《変わりゆく日常》
《変わりゆく日常》
校舎内に放課後を知らせるチャイムが響き、俺はフラフラした足取りで教室を出る。既に時刻は5時をとっくに回っており校舎内には人影が殆ど見当たらない。もちろん普段ならこんな時間まで学校には居ないし帰ってゴロゴロしているかゲームでもしている筈だった。そう…普段ならば。
「弘行大丈夫…?」
ゲッソリした顔で下駄箱へ向かう俺の横に居る鮎菜は心配した表情で俺を覗き込んでいる。
そりゃあそうだ…。
櫻井の会長権限で無理矢理納得した教師はさておき興味津々な生徒は学年・クラス問わず山程存在する訳で……あの少女に対する質問で俺はノイローゼ状態に。「スリーサイズは!?」だとかそんなん知ってる筈ないだろ、と。
加えて当事者の本人は「マスターの指示が無ければ応えられません」の一言で去ってくし。もはや味方も居なければ四方八方敵だらけである。
むしろ彼女には説明する義務があると思うのだが・・・。
「あぁ、大丈夫じゃない…………クソ…櫻井の奴…俺を無視して勝手に決めやがって…」
疲労困憊な表情の中に怒りを込めながら靴を取り出す俺は下駄箱の上に靴が1セット残っている事に気付く。
通常の生徒ならクラスに用意された専用の下駄箱があるのでこんな所に置く人間は居るなどということは無い。つまりは…
「あの子・・・まだ学校に居るなのかな…?」
という訳だ。
書類整理や入学手続きは終わってるしここにあの自称天使が残る必要は無い気もする。
ま、そんなに学校居たいなら勝手にすれば良いし友人という肩書き以外関係の無い俺が付き合う義理もない。というか絡みたくない。見る人が見ればひどいとか思うかもしれないが今日一日だけでも大分疲れたのだ、これがまだまだ続くと思うと多少扱いが雑になってもしょうがないだろう。そもそも俺に非は無いのだし。
ましてや更に面倒なことなんか――
「っ…!?」
そこまで思考が到達した所で俺の頭の中で数ある情報のパズルが偶然か、はたまた必然だったのかパッチリと組み合って一つの結果を作り出す。
まさか…まさか……そんな筈無い…。
しかしその現実を自ら経験したことのある自身の本能はそれを否定して偶然だと割り切ってしまう利口的な考えを難なく瓦解させていく。
「…………弘行?」
外靴を持ったまま思考に没頭して固まる俺に気付いた鮎菜は履きかえた靴のつま先をトントンと床にぶつけながら訝しげに俺を見る。
その鮎菜の言葉すら耳に入らず、俺はその結果に頭の中がチリチリと熱くなる感覚を味わうと唐突に靴を下駄箱に押し込んで廊下を走り出す。
「あのバカ…!何で…!!」
「弘行!?」
鮎菜はいきなり走り出した俺に驚く。そりゃあそうだ・・・!!
「悪い、用事だ!すぐに戻るから待ってろ!」
鮎奈の返事は待たずに全速力でその場を去った俺は校舎内を駆けずり回って彼女を探す。
しかしこの学校は最近設立したばかりの最新型であり、通常校舎、特別棟、特別棟に合体している共有校舎(食堂や共有スペースがある)、生徒会棟など複数の建物が健在している為そう易々と全てを探し回れる訳ではない。
それでも探さなきゃならない理由が俺にはあった。
(あいつ何で言わなかったんだ…!いや、何で気付けなかったんだ、俺が!)
もはや後悔を通り越して自身への怒りに発展し、さっきまでの脱力していた表情は消えて俺の表情は焦りに満ちている。
「よぉ!色男!彼女はどした~?」
「黙ってろ!」
廊下ですれ違う残っている生徒から何度も浴びせられる冷やかしを余所に教室を片っ端から探していき………彼女の姿は見つからなかった。
「ハァ…ハァ……くそっ…!」
「……だよな~。
ん?おいおい希代の色男がこんな時間にどうした?」
とずっと走り続けていたせいで息が切れ、廊下の壁にもたれていた俺を見つけた響真が近寄ってくる。
何て良いタイミングだ。
隣にもう一人見知らぬ人間が居たが今は気にしてる場合じゃない。俺は肩を上下に揺らしながら壁から離れて向き合った。
「きょ、響真…!あの…バカ天使……見なかったか…!?」
しばらく全力で走ったので声のボリュームも下がっていたが何とか用件を伝える。
「あの自称天使ちゃんか??いや、放課後になってから俺は見てないが……
翔、お前見た?」
「いんや、俺も見てない」
と響真は隣に居る友人にも聞くが彼も知らないようだ。
ならばここに居座る理由はない。
「そうか、じゃあ俺急ぐから…!じゃな!」
「ちょっと待て!弘行」
「悪い!用事なら後でメールしてくれ…!」
悪いが今はゲーセンとか娯楽に付き合ってる場合ではない。
一刻も早く彼女を見つけ出して聞かなきゃならない事があるのだ。
響真の言葉を無視して行こうとする俺だったが走り始めると同時に後ろから肩を掴まれて制止させられる。
「何か急用なんだろ?俺達も探してやるから…………お前とりあえず落ち着け、顔がひどく怖いぞ」
「…………」
女じゃないので鏡を携帯していない俺は今自分がどんな顔をしているか分からない……が響真の真剣さを見ればとりあえず酷い表情をしている事だけは分かった。
一つ、大きく深呼吸した俺は汗でへばりついた前髪をかきあげて汗を拭うと再び二人へ向き直る。
「そんでどこを探すんだ?」
どうやら響真の友人も加勢してくれるようだ。
困っているとはいえわざわざ見知らぬ人間を手伝うとは中々のお人好しと思うが、今はそれに甘えさせてもらおう。
「通常校舎は今見てきた…後は」
「特別棟と共有校舎…生徒会棟か…」
「生徒会棟……悠斗なら居場所くらい知ってるかもしれないな。
じゃ俺は生徒会棟に行くわ」
「じゃ俺は共有校舎だな」
「……すまない、頼む!」
俺は自覚する程、珍しく頭を下げる。いや、頭を下げるのは別に珍しくない。だが手伝ってくれる事を形式ではなく心から感謝するのは珍しいという事である。
そうして響真達の手伝いのおかげで動きやすくなった俺は特別棟の方へ彼女を探しに向かう。
生物室…科学室……パソコン室…調理室…。
しかしどの部屋を見ても彼女の姿は存在しない。
一体どこに……つまり共有校舎や生徒会棟に居るのか?
そう思案した俺は校舎の3階から見える通常校舎を見る。
もう時刻は6時に近くなり夕日が沈んで行く光景が見える…もう残っているのは部活生くらいだろうか……。
と、通常校舎の屋上に人影を発見する。
「っ!」
窓を開け上半身を外に乗り出した俺は屋上の人影を凝視する。1階以上上の階なので完全に確認はできないが長く、金色が混じった髪がバス停で初めて会った時のように風になびいている…。
間違いなく彼女であった。まさか屋上に居るとは・・・!
それを認識した俺は即座に2階まで駆け降りていく。
残念だが対になっているこの校舎、2階にしか渡り廊下という物が無い。
つまりは現在俺が居る3階から2階に降りて別校舎へ向かい、2階から4階まで上がって屋上階段を上っていくしか道が無い訳だ。困った校舎設計であるのは間違い無い。
責任者は生徒に無理矢理階段を上らせる運動をさせてスポーツマンの体にでもするつもりなのだろうか、そんなのは余所でやってくれ。
「ハァ…………ハァ…」
そうこう考えていく内に俺はようやく別校舎の4階まで駆け上がり廊下の壁に手をつく。
後は屋上階段なのだが……元々彼女に対する質問責めで気力を削がれた上にこの運動量である。もはや拷問とか言うレベルじゃない。
「ハァ……ん…?」
と、息を整えている俺の耳に誰かの話し声…叫び声が聞こえてくる。
教室や廊下のように響く声ではなく………いや、むしろ目の前にある屋上階段の奥から聞こえてくる。
まさか何かあったのか?
息がまだ整ってはいないが行かない訳にもいかず、俺は手すりに捕まり這いずるように屋上を目指す。
屋上に出ると校舎内とは違い、自然に風が体を包み全速力で走り回っていた体をクールダウンさせる。
そうして俺は………叫び声の理由を理解して頭の中が凍りつく。
「………!…から…ろ……!だったんだ……」
横からでは完全に見えないがこの学校の制服を着てない以上、ここの生徒ではないだろう男が彼女へ覆いかぶさっており、下にいる連雀はバタバタともがいている。
"それ"を理解した頭の中を徐々に憎悪のみが支配していくのを感じていた俺は――
次の瞬間、俺は体の疲労を無視し再び全力で走り出して男の脇腹をサッカーボールのように蹴り飛ばす。
「がっ…!?」
突然現れた乱入者に驚いた男はこちらを見ただけで防御の姿勢すらとらず蹴り飛ばされて彼女から離れてゴロゴロと屋上の床を転がり、脇腹を抑えて立ち上がらない。そりゃそうだ全力で蹴ったからな。
しかし今は男の事など気にしてはいられない。
「おい…!」
男から視線を離した俺は少女の方を向いて駆け寄る。
幸い"事後"ではなかったのだろう、制服が幾分か乱れていたが"された"訳ではないようだ。
「マ……マスター…?」
「その呼び方は好きじゃないが…何とも無―」
「は、早く逃げて下さい!」
「?」
たった一日だが今までの彼女からは感じられない表情をしながら叫ぶ。
何をそんなに焦っているのか分からない。
『彼女を置いて逃げろっ!』
「!?」
同時に唐突に頭の中で声が響く。
夢の中で聞くものではなく全く聞いた事の無い声だ。なんだ?俺はエスパーの才能でもあったんだろうか?
『早く逃げろ!死にたいのか!』
声が警告を続けるが、俺には全く理解できない現象である上に彼女の焦りようも分からない。
分からない、状況が全く分からない…俺は何をすれば良い?
そんな思考を続けながら棒立ちする俺は意味も無く辺りを見渡して冷静さを取り戻そうとする。
「マスター!私の事は放っておいて早く!」
「じ、自分だけ逃げられる訳無いだろ!?早くお前も…」
「私は…」
「逃がす訳ねぇだろ!」
と先程蹴り飛ばされた男が脇腹をさすりながらも立ち上がる。
その目は憎悪に染まっていた。
もう少しダメージを与えておくべきだっただろうがその目は単純に攻撃されたからだけではないようだ。
「てめぇなぁ……藍川の・・・分際で…!」
と男はポケットからデバイスを取り出す。見た事の無いタイプでガントレッドのようだ。
何が出てくるかは分からないが拳銃などはデバイスのブロックにかかる為、出てくる事は無いだろう。携帯を出して仲間を呼ぶ気か?
「待ってください!マスターには手を出さない盟約の筈です!」
「うるさい!本当ならそのつもりだが、こっちは内容もロクに理解してない奴に攻撃されたんだぞ!しかもあの藍川の末裔に!」
何だかよく分からない展開になっている。
藍川の末裔?俺の家はそんな凄い家柄でもなければ、何代も恨まれる程酷い事をした訳でも無い。
今日は妙に変な連中と出会う日だが人違いだろう。それにここは学校で俺も目の前の男の顔をはっきり覚えた。どのみちコイツに逃げ場はない。今更相手してやる必要もない。
「立てるか?」
「マスター!私は良いですから!」
「その男をマスターと呼ぶな!お前のマスターは俺の筈だ!
死ね、藍川!」
彼女は焦りながら俺に待避を命じるが、次の瞬間。俺の胸は何かに貫かれていた。
「あ……!?」
理解できる筈がない…ただの一瞬で俺の胸を何かの光が貫いたのだ。
しかも肺をやられたのか逆流する血が口から零れ出て…言葉すらまともに発せられない。
「いやっ!マスターァァ!?」
「ち……体ごと吹っ飛ばすつもりだったのに…まだ慣れてないせいか。いや、所詮は試作の玩具だからだな」
段々と力が抜けて膝を付く俺は駆け寄る彼女に支えられながらボヤける視界の中で目の前の男が何かこの世の銃ではないようなものを手にしているのが見えた。
「いや、目を閉じないで下さい!まだ何も返していないんですっ!!」
「無駄だ。量子武器で貫かれたのだから普通の治療ではそうそう容易く止血できん。それは…お前が一番よく知っているんじゃないのか?ハハハ!さて…いっそ楽にしてやろう?」
量子…武器?聞いた事も無い名前だ…それに…やられたのか…?。
ただそれだけを疑問に思った。どうやらもう思考すら鈍くなっているらしく俺の目から生の光が徐々消えていき視界も霞んでいく。
男は「フンッ」と嘲ると次に銃から槍のようなものを呼び出すと力が入らず彼女に辛うじて支えられている俺へ向ける。
「藍川!!」
「大丈夫ですか!?」
そこへ共有校舎から来たのだろうか、響真の友人・・・翔の声が耳に入ったので警告しようと残った力でそちらを向くとそこには見慣れない機械か“何か”をまとった
彼の姿があった。
しかしそれが何なのかなどと考える思考の余裕はある訳もなく俺を抱き寄せた彼女の声も段々遠くなるのが分かる。
「マスター!!」
逃げろ………そう言葉にならない警告を心で呟く俺の意識はそこで途切れる。
あぁ・・・やはり関わってもろくなことがおきない・・・。
#3 完
《#4 契約者と持ち主》
更新が夜遅くなってしまい申し訳ありません・・・m(_ _)m
自信のない作品ですが閲覧してくれた方には本当に感謝の言葉しか出ません、ありがとうございます。
アクセス数もそこそこに伸びていたのでそれに応えられるよう、より一層努力していきたいと思います!!
今後も機会があればどうぞ立ち読み気分で読んでいってください!




