《肩を並べて 後編》
《#38 肩を並べて 後編》
「切り札・・・?」
ビットを周囲に展開させているサートから目を離さず近付いてきた副会長はとびっきりの切り札があると言い、櫻井を彷彿させるように自信有り気な笑みを浮かべた。
「あぁ。確実と言える代物じゃないけど、やってみる価値は十分あると思う」
「それは一体何なんでしょうか?」
藁にもすがる思いという程の精神状況ではないが勝機があるのならやってみるしかない。爆弾か、あるいは神器にとって致命傷となる物か・・・。突拍子もないアイデアだが櫻井や鈴などの契約者が協力していた神岸グループなのだからそういったカウンター兵器が用意されていても不思議じゃない。
顔を見合わせて互いにクエスチョンマークを浮かべる俺達を余所に機体のステータスパネルを操作しながらある武器を選択した彼女はそれまで持っていた2丁の射撃武器を量子解体する。
「詳細を説明している時間はない。
私が“コイツ”で奴の動きを止める。だから藍川は準備が整うまで注意を引いてくれ」
そう言って呼び出した武器は味方の筈の俺でさえ息を詰まらせる程の大きさを持つ巨大なランチャーだった。多分巨大さだけなら櫻井のレーザーブラスターをも軽く凌駕してしまうだろう。
「お、大きい・・・ですね」
砲の先から後部までをまじまじと見ていた連雀を習って俺もよく見てみるが、やはりデカイの一言につきる。
砲身というか銃身自体も長いし外見から見るにとても片手で扱えるとは思えず、固定用なのかトリガーの他に銃身の一部にこれまた大きいサイドグリップが取り付けられていた。いやそもそも人間より大きい腕を持つ量子兵器が掴むのだからグリップは大きくて当然か。
ともかく、そんな量子兵器と比較しても尚更巨大で2メートル強はあっても驚かないだろう。
そんなランチャーを担いであらためて上を見上げる副会長の挑戦的な視線の先には、勿論サート。
俺も彼女の視線を追って振り返ってみるが、彼はというと驚いているものの竦んだり怯んでいる風は見られない。どちらかというとポカーンとしており単純に予想してなかった、とでも言いたげだ。
そりゃそうだ。俺だって夢にも思わなかった。
「この“レーザー・メガブラスター”なら神器相手でも相当の火力を発揮できる筈だ」
名前だけでも相応の威圧感がある。
「これなら・・・!!」
確かにこれならば勝機は見いだせる。いくら量子兵器といえどここまでの外見で実は火力不足でしたー、なんてことはないだろう。
「勝てる・・・と言いたい所だが、この武装もこの機体もまだ試験機の域を出ていなくてな。いくらなんでも前線で戦い続けるのは無理なんだ」
「え?」
が、レバーから手を離して頬をポリポリと掻く副会長の言葉で俺の思考は一気に凍りつく。
「え・・・え?」
勝てる要素をもつ兵器だが前線は無理。
つまりそれは・・・・
「・・・注意を引くというか、しばらく俺一人であの神器と戦えってことですか?」
「・・・・・あぁ」
肯定した。何か妙に勝ち誇った感じでフッて笑ったぞ。
前にあの本を貰った時も思ったのだがどうしてこの高校はまともな人格者がトップにたたないのだろうか?
「お前が言いたいことは口にしなくても察しがつく。しかし他に方法がないんだ、諦めろ」
「いやでも――」
言葉は簡単だがそう上手くいくのか?ここまで平然と言われてしまうと逆に怖い。
尚も食い下がろうと、準備を始める副会長の量子兵器の副腕を掴んだ俺は彼女の言った単機での陽動に疑問を投げつけようとするが、その手が逆に掴まれてしまう。
「ちょ、何を?」
「藍川」
と、先ほどまで「やって当然」だと言わんばかりだった副会長の視線が普段以上に真面目なものになって真っ直ぐに俺の視線を捉え、俺は掴まれていた手を振りほどくのを止めた。
「お前は言った筈だ、『自分のやり方で守っていく』と」
「それは・・・・」
“大丈夫だ、後悔は・・・しない。
櫻井の説明を聞かなきゃ決められないけど・・・・俺は俺なりの考えで日常を守っていこうと思う”
確かに俺はそう言った。
あれは虚勢か?いや、そんな訳ない。
「マスター、私だって傍にいます。きっと出来る筈です!」
腕の中の連雀がそう言って笑顔を向ける。多分なんだかんだでコイツだって怖いだろうに。
一人じゃないから、俺の為に、裕雪の為に、頑張っている。それなら――
「俺は・・・・」
とっくに答えは出ているのだ。ただそれを認められなかっただけ。
ここまで散々迷って、悩んで、説得されてきたというのに、結局は単純極まりない理由に行き着くのは俺が馬鹿だからか?
まぁ、それも悪くない。
「やります」
「ん、いい返事だ。その潔さが悠斗にもあれば楽なんだがな」
険しい表情をようやく緩ませた副会長はブラスターの銃口を下に向けながら下降していく。
「そんなに潔くなんかないですよ、今だって引き返そうとしている俺は心の中にいますし」
戦うことは誰かを否定すること。そんな事情に正義も理論もへったくれもないし、言うなれば全て悪と例えても差し支えないだろう。
だから苦しんだ。誰かを力で否定してしまうのが、殺してしまうのが。
加えて言えば平等ではない一般人では叶えられない願いを可能にする程の神器の力が俺の罪悪感を募らせていき、力を行使することを躊躇わせる。
「だがお前はそこにいる。苦しい選択から逃げずに選んだんだ」
「・・・・連雀がいるから・・・じゃないかな」
既に俺の声が届かない位置にまで降下していた為最後の言葉は伝わらなかったものの、それは俺自身の意志を固めるには十分だ。
一度深呼吸してフレームハートに込める意志を強くすると、連雀の表情をもう一度伺う。
「・・・・・・・」
「・・・・・行きましょう、マスター」
「・・・あぁ」
相変わらずと言うべきか先程と変わらない笑みで俺の視線を受け止める彼女の対応を最後に、もう何も言わずに機体を上昇させてサートを目指す。
「最後の挨拶は済みましたぁ?あんまりに長いんでこっちが眠たくなりましたよ」
「それは悪かったな」
どうやら俺達の準備が終わるまで待っていたようだが、生憎感謝の気持ちを持ち合わせる気はない。
むしろ彼が待っていた時間は準備や挨拶というより俺の決意を固める時間といった方が正しい。
せめて返すなら感謝の言葉よりもその時間で得た俺の意志の強さだろうな。皮肉な表現は好きじゃないが彼の余裕から生まれた配慮が自身を追い詰める結果となるならまさしく皮肉、というべきだ。
ステータスパネルから冷却を終えたASライフルを再び具現させ、通常モードのまま撃ちながら近接戦の為にヴァリアブルシールドの使用を意識する。
「では、これで今日は最後にしましょうか?」
それまで不快な顔しか表さなかったサートは口角を下げながら目を細めると、機体を左右に振ってASライフルのレーザーを避けてかざしていた手を振り下ろした。
呼応して動くのは言わずもがな大量のビット。いくつかは落としたとはいえ元々数で勝るサートの神器だ、視界に入るだけでも未だ数は多いと思える。それらは一斉に散開しつつ縦横無尽に空中を駆け巡りながら的確に俺の周辺を包囲しようとしていく。
そういえば今までビットの相手をしていた鈴はどうなったのだろう?
(落とされた・・・とは思えないが)
残念ながら気迫とは裏腹に俺側にもどこにいるか分からない鈴を探す余裕はないので今視線を地上には下ろせない。ここで気を逸らせば一瞬で畳み掛けられかねないし、それでなくてもあっちは簡単にこっちを落とせるのだ。集中すればこそ、注意を削ぐ理由など無いのは明確。
「マスター、今笹川さんのことは・・・」
やはり読まれたか。
「分かってる、今は戦闘に集中するさ」
ビットの作る包囲網が完成する前に逐一機体を動かして近場のビットに向かってエネルギーソードを振り下ろす。
勿論その斬撃は容易く回避されるが、振り下ろした動作のまま後ろへ振り向いて隙を突こうとする別のビットへASライフルによる牽制射撃で上手く死角を補っていく。
とはいえそれは既に試してある迎撃択である上に通用しないのも分かっている。これでは陽動のスタートラインにすら立てていないのだ。
だから加えるべき要素がある。それは・・・
「連雀、今だ!」
「分かりましたっ!」
ビットとビットが動き、それぞれの役割の為の位置調整を行おうとする僅かなタイムラグを狙い、俺は連雀にその起動を促した。
いくら自立兵器とはいえ所詮は動く物。刻一刻と変わる戦況の中ではどんなに尖った強力な兵器でも攻め際と引き際を見極め、対応を変えなければならない。いや、尖っている性能だからこそ立ち回りというのが重要なのだ。
しかし逆を付けば対応に要する僅かな間隔は一種の弱点と言える。そこを突いた。
「バイヨネットアンカー、行って!!」
連雀の声が機体に届くや否や腰に収納されていたバイヨネットアンカーは素早く機体から切り離れて飛び去る。大型の分サートのビットのように細かな挙動こそ難しいので素直に真っ直ぐ飛んでいくが、速さは比にならない程だ。神器の副腕を急襲した時にサートが対応できなかったのも頷ける。
つまりそれほどの性能はあるし、サートも見過ごすことはしない筈。これが陽動するにあたって俺の出せる重要な切り札。
加えて言うなら細かい動作が不得意といっても不可能ではなく、サートを狙うバイヨネットアンカーを邪魔しようとビットや彼自身から放たれるレーザーを鋭角な動きで避けている。
「悪いがバイヨネットアンカーは任せるぞ?」
即座に落とされそうなら援護も考えるが現状でそうなりそうな点は見当たらない。
アンカーの操作を連雀に丸投げし、俺は再びビットの攻撃に移る。仮に陽動でも1つでも多く破壊することに越したことはないだろうしな。
砲撃型ビットからの攻撃をヴァリアブルシールドで受け止め、防御した合間を縫って背後から接近した近接ビットへ振り返りながらエネルギーソードを一閃させて弾き返す。
次にあえて機体のエネルギーシールドを利用しての接近戦。その次には回避に専念しつつ全てにASライフルを掃射したりとモーションと迎撃策を読まれないよう機体全ての武器とシステムを駆使してビットの猛攻をやり過ごしていく。
その間にも連雀の操るバイヨネットアンカーはサートの意識を惹きつけており、こちらからすれば文字通りの総力戦と言えた。
恐らくもう同じ手は通用しまい。こちらの手は全て出尽くしたのだ。
残る切り札は・・・レーザーメガブラスター。
(任せましたよ、副会長・・・!!)
視線こそ下ろせないので地上でどういうやりとりが行われているか不明だが、俺の知らない所でその準備は完了しようとしていた。
#38 完
《#39 一抹の終わり 前編》
ども、主のもっちです。
特にこれってのは無いのですが、詩織の量子兵器搭乗ということで今週辺りに設定欄に量子兵器が追加されるかと思います。




