《絡み合う因果 後編》
《#33 絡み合う因果 後編》
「あの・・・神器は」
見間違える筈もない。篠崎の朱羽と櫻井の神器みたく似たようなウイング型というならまだしも前方から迫ってきているその機体は今まで見てきたどの量子兵器よりも特徴的な背面ユニットだったからだ。
羽であることは間違いないが実際あるのは4本の骨組みだけ。それらの間からは粒子が放出されており、そこまで理解してようやく羽と呼べる代物だろう。
羽と言っても様々で天使がもつ白い翼から神器のような機械翼もあるが、彼の神器は言うなれば蛾・・というのが相応しい。
「サートか・・!」
もっと普通の人間が扱っていたら多分「蝶」と呼べた。しかし実際の使用者・・・契約者はそうではない。
まだ一日しか経っていないこともあるだろう、俺の脳裏にはステルス能力と自立兵器で弄ばれた昨日の戦闘光景がありありと思い浮かべることができて苛立ちも含めて素早くASライフルを構え直す。
「藍川くん!」
「藍川!」
と、下の方から雪音さんと鈴の声がしたのでそちらへ視線を向けた。2人は櫻井が盛大い空けた穴からではなく生徒会棟の方から出てきたようだ。鈴の言った通り地下でもそれなりの戦闘があったのは確からしく、服のあちこちが黒く煤けていたり破れている。
っていうか鈴は元々櫻井の援護に向かったのではなかったか??
櫻井が出張ってからもう結構経つ気もするがもしかしたら地下での戦闘を集結させていたのかもしれない。
「悠斗は!?」
「櫻井ならリーバって奴と――
っ!」
少し気を取られ過ぎたらしく再度こちらへ放たれたレーザーに気付くのが若干遅れてしまい宙返りで強引に避けると、牽制混じりに2、3発ほどお見舞いしておく。
「あそこでリーバって奴と交戦してる!」
意識は接近してくるサートに向けたままだったので多少荒っぽい言い方になってしまったが仕方ない。少し立ち込める煙を指差しながら伝えた俺は雪音さんが頷くのを確認したのを最後にヴァリアブルシールドを構えて自分から接近していく。
「おい藍川、どこに行く!」
「もう一機の神器が来てるんだ!」
「もう一機って・・・・お、おい!」
これ以上好き勝手に接近されると間合いを測り損ねてしまう。鈴とて俺より長い間契約者をやっているならサートの存在くらい知っているだろうに。
困惑している鈴を置いてASライフルをもう一度構えた俺はそこでようやく腕の中でぐったりしている連雀に気付いた。
「連雀!連雀!!」
抱っこしている状態なので大きくは動けないが肩を揺さぶってみる。しかし力なくうなだれ目を閉じたままの彼女は俺の声に反応することもなく、ただ揺さぶりに合わせて体を動かすだけだ。さっきリーバに蹴っ飛ばされたことが原因だろうがそれよりもこのまま気を失ったままの彼女を連れて交戦するのは危険過ぎる。
かといっても神器の生命線とも言える契約範囲は主に左右されるし、どこかに置き去りにして万が一殺されてしまったら元も子もない。
(どうする・・・・?)
先程の戦闘と同じように一旦煙に巻いてどこか安全な場所に避難させるのが一番の妥協案であるのは間違いないのだが相手は腕も能力も上で機体も同列機・・・・間違いなく先に避難場所を特定されるし、1対1でも勝てる見込みは・・・無い。チラと後ろに視線を送る先にはレーザーが行き交う硝煙漂う場所。
唯一の勝機である櫻井もリーバの相手で手一杯。そして鈴と篠崎は本人はともかく機体には決して小さくないダメージが残っていてとても神器同士の戦いに駆り出せる状態じゃない。
となると、どうするも何も現状ほぼ無傷の俺がサートを相手にするしかないということだ。
「・・・・・鈴、ちょっと」
「ん?」
機体を降下させて鈴の前に着地した俺は両手に抱いていた連雀を丁寧に扱いながら鈴に差し出した。
「どういうことだ?」
あからさまに不服・・・というか不信感に染めた表情で俺と連雀を交互にみる鈴は本来なら戦闘に加わるつもりだったのか、神器を展開した。
「・・・俺は向かってくる一機を引きつけておくから、安全な場所まで彼女を頼みたい」
頼みたい・・・などと言っている割に俺は半ば強引に連雀を鈴に押し付けるとそのまま飛翔していく。多分説得しても了承しないだろうし、何より全部説明していられる余裕もない。
レーダーと肉眼で見える限り相手はとっくに白桜の射撃圏内に収まっており、同時に俺もサートの攻撃範囲の中に入っていた。
「だから、頼んだぞ鈴!」
眼下の鈴へ念押ししつつそれを最後に振りかえることなく機体に加速をかけて空中戦可能な高度にまで上昇させ、ASライフルをサートに向けて発射する。守らねばならないという責任感からか普段よりも研ぎ澄まされた集中力で放ったのだが、同じ土俵の機体ではそう簡単には決定打とはなる訳もなくそれらを巧みに避けながら高度差をゼロにした彼もまた両手に携えるレーザーライフルで反撃を開始し、俺はライフルを片手に縦横無尽に飛び回りだした。
上下逆さまでもなんでも有り。ともかく当たらないように行う回避動作はそのままに銃口だけはなるべく敵機に合わせたまま動いて隙あらば撃つ。本来ならそのつもりだが適当ではない照準でこちらを狙うレーザーに対し常に反撃可能な体勢を取るというのは中々難しく、技量差もあってか次第に回避に集中する頻度が高くなっており、そんな状況での射撃は動きの精彩さも精度も明らかに心もとない。腕の差を序盤から見せつけられてしまい思わず舌打ちを鳴らす。
本来の射撃戦ならもう少し狙いを定めて撃ちたいのが本音だ。しかしそれに固執すればまず間違いなく被害を被るかASライフルを破壊されてしまうかのどちらかに陥いるだろう。それでは意味がないしサートはまだあの自立兵器群を使用してすらいないのだ。
「戦闘役を引き受けた以上、こんな初っ端からつまずいていられない!」
現状不利なことに変わりないが現に俺は以前の時、守次とサートの2人に対して一方的な試合運びはされていなかった。
つまり焦らなければ早々に負け・・・なんてことはない。落ち着いて戦えば撃破できずとも退くくらい不可能ではない筈。そう、冷静に相手を観察するんだ。
自らに激を飛ばして悟られないよう当てずっぽうでも牽制射撃は撃ちつつ小さい事情でもよく把握しようと視線をサートのあらゆる箇所に泳がせていく。
(機体損傷はない・・・)
当然といえば当然だろう。相手もこちらも機体は万全で腕の差は明らかに相手が上。だからこそこちらはどんな小さい損傷でも命取りになりかねない。
(自立兵器は不使用・・・・・)
つまりサートはまだ俺との距離を射撃戦で撃墜可能なエリアと捉えている。
(両手には2つのライフル。接近すればなんとかなりそうだけど・・・)
幸いこちらには近接兵器があるし、サート側に似たものがあったとしても彼は今両手をライフルで塞いでしまっているので懐に入れば勝機は充分にある。
問題なのは近づくまでが大変ということだ。
仮にライフルが機能しにくい距離まで接近できてもいつ展開されるか分からない自立兵器という壁が残っている。
しかし逆に言えばサートが安定して射撃戦ができる理由はその壁に依存している可能性もあるんじゃないだろうか?。
その点ではこちらにもまだ見せていない兵器「バイヨネットアンカー」もあるのだし、隙を作ることならできないこともない。いや、“かもしれない”じゃ話にならない。その手の内を見せたからには是が非でもその初撃で仕留めなければダメだ。
今までのように機体を移動させて回避するのではなくその場で大きく回転して向けられたレーザーを避けた俺は真正面にサートを捉える形で姿勢制御を促し、ウェポンステータスからバイヨネットアンカーを選択する。もちろんまだ距離があるので即座に射出することはせずいつでも行動可能な状態まででとどめておく。
準備は完了だ。
(あとは・・・ライフルとミサイルだな)
ASライフルのステータスからデストロイモードを選択すると金属が擦れ合う音を響かせながら各部がスライドし拡張していき、およそ3秒ほどで変形を完了した。
この形態では2発程しか連射できないが火力は期待できる。近づくにあたってはミサイルを使用するしかない。
単なる兵器の枠に収まらない代物なんだから弾道くらい操作できないものか、とステータスパネルからミサイルについて詳細を読み取ってみるがそれらしき性能は見当たらず、せいぜい初期弾道を命令できるだけだ。
『警告、高出力レーザーを確認』
と、突如白桜が警告を鳴らして視線をサートへ戻すとそちらの方向から今までとは違う少し太めのレーザーが襲いかかってきていた。
「や、ヤバイ・・・!?」
回避の手を緩めて止まっていたつもりはないのだが相手が相手というのもあるのだろう、やはり正確な照準で放たれた射撃に俺は慌ててレバーを操作して回避行動に出るが少し遅かったらしい。明らかに当たったような振動を伝えた白桜の片翼の先端がレーザーに焼かれて溶解していた。
「くそっ!」
あれだけ損傷しないのを条件としながらアッサリ取られるとは我ながら情けない。とはいえそんな感情に浸ってその場に留まるわけにもいかず、衝撃によって後退した機体を制御しながらスラスターを思い切り吹かせてサートの周囲を大きく迂回する。
速度も落ちていないし加速による不備も見受けられないことからどうやら航空に支障はないようだ。原因といえば意識を準備にばかり向けたこと。そう思えば偶然と片付けられるが軽微だろうと損傷は損傷。二度目はないと思っておこう。
手負いと引換にステータスパネルの操作でミサイルの弾道を下方からに設定した俺はあえて機体を減速させた。
「?」
こちらの動作を不思議そうに訝しむサートの挙動がパネルで確認せずとも分かる。
そのまま機体を対面させて真正面からのレーザーをヴァリアブルシールドで弾くと相手の真下へ潜り込むように降下していく。
―――――――――――
「よい・・・しょ!」
その頃、校舎の1階にある保健室に入っていた鈴は抱えていた連雀をソファに座らせて一息ついた。
「さて・・・私も行くか」
目的は現在俺が対峙しているサートなのは言うまでもない。神器のレーダーパネルからunknownと表示されている機体の位置を調べるとエネルギーシールドにものを言わせて壁を躊躇なくブチ抜いて外へでる。少しは自重した方がいい。もし篠崎あたりが目にしたら半ギレ・・・いやブチギレながら飛んでくるだろうな。
しかし俺の現在位置はかなりの高度にあるので外へ出ただけでは上空で神器が飛び回っている程度しか認識できない。恐らく本人もそう感じたのか、一旦機体を急上昇させると屋上に着地してこちらの戦況を拡大グラフィックで確認し始める。
「これが藍川の言ってた敵神器・・・・?なんか悪趣味なデザインだな、もうちょっといいの無かったの?」
拡大してもなお見づらいがその禍々しいシルエットは彼女も実感しているようだ。もっとよく確認しようと拡大パネルの設定をいじって倍率を上げていく。
最も鈴が確認したかったのはサートの神器のスペックであって姿かたちではない。俺を援護しようと思えば即座に可能だろうが能力も長所も分からない敵に挑むほど彼女は向こう見ずではなく冷静だった。勿論鈴が駆けつけるなどと全く予想していない俺としてはその気があるならさっさと助けろ、というのが本音だが。
「・・・・・・・?」
ようやく倍率処理を終えた神器がサートの拡大画像を表示すると、鈴は怪訝そうに眉間にシワをよせた。
「こいつ・・・は・・・・?」
先程も語った通り鈴にとってサートは初対面であるが、この時グラフィックを見た彼女は明らかな既視感を抱いており、それがなんだったのかと記憶を探っていく内にバラバラだった無数の欠片は一つの“因縁”を想起させた。
#33 完
《#34 実力の差》




