《神器の力》
《#5 神器の力》
「白桜いきます!」
バックユニットの浮力によって垂直に高く飛び上がった俺は校舎の敷地をほぼ一望できる位置まで白桜を動かし篠崎の姿を見つけようと辺りを見渡すが所々破壊されている校舎によってそれは容易く検討がついた。
するとそこに意識を集中させている俺の心を感じとったのか白桜は前面に彼の正確な場所を拡大したグラフィックパネルで映し出すと共に右の副腕に大きめな銃を握らせる。
「あそこか!!」
そこには神器を纏った篠崎がいまだ敵と廊下で剣を交えて交戦している姿があったが斬りかかっては簡単にいなされ、壁に叩きつけられ、そしてまた斬りかかるその映像だけでも苦戦している様子は理解できた。
急がないと――
レバーを操作して前方へ進む指示を出すと白桜はバックユニットであるジェット翼を下向きから横へと展開しちょうど人が手を横に広げたような形をとって推進部を後ろへ向け発進する。
一瞬、軽い加速負荷が体にかかったものの機体はスムーズに進み、みるみるうちにスピードを上げて眼下にある篠崎の姿を鮮明にし――
「はぁ・・はぁ・・・!」
「やはり素人の使い方では神器も宝の持ち腐・・・・れ・・・?」
「!!」
「――っ!!」
窓ガラスを叩き割って俺は盛大に校舎へ激突した。
減速を全くかけずに衝突した振動はやはり凄まじく、ガラスのみにならず廊下の鉄筋すらも粉々に砕いている。一応衝突の瞬間咄嗟に手を前へ出していたが持ち直した機体を見ると本体はおろか搭乗者である俺の体にも傷が一つもついておらず目的地へ到着した俺はそれをあらためて確かめるように自身を見直す。
しかしやはり軽傷すら負っていない。一体なにが・・・?
「痛・・・・・くはない?」
『緊急エネルギーシールド正常稼働、通常モードへ移行します』
無機質な声が響いたかと思った矢先、俺は白桜の周囲を緑色の膜が覆っていたことに気付くがそれは音声の語った通常モードとやらに移行すると共に色彩が薄くなっていき・・・やがて目視できないレベルになった。
「エネルギーシールド・・・・?防御的な装備か何かか」
少なくとも名前からはその性能が妥当だろう。
そう納得した俺の耳に最近聞き慣れた声が入る。
「藍川!?」
だれか・・・などと問う必要もない。
篠崎は衝突によって巻き上げられた砂煙と埃を手で払い除けながらこちらに近寄り、あちこちを見渡していたが、俺に向けられる視線は余り好意的なものではない。
「お前・・・・それ」
「わるい、でもあのまま任せっきりじゃ絶対後悔すると思って・・・」
なんで来た?
と言わんばかりの視線を送る彼に正直な気持ちを伝えると本人は少し迷った表情を浮かべたものの大きな反論はしなかった。
実を言うと当たり前だがキレることも予想していたのだが・・・。
何故か大きく非難しない・・・・いや、非難できるほどの状況ではなかったからだ。
「さ、流石にそんな登場の仕方をするとは思ってもみなかったよ」
周囲の煙が段々と晴れていくにつれて先ほどまで篠崎と対峙していた男のシルエットが浮かんでいき、そうして完全に視界が開けると男は右手に小型のマシンガンを装備して銃口をこちらに向けたまま語りだす。
(あれがただのマシンガン・・・ってことは無いよな、絶対)
今もって神器を含めたこの場の兵器が持つ機能の全容は知らないものの、緊張した体が無意識にその武器が普通ではないと予測した。
「無駄だとは思うが一応聞いておくよ。こちら側に付く気は――」
「――ない」
「まぁ、そうだろうね。無駄に血を流したがる・・・・やはり理解できない存在だな、お前達は」
「くるぞ!」
それを合図と言わんばかりに男はトリガーを引き、俺は一旦外へ。
篠崎はバックステップで距離をとると両手の副腕外部に装備している2つの大剣をセレクトして腕を左右に広げる。
搭乗者・・・マスターの動きをトレースしている副腕はその動作を完璧に追従し、またそれと同時にセレクトされた大剣は伸縮している刀身を延長させておよそ130センチ以上あるその巨体を展開させた。
しかし彼が装備したのは近接武器で相手が向けているのは射撃武器である。
「お、おい!そんな狭い所じゃ―」
「外でドンパチやったら校舎の被害が大きくなる!」
それだけを告げ、篠崎は自らが駆る神器を前傾姿勢で直進させるがよく考えれば・・・・いや、よく考えなくともそれは危ない選択だ。
俺か篠崎・・・どちらかが相手の技量を上回っているのならまだしも今の戦況を見る限りではその可能性は無い。むしろ相手は2機と敵対してなお撤退していないのだから相当実力に自信があるのだろう。
どう計算してもこの状況で勝つ以外の目的を追加するのはリスクが高い。
「・・・・・・・」
その状況で取るべき択は一つだ。
俺は敵の注意が篠崎に向いている間、おもむろに携帯を取り出してあの男・・・・櫻井に電話を繋ぐ。
『藍川か、どうした!!』
幸いコールは2回ほどでつながったので手短に内容を説明する。
「校舎ぶっ壊すけどいいか?」
『校舎ぶっ壊す?
・・・・・必要なら問題ない』
『ななな、何を言ってるんだ櫻井くん!?君は彼に今なんと―』
『気にするな、それが必要なら思いっきりやれ』
いや、少なくとも会長であるお前は気にしろよ。
遠くで教師が切羽詰った声を荒げているが本人は至って当たり前のように即答する。
『藍川、校舎は建造物だ、作れば何とかなるが・・・』
「命はそうはいなかい・・・だろ?」
―――わかっている。
それを言う暇は持たず通話をオフにした俺は先ほど右手に握らせた武器・・・表示されたパネルには「ASレーザーライフル」と書かれた銃を掲げて砲身を左手で安定させると、その銃口を篠崎と敵対する男へ向けるがこちらがトリガーを引く前に相手もそれに気付いたようで食い下がる篠崎から距離を取ってフッと笑う。
「離れろ篠崎っ!」
「ほう?撃てるのかな?」
焦りながらも先ほどよりも大きく距離を取った篠崎に比べて男は不遜な口調で嘲るように語る。恐らく俺が撃てないので脅しだと思っているのだろう。
だからこそ俺も少しばかり意地悪な笑みを浮かべて返した。
「そうだな―――」
それと共に俺はトリガーを引いた。
「撃てるかな?」
瞬間、レーザーライフルの銃口から熱線の奔流が放たれ表情を嘲笑から驚愕変えた男に向かって一直線に向かっていく。
そのままレーザーは校舎に直撃するとまとまっていた熱線が対象に触れたことによって拡散し、俺が激突した時よりも大きな瓦解音を響かせて文字通り校舎の一部を爆散させながら霧散する。
「うわっ!」
調子にのって撃った俺も初めての射撃反動に対応できず爆風が追い風になる形で吹き飛ばされていき地面に落下した。
「っ~!」
「大丈夫か!?」
恐らく再び緊急防御が働いたのだろうが落下時の振動までは無効化できないようでダメージはないものの激しく揺さぶられる感覚に襲われた俺は立ち上がりながら頭をブンブンと横に振る。またそれと同時に校舎から抜け出してきた篠崎が傍に近寄ってきた。
「大丈夫・・・・それよりアイツは―」
俺が言い切終わるよりも素早く半壊した校舎の瓦礫の中から熱線がこちらに向けて放射されていた。
標的はどうやら俺なのか向かってくる熱線が線ではなく点に見える。
咄嗟にレバーを動かして回避行動を取ろうとするが体が反応できないのは自分でもわかっていた。
(当たる・・・・!?)
しかし、それよりも早く、緊急防御が起動するよりも、俺の回避行動よりも早く機体はその射線を避けており熱線は俺の横を過ぎて反対校舎を突き抜けていく。
なぜ避けたられたのか・・・・そのことすら認知できない俺は操作を忘れそのまま横移動を繰り返し、その後何度も放たれる攻撃を避け続けたが同じ方向へ動き続けた為に予測されたのか再び直撃コースで向けられる・・・・しかしまたもやそれを俺が認識するやいなや機体はまた自動で回避した。
「まさか・・・?」
緊急防御は俺の認知できないダメージを軽減したがこの一連の回避行動は俺が反応すると同時に発生した・・・それはつまりは思考のみでも――
「動いてくれる・・・ってのか?」
そういうことらしい。
まるで操縦者の心境を表現する機械のようだが、余りに便利すぎるというか強力すぎる。
幻界と天界が長い間奪い合い続けているというのも納得できる。
「これが量子神器の力・・・・か」
あらためて兵器と呼ばれる所以を実感しながら俺は空中でASライフルを構え直すと瓦礫の山の上に無傷で立つ男と再び対峙する。
#5 完
《#6 戦いとは》




