《敵襲》
《#10 敵襲》
盛大な爆発音と共に俺の疑問も一気に吹き飛ぶと俺は窓から身を乗り出して音のする方向を見る。どうやら爆発はあの時と同じく通常校舎と特別校舎の間で起きていたようでそこには大きく煙が上がっていた。
「敵か!?」
「だろうな」
皆が窓へ一斉に群がる中で櫻井だけは興味がなさそうにゆっくりとした足取りで近寄った。
周りを見れば校舎に残っていた生徒達も何事かとそれぞれ窓へへばりついている。
その最中、煙の中から敵と思われる機械腕が姿を表した・・・・腕の大きさからすると全体は大体10mほどだろうか?
・・・・・・・・・ん?10m!?
「お、おい・・・!!」
「あれは・・・・」
最初は自分の勘違いだと思った。いや、そうであってほしいと願った。
だが煙が完全に晴れたことでその全てを現した敵はその願いを完膚なきまでに叩き潰した。正確な大きさは不明だったが敵機は俺の予想した以前の敵とは何倍も大きく、また見た目だけでもその堅牢さが伺える・・・・中心に一際目立つ装甲・・・ハッチらしきものは見えるが神器のようなパワードスーツなどではない。
いくつものむき出しコードとそれによって駆動する鋼の剛腕に、そしてそれを凌駕する巨大な脚部。まさしく機械の塊・・・ロボットと言えるだろう。
「・・・・・・逃げてもいいんだぞ。
どうせそのうち軍でもなんでも来るだろうし」
この学校の全壊と引換にな。
確かに一瞬、櫻井の言うとおり「逃げる」という選択肢が頭をよぎった。
だがそれは瞬時に昨夜自分自身で決めた「覚悟」へとシフトする。
・・・・・・・・・・どちらを取るか?などと問答するまでもなく、横にいた篠崎もこちらと目を合わせて頷いた。
「俺はあれを止めにいく」
「・・・そう言うと思ったよ。
残った生徒はこっちで誘導しておくから・・・・“くれぐれも”頼んだぞ?」
櫻井は何故か意地悪な笑みで「くれぐれも」という部分を強調すると雪音と鮎奈を引き連れて部屋をあとにしていき、残った俺と篠崎、連雀、櫛名田は窓から校舎を飛び出てまっすぐに敵を目指した。
パッと見で既に何名かは校舎から出て逃げ出していたがまだ階段を降ってたり廊下を走ったりと避難が完了していない生徒も目立つ。
何とか被害が出ないうちに止めなければ――
そう決意しながら敷地を走る俺はある程度近寄ったところで一旦止まって背後にいる連雀へ振り返った。
「マスター・・・!」
「あぁ、行ってくる。
・・・・そっちも気をつけろよ」
心配そうに見つめる彼女へ「大丈夫だ」というように頷き、俺は胸元の白桜を掴んで展開を強く念じる。
初陣と同じように光が体全体を包むと幾つもの粒子が集まって神器のスラスターやバックユニットを形作り・・・ほどなくしてそれは実体物として現れて白桜を展開し終えた。
装備の各所を見て展開、武装などに何の不備もないことを確認した俺は脚部スラスター、バックユニットを吹かせて飛び立ち未だ破壊活動を行う気配のない敵機へ接近する。
敵機は頭部と思える単眼のモノアイらしきセンサーをこちらへ向けたがすぐにそれを目の前の通常校舎へと向けなおすと大型の副腕を振り上げ―――
・・・・・振り下ろして中にいる生徒を校舎ごと潰すつもりか!
「っ!やめろっ!」
それを振り下ろすという動作だと認識した時には機体の武装パネルからASレーザーライフルを呼び出して咄嗟に構えて発射していた。
「!!」
発射されたレーザーはまっすぐに敵機の副腕を目指して手首辺りに直撃したものの出力が足りないのか敵の装甲が硬すぎるのか一瞬ひるませただけですぐに霧散して戦果をあげることはなかった。この程度じゃダメージを与えることすらままならない。ならばデストロイモードを使うまでだ。
ASライフルのパネルをタッチし素早くライフルを変形させて以前と同じ状態へ移行させる。
しかしそれを構えると同時に俺の横から赤い機体――篠崎の神器がその翼状のバックユニットを文字通り羽を広げるようにして加速して追い抜いていくと、その姿勢のまま両腕の大剣を展開させ突っ込んでいく。
どうやらASライフルが効かなかった時点で射撃戦をするだけ無駄だと判断したのだろう。そういえば射撃武装はおろかあの剣以外の武器をまだ見ていない気がする・・・・まさか近接武器のみなんてことはないだろうが。
『邪魔をするな!』
女の子の声・・・?
篠崎の接近に気付いた敵機は振り上げていた副腕を校舎ではなく彼に向かって人が虫を払うようにして振るうが朱羽はそれを静止からの急加速で鮮やかにかわしてみせた。
もちろんそれだけで攻撃の手を緩めるようなことはなく、次にその大きな副腕の指先に仕込まれている砲口を両手で俺と篠崎の両方へ向ける。
「「げっ!!」」
二人して同時に変な声を上げて即座に射線から離脱する・・・・そりゃそうだ。単なるエネルギー砲だとしても敵の機体のサイズはこちらの何倍・・・例え指先であっても相当なものだ。しかもそれが5本も向けられとあったら逃げる以外の選択肢など浮かばない。
次の瞬間にはその巨大な砲口から熱線が帯を引いてこちらに食いつこうとしてくるがそれでもなるべく上空へ逃げて避けた際に流れ弾が校舎へ直撃する事態は防ぐ・・・・・・防ぐ・・・が。
いくら攻撃が下からという一方方向からとはいえ一気に5本・・・いや実質的に避ける数を入れれば10本という数を避けるのは相当なものだ。
1つかわしても次から次へと襲いかかってくるので接近はおろか反撃すらままならない。少しの隙と余裕を突いてライフルを構えてもトリガーを引くころには2射目がきている・・・そんな感じだ。無論、避ける運動も並大抵ではなく急発進、急転換、急停止・・・などと自分でも何をしているのか理解できない行動を3次元運動で繰り広げている。というかそれくらいしなければ今の俺では到底回避不可能だろう・・・近くの篠崎も似たような動きだ。
だが少なくともこのままでは消耗戦になるしいずれ軍なり政府なりが来てもこんなのが相手では一瞬で壊滅させられてしまう。
「イチか・・・・」
多少荒っぽい方法だが・・・・
「バチか!!」
俺は上下逆さまな態勢で回避しつつ武装パネルから“ウイングミサイル”を選択する。
バックユニットのジェット翼の下部に懸架されている発射管が前方へスライドして蓋が開放される・・・・片側5つ搭載されているそのミサイルの照準を敵機へ合わせたあとに通常モードへと戻したASライフルを立て続けに3、4発ほど敵の足元へ発射し、続けてミサイルの発射を命じた。
『全員伏せろぉ!』
外部スピーカーを利用して全員に警告する。いくら距離だ多少あるから爆発の直撃は無いとといっても下手をすれば校舎に当たる可能性だってある。
だからこそライフルを牽制がわりに放って敵の動き封じたのだ。その目論見通り、敵機は牽制のレーザーに当たらぬよう殆ど身動きせずに続けて放ったミサイルが頭上を直撃する。
「やった・・・か?」
5発の両翼分・・・合計10発のミサイルが直撃したのだ、むしろこれでピンピンしていたら困るぞ。
煙が辺りを覆ってるこの状況では視界での確認は使い物にならないし神器のレーダーも|LOST(目標消失)と表示している。
「やったのか?」
同じ感想を述べつつ近寄る篠崎を確認するがどうやら彼も被弾無しで無事なようだ。
まだ分からない―
そう言おうと視線を眼下から横へ移したその瞬間、大きな副腕が煙の中を突き進んでその手で白桜を捕縛した。
あまりに虚を突かれたせいで緊急防御も自動回避も機能していない。
「何!」
「っ!」
掴まれると同時に引き寄せられた俺はそのまま地面へと叩きつけられる。
何とか緊急防御のエネルギーシールドによって衝突による衝撃は和らげたものの荒っぽいその動作のせいで防げたのは神器への直接的ダメージのみで俺自身は衝撃のせいで意識が吹っ飛びかけた。
しかし意識より何より・・・・・・敵機がほぼ無傷だということに俺は驚愕していた。
所々煤けたあとや爆発によって多少剥がれた装甲部分はあるが全弾直撃したにしては釣り合わないレベルである。
「だから邪魔をするなといった!」
こちらを掴んだままて手荒く機体を引き寄せた敵機はその中央部・・・人間でいう胸部の装甲を解放して搭乗者が姿を現す。とそこに居た存在は間違いなく・・・。
「女の・・子・・・?」
少女だった。それも高校生などの年齢ではない。明らかに小学生レベルだ。
こんな少女がこの機体を!?
「私の敵はお前たちじゃない!」
「っ、ならどうして校舎を破壊しようとした!!」
その言い分には反論せずにいられず、俺は捕らえられているという状況を省みずに叫ぶ。
「そうすればアイツはきっと出てくるからだ!」
アイツ・・・?
「アイツって――」
「藍川!」
少女にその名前を聞こうとした矢先、まっすぐ突っ切ってきた篠崎は剣を左右とも合わせて腕を同じ方向へと向けると俺を捕縛する機体の手首に向かって思い切りそれを振り下ろした。
一気に切り落とすことはできなかったようだが2本の大型レーザーソードは確実にその刃を装甲に潜り込ませている。
「くっ、次から次へと・・!」
胸部・・・いわゆるハッチを閉じて再び機体を起動させた少女はその付近にあるガトリングをあと少しで手首を両断しきる篠崎の背中へ向ける。
危ない!
と伝えるまでもなくガチャっと向けられた音を聞いた彼はその反撃を待っていたかのように絶好のタイミングで振り返るとその動作のまま足先にあるエネルギーソードを展開させて回し蹴りの要領でガトリングの銃身を寸断した。
それと同時に斬刃刀のレーザーソードが手首を完全に両断し、俺は拘束が緩むのを確認すると素早くガラクタとなった手を振り払って距離を取る・・・・・が、がら空き同然の背中でもライフルを向けることができない。
「どうした!?なんで撃たない!」
「・・・・くっ!」
あんな幼い少女を討てっていうのか!?
『だが敵であることに違いはない、そうだろう?』
そうだ、俺が皆を守ると覚悟したように敵は打ち払わなければならない・・・・だが目的が俺達ではない相手を・・・敵と呼べるのか?この銃を・・・向けるのか・・?
ふと手に握るASライフルへ目を落とす。
「一体どうし――っぁ!」
「篠崎!?」
武器を向けない俺を心配した篠崎は横から来ていた敵機の腕に気づかず、モロにその一撃を貰って校舎へ突っ込んでいく。
それによって意識を手元から目の前へと戻すと敵機は既に態勢を立て直しており、一瞬萎縮した俺を殴り飛ばした。今回は流石にエネルギーシールドを使用してダメージを軽減できたがいかんせん質量が違い過ぎる為、俺はそのまま生徒会棟の玄関まで転がっていった。
『言え!アイツはどこだ!!』
「だ・・・だからアイツって誰だよ・・・!!」
知らんもんは知らん。そうとしか言えないのが当然だがこの状況では余り好ましくない・・・・・・最も、息切れしている俺に向けられた5本の砲口・・・この状況も充分好ましくないのだが。
『・・・・・・・・・・
言わないのなら・・・!!』
砲口にエネルギーが収束するのが目に見える。
エネルギーシールドを全開にすれば防御可能だろうか・・・?
「!!」
「!!」
その思惑とは裏腹に敵機と白桜の間にラインを引くかのようにレーザーの奔流が横切ってくる。
#10 完
《#11 矛盾騎士》




