《勝ち負けだけでなく 前編》
《#40 勝ち負けだけなく 前編》
“・・・・を・・覚まし・・?”
その声は文字通り、俺の体を駆け巡るように唐突に響くと、それまで途切れていた意識を急激に引きずり上げる。
(・・・・・誰だ?)
感覚的に耳を通して聞こえるものではないのは確かだ。だとすれば俺自身が作り上げた妄想の産物か、はたまたただの幻聴か。可能性としては後者の方が大きい気がするのだが、何故だか確証もないのにその声をただの幻聴と割り切ってはいけない気もする。
とにかく相手がいるのならまずは誰かを見定めないと。
そうしてゆっくりと開けた視界には一面の暗闇が支配しており一瞬自分が本当に目を開いたのか疑問に思ってしまう。しかし手のひらを顔の近くまでもってくると、ハッキリではないがボンヤリと輪郭が確認できたのでとりあえず目は空いているようだ。
そうとなれば次に沸く疑問は言うまでもない。
(ここは・・どこだ?)
そもそも何でこんな訳のわからない場所に立っている?いや、正確に言えば立っているのはなく“ただ居る”と言ったところか。地面はおろか足が地に接地している感覚すら感じていないのだから。
どちらにせよ置かれている状況が全く分からない。
「使徒にでも連れてこられたのか・・・・?
・・・・・使徒?」
自ら発した言葉に引っかかりを覚えて眉を潜める。
使徒、使徒、使徒・・・・。
使徒という言葉を復唱する度に脳裏に危機感に似た焦燥が走り、やがて曖昧だった記憶と意識はこの空間に辿り着く以前のものへと繋がった。
「っ、そうだ!」
俺は彼と・・・サートとリーバと交戦していたのだ。そこに櫻井が現れて・・・・そして気づいたらここに居る。
しかし覚醒した意思は自身の置かれた状況よりも直ぐさまずっと腕の中にいた筈の連雀が居ないという違和感に気付き、思わず手のひらを見つめた。
「連雀がいない・・・
あいつ今度はどこに行ったんだ・・・?」
きっと契約者の為といってまた無理をしているに違いない。
その心意気には感謝するが怪我でもされたら俺の心臓に悪いだろうが。仮にも契約者だというのにその存在を振り回す主というのもどうなんだろう。少なくともそんな関係なのは俺の知る限り櫻井と雪音さんだけだ。
ともあれ今は彼らよりも連雀を探す方が優先だろう。もちろん探すと言ってもここがどこなのかも分からないのだから無計画に探し回っても骨折り損回ってもになるのは目に見えている。それなら手っ取り早く神器を展開した方が早い。
「白桜を――」
首からかけてある十字架を模した形で待機している自身の神器・・・白桜を呼び出そうとした矢先に気付く。
「―――ない?」
無かったのだ。
影も形も。
咄嗟に手を首筋に回してみるもののある筈のチェーンの感覚も無い。服装は変わらず制服だというのに肝心の存在が存在しない。
「そんな・・・さっきまで展開してたのに」
俺の言う“さっきまで”が実際の時間でどれほど前なのか、それは不明だったが確かめる心の余裕がある訳もなく、ただ呆然としながら「なぜ・・・?」と呟くしかできなかった。
そもそも記憶が正しければ俺は白桜を纏ったまま意識が途絶えた。なのに気がついたら解除状態でした、とは何の冗談だ?それとも契約者の気を失うと自動でパージしてくれるのか?
文句を言った所で手元に神器が戻ってくる道理はないのだがどうにもこれは納得できない。
「・・・・・・・」
とにかく今把握できているのは理解できない場所に放り込まれた事と白桜、連雀の消失。
普通に考えれば何らかの原因で俺は敵に捕まって神器を奪われて放置された・・・と見て間違いないのだろうが自分の知りえない内にここまで事態が悪化しているのは妙に受け入れ難くて他人事のように思えて現実的な焦燥感を感じられない。
「・・・・それでも」
だというのに、俺は宛てもなく歩き始めていた。
理由らしい理由などない。あるのはあの時と同じく連雀を探し出すという使命感にも似た願いだけ。
もし彼女がここに放り込まれていたならきっと俺を探している筈だ。ならば俺も一緒に探した方が幾分か遭遇率は変わるし、恐らく俺の知らない情報も持っているだろう。
別に俺が連雀と会いたいという想いではない。
そう思っていると自負しているのだが、どうしてか思考を放棄しても次に歩き出す瞬間には彼女のことが脳裏をよぎる。
「鮎菜じゃないが、俺も女の子を理由に動くように育った覚えはないんだがな」
“私ね、幼なじみの前であっても人目気にせず抱き合う男の子に育てた覚えないよ?”
鮎菜に言われた言葉を思い出して苦笑を漏らすと、それと同時にその発端とも言えるだろう連雀の抱擁も一緒に再生されたので、すかさず頭を振って再び思考をクリアにする。
現在必要なのは連雀を探すことであって思い出に浸ることじゃない。
一旦足を止め、自身を落ち着ける意味も込めて目を瞑りながら大きく深呼吸する。
「・・・・ふぅ」
それまでごちゃごちゃに置かれていた情報や感情を整理し、ゆっくりと目を開けてあらためて周囲を見渡す。
辺りはそれまでと変わらず真っ暗。若干目が慣れてきたといっても先は全く見えないし、歩いているという距離感すら掴めない。せいぜい自分の体を確認するのがやっとである。地面など無いと言っても過言じゃない上に視界に自分と黒以外のものが映らないのでヘタをすると上下平衡感覚がおかしくなってしまいそうだ。
今更ながら長時間この場所にとどまるのは精神衛生上よくないことが嫌というほどよく分かる。さっきまでは色々と考え事をしていたから気にしてなかったかもしれないがこの空間にまともに向き合うのは危険だ。
となれば連雀とて同じ環境に置かれていることになる。使徒が精神面でも人間より優れているなら話は別だが・・・。
「・・・行こう」
どっちにしろ俺一人じゃどうすることもできない。
“・・・ター・・”
「っ!!」
と、歩を進めようと踏み出した矢先に声が聞こえ、すかさずバッと振り向く。いや、後ろから聞こえた訳じゃないが目の前に居ない以上は振り返るだろう。
加えて言えば俺の耳がぶっ壊れていないのならその声は前でも後ろからでもない。声の主は違うが最初に聞こえた時と同じように空間に響くように聞こえたのだ。
そしてそれは聞き覚えのある声音であった。
「連雀っ!?」
どうして、などと問うつもりは毛頭無い。いや正確には真偽を気にすることすら考えなかった。
“・・・スター!”
「間違いない・・・!」
再び反響する声で俺は彼女の声を確信する。
言葉自体は途切れて全体は把握できなかったが、語尾からして「マスター」と呼んだのと叫ぶような声の調子からして安心できる状態ではないのは理解できた。
「連雀!おい。どこだ!?」
たまらず上を見上げて叫び返すが返事はなく、俺の声は闇に飲まれて反響することなく霧散する。
「・・・くそっ!」
いつもなら間髪入れずに「はい、マスター」と返してくる癖に・・・逆に言えばそれすらできない状況なのか・・・!
焦燥を通り越して危機を感じ始めた体は心境に呼応したのか頬に汗を伝わせた。
一刻も早く抜け出さなければ、と前方に出口があるのかも分からないまま俺は走り出す。
もしかしたら反対方向に走っていうのかもしれないが悠長に待っていることなどできない。
「くそっ・・・くそっ!」
さっきとは打って変わって一歩踏み出す度に彼女の置かれた状況を最悪の形で予想してしまい、やはり頭を振ってそれを否定し続けた。
守ると決めたのだ、俺なりの日常を。たとえ形が以前とは違って普通の人が定義する日常とはかけ離れてしまっても、俺がそこにいる限りは絶対に。
(俺はお前を・・・・)
歪んでいたって構わない。彼女が俺の日常を非日常へと変えた象徴だろうと俺は―――
「連じゃ――――!!」
「ぐはっ!?」
突如、暗闇に包まれていた視界が一気に鮮明となり、視界だけでなくボヤけそうだった意識を盛大にたたき起こす声が耳朶を打った。
「あああぁぁぁぁ!!目、目ぇぇ!!」
「悠斗・・・大丈夫か?」
「放っておけ月城」
聞き慣れているいくつかの声達が俺の視界の外で発せられているが唖然としている俺はその方角へ顔を向けることもしない。天井へ腕を上げたままただ口をポカーンと開けてこの事態を整理していたのだった。
これは・・・・・つまり・・・。
#40 前編 完
《#40 勝ち負けだけなく 中編》
初めましてOrお久しぶりです、主のもっちです(;゜Д゜)
もはや更新が遅れたことのお詫び以外語ることはさほどありません・・・。ともかく明日にはもう1話上げる予定です。
あと余談にもなりませんが今後は前、中、後編のような分割率が上がると思います。(け、決してタイトル案が足りない訳ではないですよ・・・!?




