《自分なりのやり方で》
《#7 自分なりのやり方で》
「え~、それでは・・・・」
ほんのり暗い部屋に集まってテーブルを囲い椅子に座る俺たちを一瞥した櫻井は少しの間をもち――
「藍川と篠崎の帰還を祝ってかんぱ~い!」
盛大に手に持ったコップを高く上げ、それに習って俺達も乾杯のポーズを取った。
「・・・・で、本当に大丈夫だったのか?」
「ん?あぁ、今回はとりあえず・・・
ギリギリだったけどな」
皆口々に感想を語るなか俺は飲んでいたジュースから口を離して響真の質問に答える。
そう・・・本当にギリギリだった・・・。
――――――――――
『冷却時間だよ、ド素人!!』
(やられる!!)
敵はロングライフルを構えているが光景を呆然と眺める事しかできず、向けられた砲口から俺を焼き尽くすレーザーの奔流がチカチカと溢れ出るのを確認する。
いや、確認できたからといって何かできるわけでもない。
このまま俺は・・・・・
『っ!?』
が、突然変化が起きた。
敵の胸部を剣が食い破るように現れたのだ。まるでその場が静止してしまったようにどちらも動かなかったが、剣が抜かれるとやがて敵が口から血をこぼしながらゆっくりと下降していく。そして入れ替わるように背後に居た人物が姿を現した。
『油断大敵・・・・だな』
『し、篠崎・・・・』
篠崎は力なく降下していく男を脱力したように疲れた目で見送りながら先ほどまで突き刺していた剣の柄を畳んで納刀する。
どうやら・・・というか言うまでもなく彼が隙をついて致命傷を負わせたようだ。
あっけないようだったがこれで戦いは終わり・・・だと思った。
『く・・・・!』
『!?こいつまだ!』
しかし地面で膝をついて刺された部分を手で抑えながら出血を少しでも止めようとしている男は誰の目から見ても戦闘できる状態ではなかったが本人の目はいまだ闘士に満ちている。
なぜそこまでして――
それを問う暇はなく、男は俺たちを一瞬睨むと一気に背を向けてスラスターを吹かせて走りだした。
普通に考えるならば撤退だろう・・・・普通に考えれば。
だが先ほどの目から察するにこの行動は撤退などというものではない・・・なら・・・?
この状況で一発逆転できる要素なんかは・・・
『連雀たちか!!』
人質にする気かまたは排除が目的なのかは分からないがそっちに行かせる訳にはいかない。
俺は撤退だと認識して一つ大きなため息で安息する篠崎を残して白桜を急発進させると、チラと右手に所持するASレーザーライフルを見るがどうやらまだ排熱中らしく砲身下部は展開したままだ。
やはりミサイルは位置的にも撃てないし詳細不明な武器もまた使うには時間的リスクが大きい。
視線を右手から左手のエネルギーソードに移してそれを突きの形態で構え、更に加速をかける。
既に敵は校舎をほぼ通り過ごしており、あとは目の前の生徒会棟を横切るだけだ。それを超えてしまえばもう進路を遮るものは何もなくなってしまう。
『例えここで死のうとも・・・!この任務は・・・!』
校舎と校舎の間をスケート選手のように進む男はスラスターをやられて満足に飛べない機体を地走させながら誰の耳にも入ることもない独り言を口走る。
むしろそれは独り言というより力を失いそうな自らを鼓舞することが目的にもとれた。
もちろんそれは実際に俺の耳にも届いていないし、届いたからといって見逃すことなどできないのだが。
『止まれぇぇ!!』
『命に変えてもやり遂げてぇぇぇぇ――――』
そう叫びながら校舎を曲がった彼は背後から来るレーザーの存在に気付けなかった。
『っ!!!』
見ただけでその出力が男が所持していたロングライフルやデストロイモードのASレーザーライフルすら凌駕する火力だというのが分かる。
幸い完全に追いついていなかった俺はその攻撃が男を飲み込むのを視界に確認すると両脚の脚部スラスター、バックユニットのジェット翼を前面に向けて機体を急減速させた。
突然の減速に機体は激しく振動し俺自体もその振動に揺さぶられながらも何とか停止し、それと同時にレーザーも過ぎて視界から消えていく。
『なんだ今の!?』
あとから付いてきたらしい篠崎にもそれは見えていたらしく、大きく動揺しながら合流するが俺にもサッパリだ。
校舎の角を曲がって恐る恐るレーザーのきた砲口を見るが第2波もない、別段何か砲台があるわけでも発射した本人が立っているのでもない。
白桜のレーダーも何も感知してはいない・・・既に移動したのか?
一体誰が?
篠崎と顔を見合わせて双方クエスチョンマークを浮かべる俺たちは敵が完全に消えたというのを確認してから連雀達が待つグラウンドへ向かった。
――――――――――
(ホント・・・一体誰だったんだろうな)
「弘行?どうかしたのか?」
「あ、いや・・・別になんでもない」
回想に浸って仏頂面していた俺は不思議そうにこちらを覗き込んでいた響真の言葉で我に帰ると、コップを机に置きながら彼女の方を向く。
まぁ、予想を立てるにしても材料が無いのだから今となっては考えた所で意味がないだろう。
少なくとも俺が守りたい、助けたいと思った者達は誰ひとり欠けていない。俺にとってはそれが一番重要なのだ・・・だからこそ。
「連雀」
「え?はい、なんですかマスター?」
「その・・・・・・
なんだよ?」
副会長である神岸詩織を除いた全員が何故か一斉に黙って俺の方を向いたので俺は目を細めてにらみ返す。
まるで皆の前で告白という公開処刑を受けている気分だ。したことないけど。
「いえ、私は初陣を終えたマスターがオーナーに対して何を言うのかと興味が」
「俺は単純にどんな言葉で射止めるのかと」
「俺も告白なら・・・参考なまでに?」
「・・・・・・・」
「私はその・・・興味かな?」
「ネタ」
それぞれがそれぞれの聞く理由を語るが殆どが野次馬同然である。特に最後に言った奴。
しかも櫛名田以外全員が告白するもんだと認識しているようだ。
そう言われるとその気はないのに変に意識してしまって俺は頭をポリポリと掻く。
「あのなぁ・・・・・連雀、ちょっと来てくれ」
俺は立ち上がって連雀の手を掴むと「え?え?」と言いながら困惑する彼女を連れてリビングを抜けベランダへ出た。
既に時間が7時を回っていたこともあって外はもう暗く、涼しい風が冷やかされて暑くなった体を優しくクールダウンさせてくれる。
自分の家なのだからもちろんベランダから見る景色は見慣れている・・・が、昨日まで見慣れていたそれは今となっては違う物に見えるような気がした。
その違和感が俺に「契約者」としての現実を突きつけるがそれも今となれば余り苦には思えない・・・・既に一度戦闘を経験したことで精神が開き直っているのだろうか?だとしたら随分と太い神経をしているな、俺は。
「マスター?話とは??」
景色をボンヤリ眺めながら何も語らない俺に対して彼女は不安そうな表情を浮かべてその真意を問う。
「あ、わるい。
その・・・なんていうか・・・・ありがとな」
「え・・・?」
予想だにしなかったのだろう。連雀は目をパチクリさせて驚いていた。いや、俺もこんな言葉だけで全て伝えられるとは思っていない。
自分を落ち着かせる意味も含めてひとつ大きく深呼吸をする。
「・・・・・・最初はさ・・・なんで何も知らない俺が天界とか国とかそんな大きい連中を相手にしなきゃならないんだー!・・・って思って全部どうでもよくなったよ」
「それは・・・・」
「だけどさ、あのあと敵が来た時・・・篠崎が迎撃に行って、何も知らない生徒達や櫛名田の言葉を聞いて・・・ただ単純に助けたいと思ったんだ。
それはマスターであろうと一般人だろうと・・・同じだ。
だけど俺は他の人とは違ってマスターで力があった。少なくとも全て諦めるには早すぎる・・・その敵を退けるだけの力は持っていた」
「・・・・・・」
「まぁ、結局かなり苦戦もしたんだけど・・・・・もし俺が単なる一般人だったら、願うことはできても実現はできなかったと思う。
だから・・・・結果論だけど、ありがとうってさ」
自分でも無駄にポジティブだなと自覚してるが俺の意思であることは間違いない。
しかし礼を伝えられた彼女自信は・・・泣いていた。
「れ、連雀?」
「どうして・・・・どうして怒らないんですか・・・!?
お前のせいで!とかどうしてくれるんだ!とか、マスターだって思った筈です!」
「・・・・・・・なんだ、そんなことか」
「そ、そんなことって・・・・!」
つい言葉を選ばず自分の中にある素直な感想を口にしてしまうが、それももう俺の中では結論は出ている。
「・・・・俺とお前の出会いは偶然だったのか?」
「え?」
「偶然じゃなかったんだろう?」
「で、でも・・・・私は祐雪様に良くしてもらった恩を返ししたかっただけで・・・・マスターを、貴方を戦いに巻き込みたかった訳でも神器との契約をしに会いにきた訳でも・・・」
彼女は多少口ごもったもののそれを伝えるとうつむく。
どうやら会いに来たのは必然で神器の契約は偶然だったと言いたいらしい。だが俺自信が知っているように、そういう偶然は結局必然の中でしかない。家族を失い、偶然にも俺だけ生き残って盥回しにされたように。
「俺の本意でなくたって、あの時俺に力がなかったら・・・結局は契約してたさ」
そういう世界の流れは止められないんだ。
「だからさ、今はありがとうって言わせてくれ」
そう言って俺は表情を今の気持ちを言葉と共に表現して笑みを浮かべた。
「マスター・・・・変な顔です・・・」
ひでぇ。
「でも・・・・嬉しいです」
頬を伝っていた涙を拭いながら彼女もまた屈託のない笑顔を向け―――
「ほんとほんと、お兄ちゃんは嬉しいぞ」
「っ!?」
ベランダのまどから顔を出しながら邪魔者が一人乱入。
いや、正確には一人ではない。彼の後ろには他何名かが興味に染まった目線をこちらに浴びせている。
「だからどうしてお前はそう・・・・空気が読めないんだ!」
「俺だけ!?」
先ほどまで顔を出していた櫻井は副会長に襟首を持たれてリビングへと投げ込まれ・・・更にそこを超えて廊下に転がっていく。痛そうだ・・・だが哀れとは思わん。
そんなことを思っていると副会長はこちらに近づきながら真剣な顔で俺を見る。
「事態は悠斗から聞いたし内容はも大体分かった。
・・・・・今一度聞くが、覚悟はあるんだな?」
「はい、まだ先のことは分かりませんけど・・・・迷惑になりそうだったらすぐに退学届けを―」
「いや、それには及ばない」
「え?」
俺の言葉を遮って副会長はそれに及ばないという。
どういうことだ?
「お前にはこのまま在学してもらう」
「い、いやでも!今回の戦闘だってあれだけの被害が出ましたし・・・!もし政府とか危ない連中とか、そんなんが来たら・・・」
「国の権力者の一部くらいなら神岸グループの方で何とかしてみよう。それにお前はまだ学生だ、卒業はしろ」
そりゃまぁ学生である以上は卒業するのが当然だ。だが俺は普通じゃない。
それに副会長が量子デバイスを製造した神岸グループの現社長の娘ってのも知っているがいくらなんでも無茶としか思えない。これをどう説明するというんだ?
神器を巡って2つの世界が戦争していて巻き込まれました?そんなこと言ったら速攻で実験室いぶち込まれるに決まってる。狼の群れから逃げる為にライオンの檻へ入るようなものだ。
するとそれを見越したように副会長はフッと笑う。
「私と悠斗はな、今の神岸グループにおいては存続に関わる重要なポジションに居るんだ」
「お、おい詩織!」
「重要なポジション?」
廊下に転がっていた櫻井は慌てて立ち上がってリビングに戻ってくる。
あの櫻井が天下の神岸グループで重要なポジション?
どう見ても失敗するビジョンしか見えないんだけど・・・
「あまり権力を振るうのは好きじゃないが・・・事情が事情だ。
詳しくはいつか話すことになるだろうから今は割合しておく」
一体なんだというのか・・・?
不思議そうに櫻井を見やると本人は観念したようにため息をつく。
「あ~・・・分かった分かった、明日か明後日くらいには教えてやるから。
だが藍川、もう一度聞いておくが後悔しないな?これからのことも・・・」
ヘラヘラと笑っている普段の櫻井からは到底想像できない顔で覚悟を問われた俺は拳を握りしめて彼と同じように真剣な表情で返答した。
「大丈夫だ、後悔は・・・しない。
櫻井の説明を聞かなきゃ決められないけど・・・・俺は俺なりの考えで日常を守っていこうと思う」
俺の言葉を聞いた彼は一瞬目を閉じてその言葉を確かめるように頷くと、またいつものようにニヤリと笑い出す。
「自分なりのやり方で・・・・ね・・・
よ~し、じゃ気を取り直して飲み直しますか!」
「まるで酔っ払いみたいですよ会長・・・」
それを皮切りに皆リビングへと戻っていき俺も連雀に手を差し出しながらまだ伝えていなかったことを口にした。
「ってことだからさ・・・・とりあえず、
これからもよろしくな」
「・・・・・・・はいっ!」
#7 完
《#8 後悔しない為に》




