《現実的な答え》
《#23 現実的な答え》
「これまた・・・・上の階層で見たような造りだな・・・」
そう呟く俺は案内された部屋の中を見渡す。
「さ、適当に座ってくれ。午前中から集まってもらったからと言って時間が有り余っている訳じゃない」
皆が入口付近で止まっているのを余所に悠斗と雪音さん、鈴・・・さんはサササと奥へ入っていった。
俺達もまたそれぞれ顔を合わせてから頷くと中へ入る。
内部は天井が無駄に高い以外は以前生徒会棟で案内された場所と似ているような配置になっており、中央に低いテーブル、それを挟むように大きいソファ、その中央――つまり部屋の奥真正面には小型ながらもデスクがある。悠斗はそのデスクと一緒になっていた椅子を引っ張りだして机の前まで移動して座ると雪音さんはその余った机に腰掛けた。
無論、こちらもずっと立っているなどということはなく左右のソファにそれぞれ腰を下ろし、全員が座り終えたのを確認してから皆櫻井の方を向く。
「・・・・・・・」
それを見た櫻井はニヤッといつもの笑みを浮かべてから全員を見渡すと、一旦咳払いして話を始めた。
「じゃまずはここに来る間にも説明した通り、ここの機関ついて話をしよう」
「なんて言ったか・・・神岸グループ所属の――」
「神岸グループ所属量子兵器開発兼用実機起動特別機関・・・・でしたね?」
「そうそう、覚えがよくて助かる」
たった一回でよく覚えていられるな・・・。
俺なんか昨日会ったサートの所属している部隊の名すらおぼろげなのに。
相変わらず冷静に・・・淡々と告げる櫛名田から視線を櫻井に戻した俺は彼が話しを始めているのを耳に入れつつ自分の置かれている状況をもう一度把握する為に色々なことを想起した。
一つ・・・・まず俺は現在量子神器“白桜”の契約者で、その神器の大元たる主は今隣でウンウンと話に同調している彼女―櫻井連雀だ。
そして、その神器はこことは別次元と思われる天界、幻界が双方争奪戦を繰り広げている。また白桜の存在はもう何回も戦闘を繰り広げている経緯から間違いなく知られているだろう。ついで語るなら理由は不明だが政府の一部・・・権利者も神器を欲している。
本来ならその3つの勢力に追われる立場にあるわけだが、彼――この青波高校の生徒会長である櫻井悠斗とその副会長、神岸詩織は自身が属している量子技術で最も進んでいる神岸グループにおいて重要なポジションについている為その便宜を図って俺は執拗に狙われてはいない。しかしそれはあくまで政府関係者のみで他2つの勢力には意味が無く証明として俺はその使徒と呼ばれる彼らに何度も襲われていた。
また櫻井悠斗は俺と同じく量子神器のマスターであり、本人の目的遂行と俺の安全確保というギブアンドテイクによって青波の・・・いや神岸グループを防衛するという部隊への誘いを受けている。まだその答えは出していない筈だが以前戦闘し捕獲した使徒の少女の安全はそのYesによって確立するので基本的には俺に拒否権はない。
二つ・・・・俺の目的は既に確認済みであるが「日常生活を取り戻す」ことにある。
その為に戦う覚悟は持ち合わせているつもりだ。そして同時に抱く可能な限りの敵味方問わない死の回避・・・が今の実力に対して不相応の願いだということも。
それに関しては余り思い出したくない過去に関係していたので俺は先については思考を打ち切った。
僅かばかりの回想だったが自分を見直すには充分すぎる。
だがどうしても最後の考えだけは心に引っかかってしまう。
(必ず敵を説得できる訳でもない・・・)
昨日守次と対峙した時点で重々分かっている。
(なのに救える敵は救おうとする・・・)
助けられる命なら助けたい、例え敵であってもだ。でも可能な敵と可能な場面、可能な状況に限り・・・不可能であれば取りやめる。そんな身勝手な選択はアリなんだろうか・・・?
敵がどんな立場にいても・・・条件が揃わなければ殺し―
敵がどんな立場にいても・・・条件が揃えば助ける―
傲慢過ぎる、俺は力があっても神じゃない。俺の一存で他人の生き死になど操作してはダメだ。敵は敵、自分は自分。アニメでもよくあるだろ?双方の意見はどちらも正しいと思えるのに戦ってるシチュエーションとか。正義なんて相対性のある事情だ、仕方ない。自分でも悟ったように聞こえるがあれだけの理不尽に巻き込まれてりゃしょうがない。現実的な答えを出せば「敵は全て倒す」という結果になる。
なのに・・・・なのに・・・
そう思えば思う程に・・・
(どうしてそれを引き止める・・・!!)
顔を俯けたまま拳をギュッと握った。
何故自分の望む未来への道を突っ切れないのか・・・と。
あまりにも脆弱で穴だらけの意志、決意。現実と理想の間で逐一悩まないと進めないのだろうか。
「――だから・・・・・・
藍川?」
それを惑わす答えなどわかりきっているが過去は変えられないし、なかったことにはできない。そう・・・それこそ・・例えば神界にあるとかいう世界秩序を定めるノートがあれば―
「藍川弘行は他人を自殺に追い込むことはしない」
と書いてやるのに。
「おい藍川」
あれからどれだけの期間が過ぎたんだろう?未だ忘れることのできない悪夢はまさしく呪いというべき枷を俺に絡ませている。
我ながら虚しいものだと思う。これから俺が敵味方問わず何人、何十人の他人の命を救ったってあの子は戻りはしない。そもそも――
「おい!」
「いでっ!?」
不意に訪れた頭への痛み。
それによって俺は意識を内面からいつの間に移動したのか目の前でファイルをいくつかに束ねている櫻井へ戻す。なるほど、状況的には俺の頭をそのファイルで叩いた訳だな、暴力反対・ダメ・ゼッタイ。
「なにすんだよ!」
「いや・・・悠斗がお前呼んでたのに無視したからだろ・・・?」
「え?俺を?」
改めて周りも見渡すと連雀、篠崎、櫛名田、鮎奈、雪音さん、鈴さんが響真と同様に困惑した表情を俺へ向けている。いや、どっちかというと「なに言ってんだこのアホ」とでも言いたげだ。
どうやら考えに没頭し過ぎていたらしい。そうだ、元々はあくまで現状の再認識だった。
「・・・・悪い、考え事してた」
「それは言わなくても分かる。
・・・藍川、お前に一応確認しておきたいのだ」
確認?何を?
「・・・・?」
「お前の安全確保と条件にこの神岸所属の特機に参入することを、だ」
弘行「・・・・・・・」
何を今更・・・・。
「・・・俺が参入しないと、あの時の女の子を殺すんだろ?」
「・・・・・いや、あの使徒に関しては篠崎かお前のどちらかが参入してくれれば話が片付くんだが?」
「は?」
正直耳を疑った。
俺でなくてもいい?しかしそれでは・・・
「でもそれじゃ―」
「あのな・・・特機所属でなくともお前は仮にもマスターだ、使徒に追われる以上は守らなければならない」
はぁ・・・とため息をついて再び自身の椅子へ移動した櫻井の背中を眺めながら俺は彼の言った言葉を噛み砕く。
特機へ入らなくとも助けられる・・・?
確かにそうだ。あの少女を救う鍵となるのは「特機へ所属していて尚且つ使徒ではない存在」なのだから俺でなくても篠崎が参入してそれを望めばいい、ただそれだけなのだ。なら俺は・・・?
要らない?
「もちろん自分の身は自分で守ってもらうが特機に関する命令は全く聞かなくていい」
何故だか体に力が入らない。
愕然としている俺を他所に櫻井が説明を続けるがそれも理解するのに若干時間がかかる。
俺は・・・・必要ない存在・・なのか?
「お前自身、境遇についてはやけに素直に納得しているみたいだが・・・ハッキリ言えば完全に巻き込まれた立場だ。必要だったとはいえ自らの意思で契約を果たした篠崎とは違う。だから・・・」
『足でまといは邪魔だ』
彼の言葉が脳内を巡る。
「だから無理には・・」
っ違う!違う!偶然なんかじゃないっ、俺はなるべくしてマスターとなった!会うべくして連雀と会った!
自分の身は自分で守る!?日常を取り戻すとか言いながらこの戦争には関与せずに高見の見物決め込んでいろというのか!?そんなことは許されない!過去の過ちに対する後悔を賭けても
俺は誰かを救わなければならない――!!
「やるよ」
「誘いは・・・・なに?」
「マスター?」
独善、偽善?相対性のある正義?
何さも現実を理解しているように理想を語っているんだ俺は。そんなものよりまず行動しなければ始まりすらしないだろう。
確かにまだ俺の中で明確な答えは出ていない。それでもやらなければならないのだ。ただ見送って後悔することは“二度と”したくない。
「・・・・・・」
「・・・・・本気か?」
櫻井の目線を真正面から受け止めて俺は頷く。その目は無言でもこれから始めるであろう様々な戦いを予見させるには充分すぎるのだが、俺の意思は揺らがない。
これは俺が決めたこと。やらなければならないことだから。例えどれだけ辛いものであってもこの状況で逃げてはならない。
「俺は―」
「ダメ!!」
と、見つめる櫻井に意志を伝えようと口を開いた瞬間、突然今まで黙っていた鮎奈が席を勢いよく立って叫ぶ。皆何事かと彼女の方を向くが本人はその視線を意に介さず・・・いや、意に介する余裕がないのか怯えたような表情で俺をみている。
「き、如月ちゃん・・・?」
「弘行!それを決意したのはどうして!?」
机から腰をおろした雪音さんが少し戸惑ったように話かけるがまるで無視。
俺に対して言っているのは明白だがリアクションが妙にデカイ。戦闘そのものは今までだって何度か経験しているのに。
「それは何の為に!?あの子の為でしょ!?」
・・・・・あぁ、そうか。チラと響真へ視線を向けると彼は俺の視線に気付いたようで珍しく真面目な表情を返す。
中学の頃から知り合いであるこの2人はあの事件を知っているのだ。というか鮎奈は・・・事件の“当事者”な訳だしな。
「ずっと他人ばっか気にかけて・・!自分のことはどうでもいいの!?その上他人の為に命をかけるなんて―」
「・・・・・部外者は気楽でいいなぁ?」
「・・・・え?」
同じくずっと黙っていた鈴さんがたまりかねたように言葉を被せ、鮎奈は疑問詞と共に一気に言葉のトーンが落ちる。
「コイツに何があったのか知らないけどさ、どれだけ他人にとって綺麗事並べたってそいつの現実がひっくり返るのかい?」
「それ・・・は」
「ま、友人が神器なんていう数少ないハズレに遭遇したのは同情してやるよ。ただ関係のない奴が横から「自分を大切に」・・・なんて理想論並べてほしくないね」
あまりに辛辣な言葉だった。言ってることは・・・・・多分間違ってはいない。だが人間性がない。
まるで理想や夢を毛嫌いし、現実だけを見据えるリアリストのようだ。
「っ・・・私は・・・」
「あー、もういいから!それ以上夢物語なんか―」
「お前こそいい加減にしろよ」
今度は対面していた篠崎が鈴さん・・・いや鈴に敵意ある言葉をぶつける。
「夢物語?じゃああんたはなんのために戦ってるんだよ?」
「ハッ、聞いてどうする?お前もその女の子みたく同情っぽく理想を語るつもり?」
「誰かが誰かを大切に思うことがいけないってのか?」
篠崎は学校外の時ほどあからさまな態度ではないものの鈴を認めたくないと言いたそうな雰囲気を醸しており、彼女もそれを察知していうのか挑発的な笑みを浮かべた。
「・・・・同情して現実が変わるならいくらでもしてやるよ」
「そういうことじゃない・・・!どうしてあんたは・・・!」
「ふん、甘ちゃんが、お前みたいのが―」
「だぁぁぁー!!いい加減にしろ、馬鹿ども!!」
あまりのヒートアップに連雀が俺にひっついて肩の後ろに顔を隠し、響真と雪音さんはやれやれとため息。まだ完全に把握しきれていないがこの2人は致命的にまで相性が悪そうだ。
一応の原因であろう俺はどうやって止めようかと考えを巡らせたその刹那、まばゆい閃光が部屋を包んで同時に轟音が響く。
目が環境に慣れるまで思ったより時間はかからず、お陰で俺は状況を3秒ほどで理解できた。
櫻井が所謂怒りマークを多数携えて・・・神器を展開しており外に向けて主兵装である「レーザーブラスター」を発射していたのだ。
「いいだろう、とりあえず現状で篠崎と鈴に伝えなければならないことは伝え終わった。そんなにやりあいたいならさっきも言った通り相応の場所に案内してやる・・・・!!」
「相応の・・・場所?」
#23 完
《#24 模擬戦》
どうも、主のもっちです(・∀・)
最近誤字や打ち間違いが多いことに気付き修正に追われています・・・お恥ずかしい限りです、ハイ。
その中でついで追加で多少ですが書き加えている部分もあるので良かったらそちらもドゾー。(現在#2まで修正




