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天使の1ページ  作者: もっち
本編
50/82

《空中戦》

《#28 空中戦》



「行っけぇ!・・・・って、危なっ!」

「きゃあ!」


裂帛の叫びと共に機体を前進させて中央を突っ切るように加速する白桜へ向けて3機から一斉の集中砲火が浴びせられ、思わず機体をデタラメな挙動で更に上昇させて回避する。言うまでもなくわかりきっていた対応だったが予想と実際は違うものだ。エネルギーシールドが使用可能であろうとシールドがあろうと自ら熱線の中に飛び込むのを躊躇わない人間などいない。加えて言うなら現状操作を慣れないフレームハートのみでまかなっているので“上手く作動できなかったら?”という最悪の予想が頭から離れないことも俺を回避行動へ移行させた理由の一つでもある。同乗している連雀が小さく叫んだようだが我慢してもらうしかない。


「こいつ・・・避けたのか・・・・?」

「だが、逃がさんぞ!」


まるで俺のことをよく知っているかのような口ぶり・・・・しかしながら今それを聞き出している余裕はないので置いておく。彼らをクリアして彼女を安全な場所へ移送させない限り俺に勝機はないし、またまともにやりあうことすらままならない。気を取り直し、一旦上昇させた機体を弧を描くように敵機を跨いで下降させようと試みると、それを妨害する為に再び雨のようなビームの驟雨が始まるが今度は少しばかり違い先頭の1機は後続の2機よりも高度を高くとっていた。

何をするのか不明だが何か策がありそうだ。

黙ってそれを見届けるほど馬鹿じゃない。出し抜けに急停止して振り返ると敵機は予想外だったと言うように驚いた挙動を見せて慌てて減速し始める。それでも副腕に握るアサルトライフルを思わせる形状から放つビームを止ませなかった辺りは流石というべきか。最も、今まで息の合っていた動きを見せていたのにそれぞれがバラバラに停止動作を行った為照準が適当なのかビーム群にも若干の隙は生じる。俺にとってはそれで充分だ。もともとそれが目的だったのだし。

振り返り様に構えたASレーザーライフルを高度の高い敵機の頭上へ放って牽制し、続いて防御の構えを解いたヴァリアブルシールドに接合されているビーム砲をその下にいる2機の中心へ向けて撃つ。


(これでフォーメーションを散開させる!)


状況を見れば確かに数でも経験値でも不利だろう。しかし機体性能ならばまだ有利がつく白桜にとっては要は敵を分断して1対1の環境を作り出せばいい訳だ。

といってもだから必ず勝てるという訳でもない、それも事実。しかしこれには一つ条件があり「敵が機体性能では神器に勝てない」ことを理解しているか、が重要である。それをわかっている相手なら1対1などさせないようにもう一度フォーメーションを組み直すだろう。

その瞬間こそが隙となる。その間に俺は連雀を非難させる移動時間を稼ぐことができる。現に敵は今慌てたのが原因で攻撃の狙いが全機荒かったし、多分これで突破できるだろう。


案の定敵機はバラバラに捌けておよそフォーメーションとは呼べない陣形になり、それを確認した俺は後退と一緒にオマケ程度に2発程適当にビームを撃って踵を返した。

位置的には通常校舎と特別棟の間。流石に特別棟に降ろしては篠崎達の戦いに巻き込まれる恐れがあったので通常校舎側へ降ろすことにした・・・・矢先。あと少しで降ろせる高さにまで迫ったところで白桜が後ろからの攻撃に対するアラートを響かせ、それはまた妨害されて失敗に終わる。

レーダーに頼ることなくもう一度振り返ると1機が散開したままの後続2機を無視して単独でこちらに向かってきているのが見えた。


「逃がさんと言った筈だ!」

「こいつ単機で・・・!勝てると思ってるのか!」


まさか1対1で神器でやりあうつもりだと!?


“安心しろ・・・・お前は勝てない”

“・・・・・・・・自分がどれだけ弱いのか、その身を以て感じてこい”


ほんの数十分前の会話がなじるように頭の中で反響する。無論、今迫ってきている敵が口にした言葉ではないが、状況に合致し過ぎたそれはたった今聞いたように感じられて俺は敵機を睨みつけながらギリっと奥歯を噛んだ。

怒りと呼ぶには余りに激しく、また憎悪と呼ぶにも憎しみの部分が抜け落ちている。

自己嫌悪というべきか?

どこにもぶつけられない衝動。

ふいに自分でも判断のつかない無意識のまま俺はASライフルを上空の敵へと向けてそのトリガーを引き、何発かを連射させながら自機も接近させる。


「マスター!?今のままじゃダメです!私ならこの高さでも大丈夫ですか――きゃ!」


胸元で抱いている連雀が驚きの声を上げて俺を静止させるが耳に入っただけで理解、咀嚼の努力もすることなく「誰かが喋った」程度の認識で意識の中に霧散していく。


「どいつもこいつも・・・・っ」


確かに振り返ってみれば俺は単独での戦闘で勝利したことは一度もない。むしろ劣勢にしか陥っていないだろうが、その経験とて全て無意味にしてきた訳じゃない。

俺は俺なりに戦ってきたつもりで、それを「結果が全て」だと切り捨てるのなら――


「やってやる・・・!やってみせる!」


何が1対3だ、所詮相手は量産機でこっちは俗に言うワンオフ仕様。数の差など性能で押し切ってみればいいだけのこと。

エネルギーシールド全開にすれば連雀を逃がすことは可能だった状況を捨てて撃たれたビームをヴァリアブルシールドで無造作に弾くと白桜へ飛翔指示を出した。


「挑発に乗らないで、落ち着いてください!」

「うるさい、やれる!」

「私を降ろしてください!!」

「黙ってろ連雀!!」


口に出るのは普段使わないような・・・心の中でツッコミ程度にしか用いらない他人の意志を払いのける言葉の数々が冷静を促す彼女へぶつけられた。

マズイ。自分でも制御できない程熱くなっているのが分かるがそれを落ち着ける術を俺は知らない。それにここで引き返したらさっき言われた通り「連雀を守ったままでは戦えない」という事実を認めてしまうことに繋がる為、俺は白桜を加速させてその迷いを断ち切る意味でも振り切ろうとする。


「白のマスター、女は丁寧に扱うものだぞ?」


2人して大声でやりとりしていたのだ、聞こえない筈もなくこちらの接近に対し後退で距離を図る前方の敵機は茶化すように口元を歪めた。

多分冷静であったなら俺も皮肉で返しただろう。しかし生憎今はそんな気分ではなく、茶化しは侮蔑と嘲笑に聞こえる。乱雑にASライフルとヴァリアブルシールドのビームを連射しながら更に加速を強めた俺は敵機から浴びせられるビームを回避、あるいはエネルギーシールドで防いで速度を緩めることなく肉薄し、やがて距離が詰まったのを確認してからヴァリアブルシールドの砲塔を排除した。そこに発生するビーム砲の代わりに使用可能になる近接形態のエネルギーソードを腕ごと後ろに大きく引き、それに伴って前気味になるASライフルをデストロイモード化させながらあえて撃たず近接戦闘レンジに突入すると同時に引いていたエネルギーソードを横から一閃させる。


「はぁ!!」

「まるで獣だな、人間には理性という言葉はないようだ」


追いつかれる事を承知していた敵機はソードの横薙ぎを右へのステップで避けて機体に減速をかけた。続けてこちらも白桜に減速指示を出すが元々追いつく為に加速させていた機体はそんな簡単に速度は落とせず、俺は盛大に空振りして切り抜けるようにして前進していく。

しかしそんな事はわかっている。


「黙れ!」


空振り動作のまま斜めに回転する機体を振り返らせ移動を上昇による慣性に任せるとあらかじめ変形させておいたデストロイモードのASライフルの照準を敵がライフルを構えるよりも早く定めてトリガーに指をかけた。

縦や横などのわかりきった方向ではなく変則的な回転をしていたこともあり俺の視界は上下逆さまにも近く視界上側には爆煙が登る校舎が映り、また空は足元に。このまま重力が発生したのなら空へ落ちるのだろうか?

仰ぐべき空に落ちる。

なんとも古いロマンだ、と少し冷静になる。そういえば空を見上げると気分が落ち着くのだと以前本で読んだことがあった。これもその作用によるものか?最も、この状況では“見上げる”ではなく“見下ろす”という構図ではあるが。

どちらにせよ多少気分が落ち着いた俺はふいに彼女へ視線を落とすが本人は加速による恐怖か、目をギュッと強く瞑っていた。勿体無い、こんなのは滅多に体感できないぞ。

肩を抱く片手を伸ばし連雀の髪を撫でるように触れる。変わらないその薄い金色の髪は白桜の運動によって大きく揺らぎ何本かは日の光によってキラキラと輝いて見えた。ただ単純に綺麗だと、絡まることなく空で踊るその光景はずっと見ていたいと思わせる。

相対性理論・・・時間の感覚・・・5秒にも満たない僅かな時間だったが俺にはこの間が何十秒にも感じられる。しかし時間は体感によってそう感じるだけで止まったりはしない。その証拠に視線を敵機へと戻した際にはASライフルから放たれたビームの衝撃によって一気に感覚が引き戻された。


機体に発射による振動が伝わる。

普段のレバー操作ならなんてことないが・・・・ありもしない腕を操作し、そこから伝わる衝撃は理解し難い。思わずASライフルの反動に機体制御がバラけ大きく後退してしまった。いや、既に敵機を正面に映した状態で後ろに下がっていた状態から更にバランスを崩した上で反動に対応できなかったのだ、もはやどっちが正面でどこが後ろなのかすら理解の範疇を超えている。


「くそっ!」


レーダーを見た所で分かる訳もない。むしろレーダーも機体正面がコロコロ変わるせいで俺と同じように混乱しており、自機と敵機の位置を正確に表示できないでいる。

とりあえずバックユニットで機体正面へ加速しようかとも思ったがそもそも回転している状態ではそれを悪化させてしまうだろう。

地上では必ず上と下がハッキリしてるから重力も感じられて動きやすいのだが、本当の空中戦ではこうも姿勢制御が難しいものか。


「どこを見ている!!」


どこも見えねぇよ!とツッコミを入れながらも何とか機体を安定させようと凄まじい速度で移りゆく視界の中で視線をひたすら動かして目印になる物を探してみるが、やはりというべきか物自体捉えることすら容易ではない。

そうこうしている内に背後から衝撃が加えられ、緊急で作動したエネルギーシールドで本体に直接ダメージは無かったようだが白桜はどこかも定かではない方向に吹き飛ばされて何かに激突する形でようやく停止した。


「ここは・・・?」


地面が頭上に見える・・・どうやら逆さまらしい。

下の方を見下げると見慣れた壁と窓ガラス・・・なるほど校舎に激突したのか。

理解したのもほどほどに機体を浮かせて一旦着地する。振り回された頭をかぶり振って整理してあらためて上を見上げると今こちらを蹴り飛ばした1機。しかし肩部が爛れている辺りデストロイモードの一撃はとりあえず戦果はあげられたらしい。そして地上には2機が俺を挟む形で待機している。

最初と全く同じ図式・・・。


対して勝利には近づいていないまま、俺は頬に嫌な汗が伝うのを感じた。


#28 完



《#29 特殊兵装 前編》

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