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天使の1ページ  作者: もっち
本編
65/82

《一人ではできないこと 前編》

《#36 一人ではできないこと 前編》



(なん・・・だ?)


既に戦意を半ば失いかけていた自身の感覚の中に真新しく、鮮明な違和感が入り込んでくる。


(―スター―!)


いや、自分の中に新しい存在が介入してくること自体はバイヨネットアンカーの初期動作の時点で感じた覚えがあった。

だが今駆け巡ってきたそれは神器の接続や武器の専用バイパスなどとは異なり、機械的でない意思を持っているように感じられる。


(マ――タ―!)


むしろさっきの使徒との戦闘時に起きた「体が思った風に動かない」という状態にも似ていたが、こちらは不快感は感じさせず文字通り存在だけを主張していて妙に安心できる居心地の良さを与えている。

その為、目の前でサートがレーザーライフルを構えているにも関わらず俺の心は恐怖と一緒にそんな暖かい存在に身を委ねて、数秒後には訪れるであろう“死”に対しさほど怯えはしないでいられた。


(あぁ、死ぬ・・・のか、俺は)


フワフワとした心地良い気分に乗せられている情緒は自身の末路すら他人ごとのように考えてしまう。

もちろん死を軽はずみに捉えているつもりはない。でもこんな気持ちで終われるなら悪くはないだろう。これで戦いが終わるなら―――


(マスターッ!!)


刹那、抱いていた違和感がより強く存在を大きくした。


(――――!!)


その聞き慣れた声が・・・「一人ではない」と、俺を理解してくれた彼女の声が体を巡る違和感と共に響いた瞬間、ほぼ無意識に白桜の操縦を担うレバーを動かす。


理論や道理でもなく、本能的に今までよりも強く生きたいと願った意識は操縦だけでなくフレームハートを通じて機体を動かし、発射されたレーザーを紙一重で避けると回避動作そのままにデストロイモードのASライフルのトリガーを引いた。

余りに無茶苦茶な姿勢で撃ったこともあって機体は反動で大きく後退していくが視線はサートから外さずに制御に務め、続けてエネルギーソードを構えてレーザーを避けたサートへ前進する。姿勢が安定していないままで加速をかけた白桜の軌道は真っ直ぐではなく螺旋を描いていたが知ったことではない。


「うあぁぁぁぁ!」


俺は生きる。

そんな脅迫概念にも似た感情が体を突き動かし、実力の差という天秤を唾棄し、獣の思考で敵へと襲いかかる。

戦況を分析すればどう足掻いても負けの2文字しか浮かばないのだ。その為、思考することはほぼ捨てていた。


「やれやれ、大人しく死ぬかと思えば次には捨て身・・・引くも押すも諦めの悪い人ですねぇ」


回避を終えたサートは心の底から呆れた表情を浮かべながら急接近した俺にレーザーライフルを向けて躊躇なく発射する。斬りかかる俺への迎撃・・・なんてことはない何度も見た光景。

が、一つだけ勘違いしている。

本能任せと捨て身は異なるのだ。


普段ならシールドで防いでいるような距離だったが今回は撃たれたレーザーを上半身を仰け反らせて見送り、そのまま機体を宙返りさせて正面に向き直りながらエネルギーソードを振るう。

地上では宙返りの時点で頭を地面にぶつけて終了だったろうが生憎ここは空中だ。


「む・・・」


向けられたソードをエネルギーシールドで防ぎつつ多少なりとも対応が予想外だったことに驚いているような素振りを見せると、距離を稼ごうと機体を後退させながらライフルをもう一撃放つ。

相反するエネルギー同士の干渉は出力がほぼ互角であった為、サートが大人しく引いたところで俺打ち勝ったという訳でもないし、またそれまでの加速が失われないなんてこともなく相応に俺も後ろへ弾かれていく。

それでも攻めるのを捨てられない俺は崩れた姿勢のまま背面ユニットのスラスターで前へと進むと、進行方向からは牽制で放たれたレーザーが迫っていた。

おそらくなんの加速もかけていない機体ではさっきのような回避は不可能だろう。間違いなく防御が必要になるがそれで距離が離れたら意味がない、だからこそ。


「・・・・・・」


弾かれていたエネルギーソードを無理矢理振り下ろして眼前に迫ってきていたレーザーを打ち払い、明らかに驚いたサートへ更に加速していった。


「やぁぁぁ!」


それ以上何か牽制する暇は与えず突っ込んでいきながら今度はソードを突きの体勢にして迫り、再びシールドに干渉する。

エネルギーに圧力が関係あるのか不明だが突きという状態でも突破できないとなるとやはりこの機体でエネルギーを削るという目的以外で近接戦闘に執着するのはよくないようだ。

チラと視線を上げればサートがやはり驚いた表情でこちらを見ているが白桜にもシールドが装備されている手前あちら側としても決定打が見込めない攻撃は不用意だと感じているのだろう、ライフルを構えたままで視線が合う。


先ほどサートは俺が捨て身だと言ったが実際には違う。

状況に対し見て見ぬフリをしていてもただ勝つ為に本能を研ぎ澄ませた状態を捨て身とは呼ばない。


「これさえブチ破ればっ・・・お前を!」

「おやおや、怖い怖い・・・!」


それは一種の興奮状態といった方が正しいだろう。

執念と呼ぶにはいささか失礼かもしれない。

目を見開き、並々ならぬ形相でエネルギーソードを食い込ませようと躍起になっている俺は進行を阻むエネルギーシールドへと視線を移して憎々し気に睨むが、そこに気を取られたせいでサートが後退しようとする動作に気が付けなかった。


「ちょっと人相変わりすぎやしませんかぁ・・・?」

「黙れ!」


いきなり下がったこともあってまさしく暖簾に腕押しと言わんばかりに前方へ大きく姿勢が傾いてしまい、サートが撃ったレーザーに回避する余裕を失ってしまう。

といった所で、結局もう一度打ち払えばいいだけだ。なんてことはない。


「うっ!?」


冷静に事態を捉える本能に任せてエネルギーソードを構えようとした矢先、そのレーザーは真っ直ぐにヴァリアブルシールドの防御面へと当たってその動作を封殺された。

それも1回ではなく、立て続けに放たれては全てがシールドを狙っているようで身動きができないまま後退を余儀なくされていく。


「くっ、逃がすか!」


当然黙って見過ごすことはせずに再度加速をかけようとしてみるものの初速を出した時にはレーザーが機体を揺さぶって上手く速度を出すことができない。


普通に考えれば双方が微動だにしろ動いている最中連続でピンポイントにシールドを狙ってくるなどそうそう出来ることじゃない、と思いたいが相手は空中で動き回る鈴のストライクアンカーを難なく撃ち抜き、背中を見せたまま後ろのビットでバイヨネットアンカーを無効化してみせた存在だ。恐らくこの程度は朝飯前といった所か。


最短とはいえ打ち払いは不可能。

ようやく頭が追いついてレーザーをエネルギーシールドで防いだ頃には既にサートは近接距離からは離れた場所に移動していた。


「・・・見くびれば予想以上に動いて、警戒すれば拍子抜けするほどに弱く感じられる。面白い方でしたねぇ」

「でし“た”で勝手に過去形にするな」


言うが早いかASライフルをサートに向ける。

変わらず減らず口を叩いている俺だが内心はそんなことを言っていられる状態じゃなかった。

距離が詰まった時点でサートが引くという選択をしたことはやはりあの神器本体に近接兵器はないとみて間違いない。だというのにアッサリ引き離され、追撃もできずにせっかくのチャンスを不意にしてしまったのだ。焦燥に駆られるのも仕方ないだろう。

その証拠に既にデストロイモードは2発発射して冷却していることを知っていたのに彼に向けてトリガーを引いている。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


なんの抵抗もなく引けたトリガーは銃口から発射されるレーザーの代わりにカチンと間の抜けた音を発射した。


「・・・・・・」

「・・・・・・ふふ・・ふふふふふ・・・!」


顔を逸らして明らかに笑うのを我慢しているサートだったがどうにも耐えられなかったらしく、次の瞬間には声を上げて笑い出す。


「ふははははっ!それは・・・!!ふふ・・・!何のっ冗談ですかねぇぇ?」


正直俺も聞きたい。

自分の神器の武器がもつ特徴なんて契約者(マスター)の俺が一番熟知してなきゃおかしいだろうに。いや、知っていたのにこの醜態を晒した方がむしろ恥ずかしい。

加えて少なからず羞恥にまみれる心はさっきとは打って変わって戦局を冷静に判断させてくる。

その判断がやはり勝てないといい結論を体に訴えており、脳裏に過ぎる抗うことで無惨に殺される結末を思うと嫌って体が戦うことを恐れて力が抜けてしまいそうだ。


最初はイケると思ってみたが冷静にやってみれば無理ではないかと思える辺り感覚的には実力不相応の学校に受験を挑んだ気分である。

ちなみに俺はそれほど勉強ができるタイプではないが当時の青波は企業が敷地に介入しているという点で敬遠されていてそれほど倍率が高いわけでもなかったので難なく入ることだできた。ところが今ではテストケースとはいえ最新鋭の設備をどこよりも早く体感できる高校ということで中々入るのが難しいらしい。


「ふふふふふ・・・まぁ?それほどの高火力火器が何発も連続運用できたら怖いんですけどね?」


ハッとするとサートがクククと笑いながらロクに照準を定めないままレーザーライフルを放つ。

距離が空いているのも幸いして今度はシールドを構える暇はあったが、向けられたレーザーは俺の足元を過ぎていった。


「お前・・・!」


視線をレーザーの残滓が舞う足元からゆっくりと眼前に向けながら目尻が上がるのが自分でも分かった。

当てようと思えば当てられただろうに。わざと外したのではないかと思えてつい口まで荒くなってしまう。


「本っ当に面白い方ですよ・・・!」


冗談ではない。心から笑っているように見えるサートは今間違いなく適当に撃ったのだ。

それが何か深い意味を持つわけじゃないのだろうがこの切迫していた空気で適当に攻撃することにはやはり怒りを禁じえない。

下がり始めていた闘士が再び燃え上がっていく。


(やはりコイツだけは―――!

―――?)


しかし完全に火がつきそうになった瞬間、唐突に自分の語った言葉に違和感を覚えて思考が止まった。


やはり・・・?とはどういうことだ?


違う、再認識する形で決意したことは全く疑問にならない。

問題は何故また戦おうとしているのか、だ。ほんのついさっき俺は「勝てないから」と諦めたではないか?なのに・・・


(俺はどうして・・・?)


記憶を探りその答えを知るよりも早く、“バイヨネットアンカーが動いた”。


「っ!?」

「なに!?」


それまで操作線である有線を切られて横たわっていた筈のアンカーが今までよりも圧倒的に速いスピードをもって飛翔していく。

接近に気付いたサートも同じく素早くレーザーライフルを構えたがそれよりも寸分早く、アンカーはその先端をクロー状に展開させて空いていた副腕へと噛み付いた。


「はやいっ?」


反撃する間など与えず即座に内部に装備されている銃口から熱線を吐いたアンカーによってサートの神器の片副腕は獣に噛みちぎられたように離散し、反撃によるレーザーライフルをたった今手に入れた副腕を投げてシールド代わりにしてその場から離脱する。


「なん・・・だ?何が起きてる?」


僅か数秒の出来事。しかしそれは俺の怒りを吹き消すには十分だった。


『マスター!!』


すると頭の中に彼女の声が響く。


「っ?連、雀・・・?」

『良かった・・・!ようやく接続できたんですねっ』

「は?接続?お前、何言って――

くっ!」


頭に声が通るとは何とも言えない感覚だ。

しかしどうやって?

と聞く余裕もなく、白桜に向けて撃たれたレーザーをジャンプで避けるとサートは更に接近しながら連続で発射してきていた。


「これは迂闊・・・まさかあの出力が無線で使用可能だとは思いませんでした」


その目は先ほどまでの軽快な様子は皆無で、照準もまたキチンと俺に重ねてあるのが分かる。

損傷を与えたはいいが、なんだか怒らせてしまった感が否めない。

とにかくこのまま接近させてはマズイ。接近戦が得意でないあの機体で距離を詰めてくるということはサートも相応にこちらを堕とす気だ。

ジャンプの動作を利用してそのまま白桜を上昇させ、後ろに回り込もうと彼の頭上を大きく超える。


『詳しいことは後で話します。ですから・・・』

「それを置いておくな!こっちとしては何が起きているのかサッパリなんだぞ!?」


下から襲いかかってきている無数のレーザーを器用に避けつつ怒鳴り散らす。悪いが他の奴と訳の分からん会話しながらレーザーを避け続けるのは思った以上にキツいんだよ、分かってくれ。いや分かれ。


『ご、ごめんなさい・・・・』

「・・・・・・で、一体何がおきてる・・・!?」


俺の反応を素直に受け止めてしまう連雀の口調は会話越しでも表情が読み取れるほどに落ち込んでしまうが、やはり気にかけていられない。


『あ、はい。では手短に説明します。

今私はフレームハートを媒体に契約者(マスター)(オーナー)のバイパスを利用してマスターに話しかけているんです』



#36 前編 完


《#36 一人ではできないこと 後編》

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