃ、まずコンソールを開くんだよ。
開き方はメニュー開けーと念じると良いんだよ」
…とりあえず言われたとおりにやってみた。
すっと目の前に幾つもの項目が表示された。
「それがコンソールだよ。
ステータスとか選んで確認だよ」
ステータスを開くと一覧表示された。
名前:蒼
種族:カリバード
ゲームモード:LIFE
状態:平常
AGE:0D0h
HP:100%
ST:100%
HG:50%
FT:0%
Str:-
Vit:-
Dex:-
Agi:-
GN:
《カリバード》:0
FS:
《雑食》
《移動Lv1》《跳躍Lv1》《飛行Lv1》
MS:
《言語:合成獣》
FP:
《ヘッド:カリバード[A]Lv1》:100%
《ボディ:カリバード[A]Lv1》:100%
《ウィング:カリバード[A]Lv1》:100%
《ウィング:カリバード[A]Lv1》:100%
《レッグ:カリバード[A]Lv1》:100%
《レッグ:カリバード[A]Lv1》:100%
FPストック:なし
称号:なし
スキルを開くとFS、MSに分かれていてそれぞれのスキル説明と、一部のスキルにSASのOn/Offが在った。
パーツを開くと自分の現在の姿が表示され、色の塗り替えやFPの配置などをいじることが出来、現在の状態の登録や初期状態にリセットなどが在った。
またそれぞれのFPの簡単な説明が表示された。
称号、何も載っていないがあまり意味はなさそうだ。
フレンド…遠い言葉だ。
登録した相手に念話出来るそうだが使うことは無いだろう。
トループ、これも使わないだろう。
オプション内部の項目は少なかった。
表現規制の変更、スキル取得時のSASのOn/Off、スキル固定時の取得処理、HPなどの表示の有無、コンソールの表示形式の変更。
表現規制はR―15歳以上対象に既になっていた、生体認証のときにデータ収集したのだろう。
スキル取得時のSASのOn/Off、これはよくわからない。
スキル固定時の取得処理はさっき言っていた通りだろう、今は変更しないとなっている。
HPなどの表示はOffになっている、このままで良い。
コンソールの表示形式は文字フォントやパネルの色などを変更できるが、問題ないというか使うつもりがほぼ無いので放置しておく。
残りはGMコールとログアウト。
デスゲームでも異世界転生でもなさそうだ、使おうとしたときに使えないとかはあるかもしれないが。
と馬鹿な事を考えていると声をかけられた。
「一通り開いたんだよ。
それじゃ、説明だよ。
HPはダメージ受けると減るんだよ。
STは何か行動すると減るんだよ。
この2つは時間経過で回復だよ。
HGも時間経過で増加だよ。
FTは脳の疲労度だよ。
80%超えると眠くなるんだよ。
100%で寝落ちだよ。
AGEのDは日、hは時間だよ。
Strは筋力、Vitは体力、Dexは器用、Agiは敏捷だよ。
なにか質問あるんだよ?」
だよを付けないといけない病にでも罹っているのだろうか?
とりあえず疑問点を挙げる。
「…SASって何だ?」
「スキルアシストシステムだよ。
SASがあるスキルは文字通り手助けしてくれるんだよ。
例えばFS《移動》は歩くのを手助けしてくれるんだよ。
体の違いで無いと大変だよ。
MS《言語:合成獣》は同じスキルを持ってSASを入れている相手と言葉を交わせる様になるんだよ。
無いと動物の言葉解る人じゃないと解らないんだよ」
「…On/Offがあるのは?」
「多くの人には好評だけど、一部の人には不評だよ。
その人たちはSASあると好きに動けないって言うんだよ。
オプションにスキル取得時のSASのOn/Offがあるけど、これもそういう人達の意見から付けられたんだよ」
「…わからないけどわかった」
「了解だよ。
他に質問あるんだよ?」
「…HGって多いと少ないのどっちがいいんだ?」
「HGは多いとだめだよ。
0%が満腹だよ。
100%が空腹だよ。
他に質問あるんだよ?」
「…ないな」
「じゃあ、続きだよ。
FPは合成できるんだよ。
でも[A]付きは合成できないんだよ。
[T]付きを合成すると出来るの[T]付きだよ。
合成すると元のFPのレベルを足して割ったレベルだよ。
端数切り捨てだよ。
一度合成すると元に戻せないから注意だよ」
「…わかった」
「トループを組んでいると倒したとき取得するGNがその人数で分配だよ。
一度に入る量は少なくなるけど、その分楽になるからプラスだよ」
「…わかった」
「それじゃ、実際に動くんだよ。
SASの事も解るんだよ。
じゃあ、お手本バードかもんっ!」
パチンッ!と指を鳴らすと遠くでキランッ!と光が走り、猛スピードで何かが近付いてきた。
背景に溶け込まない黒から灰色にかけてのグラデーション、胸に燦然と輝くお手本の文字。
形自体はさっきパーツで見た自分の今の姿と同じだ。
すたっと降りてハルの横に並ぶ。
「これからお手本バードが動くんだよ。
客観的に見るのも大事だよ。
それじゃ、ごー!」
お手本バードはとてとてと歩き、とんっとジャンプしそのまま飛び立ち、小さく旋回してまたハルの横に並ぶ、それを繰り返した。
「それじゃ、やるんだよ」
言われて歩き出す。
動き自体は自然、だが何だか不自然だ。
その思いはジャンプして飛び立つとますます強くなった。
糸で操られてるかのように体が勝手に動く。
気持ち悪い、胸がむかむかする。
こんなのは自由じゃない。
全部のSASをOffにする。
体の自由が戻った。
途端、バランスを崩し落ちて行く。
翼を一生懸命振ったが、使い方が悪いのか戻らない。
そのまま錐揉みで地上に落下した。
「もうSAS切ったんだよ?!
気が早いんだよ。
でも、勇気あるんだよ。
ここでは寿命もHPもSTもHGもスキルもパーツも変化しないんだよ。
だから、好きに練習すると良いんだよ」
「…ああ」
歩く、それだけでもバランスを崩した。
ようやく歩けるようになったら次はジャンプ。
兎跳びの様にぐるぐるとジャンプだけで移動する。
コツを掴むと、跳んだ時に翼を羽ばたかせた。
何度も何度も失敗し、お手本バードを観察し、何度も何度も試した。
ハルはうつらうつらしている。
途中、アラームが鳴ったが延長を選択し更に続けた。
「うわー、すごいんだよ」
目覚めたハルが見たのは見事に空を舞うおれの姿だった…ちょっと自画自賛過ぎるか。
兎にも角にも、飛べる様になった。
それで、次にどうすれば良いのかわからないので聞いてみた。
「ああ、忘れてたんだよ。
えいっ!」
気合を入れると今度は光の柱が立った。
「チュートリアルは終了だよ。
お疲れ様だよ。
そこに入ると開始地点に行くんだよ」
「…ああ。世話になった」
「ううん、こちらこそいいもの見せてもらったんだよ。
それじゃ、ばいばいだよ」
ぶんぶんと手を振るハル。
翼を一振りして背を向け、光の柱へと向かう。
この先には何が待っているのだろう。
そう思いながら光の柱へ入った。