01-01 当選
いつもHunter and Nature Troopsをご愛顧いただき真にありがとうございます。
このたびのChimera Park On-lineクローズドβのテスター募集に付きまして、日頃ご愛顧いただいている皆様から1万名を優先で募集することとなりました。
応募なされる方は注意事項、公式サイトを良く確認してから応募するようお願いいたします。
なお、クローズドβを体験していただいた方には、漏れなく正式版発売時に正式版を進呈させていただきます。
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「よっしゃああ!!」
受け取った荷物に思わず吼える人間っぽいなにか。
よれよれのでかいシャツに素足、伸ばしっ放しのぼさぼさの髪の毛の奥から喜びに満ち溢れた瞳がギラギラと輝いている。
顔を引き攣らせた宅配便の兄ちゃんが、挨拶もそこそこに脱兎の如く出て行った。
送り元はWA社、D&G社が自社作のLost Edenで大ゴケして倒産した際、そこの有志で結成されたゲーム会社だ。
これだけ聞けば碌な物が出そうも無いと思うところだが、起業してまもなく発表されたHunter and Nature Troopsは従来のMMOを遥かに超える出来だった。
送られてきたのはそこの新作Chimera Park On-line、そのクローズドβ版。
Hunter and Nature Troops―通称HANT、ゲーム自体はシンプルな生産と冒険、世界の大半は未開の地でハンターはそこへ資材を調達しに行くというのが基本だ。
対象年齢は18歳以上、ゲーム内での1日が現実世界での1時間。
他のMMOでよく見かける派手な魔法は無く、それが不満点としてよく挙げられる。
では何が凄いかというと、まず第一がリアリティだ。
NPCは全部AIで本物の人間のように生活している。
一説にはモンスターもAIだという話がある、他のモンスターを襲って食料としている場面などが目撃され生態系を作っている様子があるからだ。
見かけの容量以上の鞄や亜空間収納などは無く、持ち歩くアイテムは全て実際に携帯しなければならない。
モンスターとの戦闘はあまりの凄さに精神的外傷を負った者もいるという。
時間速度が更に上げられたカウンセリングルームでカウンセリングを受けるシステムまであり、それで完治したらしいが。
まあ、ハンターギルドには銀行や時間経過で劣化するが容量無限の倉庫が存在するし、ハンターカードは自分のステータスやスキル、所持品などのデータを確認することが出来て買い物も可能で、集めた素材や生産品の値は自動的に適正価格がつけられ、死亡すれば復活ポイントに全所持品を無くしたインナー姿で戻り、PKすると自動的に賞金首になるし、盗品は全能力や効果、価格などが0になり、モンスターを全滅させても一定時間経過すると何処からともなく集まってくる。垢等の汚れや餓死などはあるがトイレに行く必要は無かったりするのだが。
第二がスキルの多様さだ。
スキルは大別してFSとMSの2つ、その他にTAがある。
FSは行動系で《○○流剣術》や《料理》、《ジャンプ》などが該当、MSは知識系で《薬草知識》、《○○流剣術知識》などが該当。
レベル制で関連するMSが有るとそのFSは上がりやすくなり、SAS効果のあるものはスキルレベル分効果を受ける。
TAはいわゆるコンボや流派奥義などで発動させると設定された連続技などができ、料理のレシピなどもこれに含まれる。
これらの数は膨大で、未だ見つかってないのもあるといわれている。
事実、最近になってようやく見つかったスキルもある。
第三がペット用VRセルへの対応性。
Lost Edenのノウハウを流用しているのか発展したシステムが使われているようで、独自の脳波解析システムとサポートAIを組み合わせゲーム内にペットの人格を作り上げている。
そのことにより、意思疎通をスムーズに行い高度な連携なども可能になった。
また、ペット専用スキルも充実しており、《巨大化》で乗騎にしている者も居る。
第四が自由度だ。
スキルの最大はLv10、だがこのゲームにはその先があった。
それはSASを切ること。
SASは補助輪のようなもの、基礎には良いがその内頭打ちになる。
外す事で応用が莫大な広がりを見せる。
SASで間口は広く、その先は限りなく深い。
ある生産廃人は言ったという、「ここは底なし沼だ。もがけばもがくほど沈んでいく」と。
その他にも色々と在り、HANTは絶大な人気を誇っている。
Chimera Park On-lineはそれらを応用した作品だと期待されている。
今までも似たような作品はあったが、動くだけでも難しい間口の狭いものや、VRの意味がほぼ無いタイプばかり。
公式サイトには多頭、多腕のドラゴンなどが掲載されており、HANTとの連動企画もあるというので期待を否応にも煽る。
気の早い掲示板の住人達が略称はCPOだと決めていた。
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「よーし。さっさと入れて、やるぞぉー」
バリバリとダンボールを破り、中身を取り出す。
説明書とメディアが1つ。
VRセルにセットし、インストールされるまでシャツを脱いで裸で待機。
そうこうしていると電話が鳴り始めた。
無視を決め込んだが鳴り止まない。
意を決して電話に出る。
「うっせー、馬鹿」
―プチッ。
切って直ぐ、また電話が鳴り始める。
掛けて来ている人物の名前を確認すると、一番しつこい奴だった。
相手しないことには終わらない。
「ちっ、仕方ねぇ。……んだよ、こっちは忙しいんだ!」
『あのな、ノビ。まずは相手を確認してから電話に出ようよ。いきなり「うっせー、馬鹿」は無いだろう』
「うっせー、馬鹿。っつうか、いきなり説教からってお前は俺のおかんか!」
彼の名前は佐原 真治、幼馴染でゲーム仲間。
HANTでは[ゼンというキャラクターで、初心者ハンターの引率クエストをよくこなしていた面倒見の良い青年である。
『でもな。こういうのは気付いたときに言って置かないと、後々困るだろう。
あっ、そういえばちゃんと飯食べてるか?歯磨いてるか?風呂入ってるか?服着てるか?
お前はそういうの面倒臭いってすぐサボるだろう』
「……切っていいか」
『あっ、ちょっ、ちょっと待て。あれだろ、お前が忙しいのってあのクローズドβだろう』
「判ってんなら掛けて来んなよ!」
『いや、おれも当たったから一緒にやろうかと思ってさ。どれやるか決めた?』
「…んなもん、決まってるだろ」
『了解。あっ、そうそう…』
「何だよ、まだあんのかよ!」
『クローズドβは明後日開始だから、今から裸待機しなくていいぞ。じゃあな』
プチッと電話が切れる。
顰めた顔で切れた電話を見つめ、ガシガシっと頭を掻くと立ち上がり、台所へ向かう。
冷蔵庫を開け、卵と牛乳を取り出して飲み、野菜を適当にかじる。
彼女の名前は結城 野美人。
野に咲く花のように美しく逞しく生きて欲しいという願いが込められているが、どう育ったかは推して知るべし。
HANTでのキャラクター名はやじん、通称を森奥の原始人という。