《飛翔 前編》
《#26 飛翔 前編》
ドアを開いて部屋を退室した俺は右側通路へと直ぐさま走り出す。
目的地は言うまでもない、先程篠崎や鈴が発進に使用したカタパルトがある部屋だ。どこにあるのかは不明だが――
「ん・・・?」
どこにあるか不明?
それって単独じゃたどり着けないんじゃ・・・。
「・・・・・」
走り出してから10秒にも満たない恐るべき短さで俺はその場に停止する。幸い通路には誰も居なかったので急停止したことにより他人と衝突することはなかったのだが、ヤケクソ混じりにダッシュした割にはあっけない終わり方に他でもない俺自身が気恥ずかしくなってしまった。
熱しやすく冷めやすい。
今の俺はまさしくその状況を如実に体現したもので、ほんのさっき湧き上がった怒りも意気込みの空回りによって呆気なく消沈しており後頭部を掻きながらハァ・・・とため息をつく。
「どこ行けば着くんだよ・・・」
あらためて通路を見渡すと白一色で塗装された通路が先にも後ろにも広がっている。無論背後にはたった今退室してきた監査ルームからの道のり。先には通路・・・バリアフリー構造にでもなっているのか若干斜めに降りているそれが目に映る。先程櫻井から話を聞いていた部屋付近のエリアのとは異なりドアはいくつかあるもののその部屋達は壁がガラスで構築されている訳ではなかったので今の俺にはただ一方向に続くこの通路以外何も映りはしない。
あの監査ルームがカタパルトの部屋よりも上にあった以上、下り坂になっているこの方向で間違いないのは確かだが・・・・流石にそれだけであの高さを降りるというのは有り得ない。多分どこかにエレベーターがある筈だ。
最もそれらしき物は今の所見えていないので俺に残された手段と言えば――
「・・・・しょうがない、それらしき部屋を手当たり次第に開くしかないか」
ということだ。
まさか今更戻って「部屋どこ!?」なんて聞ける訳がないし、可能だったとしても小さいながらの俺のプライドがそれを拒んでいる。
それに現在後ろから副会長が部屋を出る気配は感じられていないのだからこの時間を使って捜索するのが一番だろう。
決まったのなら善は急げ。
直ぐさま歩を進める俺はキョロキョロと多少・・・いやかなりの挙動不審さを振りまきながら手始めに通路奥のT字路の突き当たりに鎮座しているドアを発見しそれを目指して走り出す。
「流石に開けた部屋が更衣室でした・・・なんてないよな・・!?」
走り出した体が風を切り、それに伴って前髪が視界の中で揺れるのを見ながら俺の脳裏に僅か数十メートルの距離を縮める間に昨夜の事件が過ぎった。
まさかこんな通路のど真ん中に更衣室がある筈がない・・・・・と、思いたいがこの施設は俺にとって初見であり構造上の都合などまるでわかっていないのだ。
いや、だが・・・通路の真ん中だぞ?普通そういうのってドアで仕切られていても「着替えてきました」ってのを悟らせないように曲がり角にあったりそれほど人目につかない場所に設置するのが普通じゃないか?・・・・・建築中の建物付近にある作業員用簡易トイレとかは明らかに人目につく所に配置されてるけども。むしろあれの方がどうなのだ?ってそんなことは今は関係ない!
「はぁ・・はぁ・・・・」
全く関係の無いことをバカみたく考えている間にいつの間にか目的の前まで到達していた。
どうする?
「聞き耳立てる・・・・のは完全に変態の域だな」
他人から見たらどうだろうか?
例えば俺がこれからドアに耳を当てて中の様子を探っている最中に副会長がその姿を確認したとしよう。
通路の最奥部で部屋の前で必死に聞き耳立てている男が一人。うん、完全に変質者だな止めておこう。そんな姿の自分を想像しただけで寒気がたつ。
しかしどうしたものか・・・。
とあてもなく左右を確認してみるが右も左の通路もこれまでと同じように白い通路が続いているだけだ。
「・・・ダンジョンかっての・・」
道に迷ったら絶対抜けられそうにない。RPGでもよくあるよな。あまりに入り組み過ぎてどっちから来たのかわからなくなって右往左往した挙句、結局一旦洞窟の前まで移動する技でやり直しするとか。
まさにそのゲームの主人公状態が今の俺ってことだ。
「・・・・・・・」
というかだ?この部屋が正解って可能性は絶対じゃない。
人気の無いこの通路へ再び目を通してみれば似たような雰囲気を持つドアがいくつもある。こうなるとただ正面にあったというだけで開けるということ自体が不正解な気もしてくるぞ・・・。
ちなみに余談だが人間というのは選択肢に対して考えれば考える程結論が「現状維持」の答えになりやすいんだと。
だから俺が取るべき行動は一つ。
「うぉぉぉ!」
まるで刑事ドラマを想像させる如く蹴破る勢いをもって部屋へ押し入る。
叫ぶ必要がある状況でないのは自分でもわかっているさ。ただこういう時はノリで行かなければ緊張でこっちがおかしくなる。
「おぉぉぉ・・・・お?」
が、そんな俺の心意気をあざ笑うように・・・中は真っ暗だった。
「・・・・・・・・・んっ」
照れ隠しも兼ねて一つ咳払い。
よく考えればエレベーターある場所ならスイッチあって当然ではないか?というかそれ以前にエレベーターに駆け込むってどうなんだろう。
結果に向き合ってみると意外なほどおかしな行動だったことに気付き、俺はまた気分がクールダウンするのを知覚した。むしろ正解じゃなくてよかった。
「暗いな・・・」
せっかく入った部屋だったのでどうせならと開けっ放しのドアの外から入る明かりを頼りに少しばかり侵入してみるが、周囲に電気を点ける為のスイッチが見当たらない。
倉庫だとしても明かりが無い、なんてことはないだろうし何よりこの広くも狭くもない・・・それこそ青波の部室くらいの広さをもつこの部屋にはおぼろげながら机などが存在しており明らかに個人が使用するものだ。設計ミスか?
入って右側に今確認した机とTV。そして左側には―――
「・・・・・・?」
椅子と・・・・それに座る少女。
「人・・・?」
「やっと気付いたの?」
「生きてるし・・・!?」
何を言っている、人なんだから生きてるだろう。・・・・・じゃない!問題は何故こんな所に少女が一人で居るんだ!?
よく見ればその体にはワイヤーに似た紐状の何かが食い込んでおり、それは椅子と少女を無理矢理縛り上げている。まるで凶悪な犯罪者を拘束しているようだ。
「なんでこんな所に女の子が・・・・」
更衣室で無かったのはとりあえず幸いだが色々な意味でハズレの部屋を開けてしまった気がする。
何か事情があるのだろうか?
そんな心境が顔に出たのか少女はフンと不機嫌に鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。
「なんで・・・?お前達が連れてきたんでしょ?」
「え・・・・俺達・・?
誰だお前?」
まだ完全に目が慣れていない為この少女が何者なのかは不明だ。
しかし・・・この声、幼い声音の割に無駄に発達した丁寧な口調とそれに混じった強い敵対心には聞き覚えがある。
といっても俺には最近まで鮎奈以外の女性にはあまり面識がないので有り得るのはここ最近、神器に関わってから会った存在だろう。
「ふん、仮にも天使を拘束してこんなショボイ部屋に何日も監禁した挙句に存在すら忘れるなんて、人間ってどこまで馬鹿なの?」
なんと酷い言われよう。
そんなこと言われても知らないものは知らん。忘れたものは忘れたのだ。そもそも顔もハッキリ見えない相手じゃ余程の知り合いじゃなきゃ分からんぞ。
それに今は明かりを点けることの方が優先だ。
「大体人の部屋の前で――」
「明かり点けるスイッチってどこだ?」
「騒がし・・・く・・・」
「・・・・・・?」
「・・・・・・・・」
「どこだ?」
「最低」
ひどくね?。
「・・・スイッチはお前から見て右側にある机に置いてあるでしょう?」
呆れたように語る声を背中に受け止めながら机へと進むと・・・確かにリモコン状のスイッチが置いてあった。なんだ、てっきり壁に設置されてあるタイプかと思ったぞ。
「・・・・よっ」
それを手にした俺は後ろを向いてリモコンの先を上にある照明へと向けてONのボタンを押す。
するとたちまち部屋に明かりが灯り、通路と同じ色が施されたこの部屋がその内部をさらけ出した。
「お礼はないの?」
「え、あ、あぁ・・・ありが―」
恩着せがましい気もしたがそんな小さいことを気にしてはいけない・・・と思い振り返って少女の方へ礼を口にした俺はその姿を見て言葉が途切れてしまう。
「お前・・・・!?」
訂正しよう。確かに俺達が拘束して存在を失念していた。
「ようやく思い出した?」
そこに居たのはあの時・・・・・・・櫻井が使徒だと判明した日に現れたデカブツ兵器に乗っていたあの少女だった。
#26 前編 完
《#26 飛翔 中編》




