コルヴァトゥントゥリのサンタクロース
12月。コルヴァトゥントゥリのサンタクロース村では、村最大の大仕事を前にして、準備に大わらわ。
「13番倉庫、プレゼント包装紙足りねーぞ!」
「36番倉庫の積み残しは誰の担当分?」
「包装紙は5番倉庫にあるからそれを使って。36番倉庫はニコの分だよ。9頭立てソリに積むからそのままでいいよ」
あまりの忙しさにパニックを起こしかけるサンタクロースたちに、事務局長のヨーセフが適切に指示を出していく。その隣にはトナカイのトゥーモがいつもそばに控えている。
「親父ー、荷物届いてるぞー 」
ヨーセフの息子、ニコが大きな段ボール箱を担いでやって来た。幼い赤鼻のトナカイ、カトリがニコの後ろをトコトコついてくる。
「お外にもまだあるよー。カトリが運んだのー」
「そうか、カトリ、良く出来たねー」
膝立ちになってカトリの頭を撫でてやると、カトリは気持ち良さそうに目を細めた。
「今年は結構な量だぞ。事務局だと作業をするのに狭いだろ? 21番倉庫を空けてあるから、そこを使えばいい」
「助かるよ。いつもスペースに困るから」
「この荷物も21番倉庫に運んでおくよ。カトリ、行くぞー」
「はーい」
「僕達もこっちが片付いたら行くよ」
「まぁゆっくり来てくれ」
ニコとカトリが事務局を出て行くと、それを狙っていたかのようにサンタクロース達があれこれと問い合わせにやって来た。トゥーモはまだまだ終わりそうにないなと大きなあくびをして、トゥーモ用に用意された寝床で不貞寝を始めた。
夜も更けた頃、やっとサンタクロース達のパニックから解放されたヨーセフは、トゥーモを連れて21番倉庫へ向かった。
倉庫のドアを開けると、ニコと数人の若いサンタクロースが未包装のプレゼントと格闘していた。カトリはその近くで眠っている。
「遅くなってすまないね」
ヨーセフもプレゼントの包装紙に手を伸ばす。
目の前にあるプレゼントの品は、サンタクロースの子供達にプレゼントする物だ。
サンタクロース達はあまりに忙しく、自分の仕事をこなすだけで精一杯だった。彼らは自分の子供達にプレゼントを用意する時間も十分に取れない。それでヨーセフが事務局長に就任した時、事務局の仕事としてコルヴァトゥントゥリ限定のサンタクロースになることにしたのだ。
15年前。まだ若手のサンタクロースだったヨーセフは、夜間にトゥーモとソリの練習をしていて落下し、その際に負った怪我が原因で障害が残った。日常生活には支障はないが、サンタクロースの仕事は諦めなければならなかった。
トゥーモは希少種の赤鼻のトナカイであるため、他のサンタクロースのソリを引くことになるはずだったが、また主人をソリから落下させるのではないかという恐怖で空を駆けることが出来なくなった。
それ以来、彼らは彼らに出来る仕事をしようと決めた。天を駆け、プレゼントを届けることは出来ない。その代わり、地上を駆け、サンタクロース達の補佐をするために事務局を立ち上げた。
コルヴァトゥントゥリ限定のサンタクロースの仕事はその一環だ。毎年どんなに忙しくても、時間の合間を縫って、村の子供達のためにプレゼントを用意した。手伝ってくれるサンタクロースも増えた。子供達は当然サンタクロースの正体を知っている。でも、みんなが笑顔になるなら、それは些細な問題だ。
「えーと、これは、アルマのやつだったかな?」
「お、テディベアか」
「なんか、鼻の位置がおかしくね?」
「キーラの手作りだよ」
「そういえば、指に絆創膏貼りまくってたな」
「こっちは?」
「それは確か、ユッシだよ。日本のアニメの、えーと、ガンダム? のプラモデルが欲しいとかって」
「あ、それ俺も欲しい」
「Amazonで注文すればいいんじゃね?」
「実物大とか作ってみたいなー。ニコの倉庫なら入るかも」
「一夏で製作から解体まで出来るんならいいぞ」
「あー、無理無理」
皆でワイワイ言いながら作業をしていると、騒がしかったのか、カトリが起きてきた。
「おはよ~」
「はい、おはよう。まだ寝てて良いんだよ」
「事務局長さんと一緒がいいー」
カトリがヨーセフに頭をスリスリとすり寄せて来る。
「カトリー、主人は俺だぞー」
「ニコも大好きだよー」
今度はニコのところへ寄って行き、ニコにワシャワシャと頭を撫でられて上機嫌になっている。
昼間と違って和やかに進む作業。自分の家族や兄弟、あるいは友人の子供達のためにする作業は、温かい気持ちになれる。浮かんで来るのは子供達の笑顔。年に一度の大仕事を終えたサンタクロース達の疲れも癒してくれるだろう。
「さあ、もう少し頑張ろう。ソリの積み込みもあるし、明後日には包装が終わるくらいがベストかな」
「そうだなー。トナカイの手配もあるしなー」
「トゥーモはどう思う?」
「エキとアキがやりたいと言っていた」
「2頭の主人は?」
「どちらも了解を得ている。あとは……カトリ、お前もやってみるか?」
「いいの!? じゃあやりたい! カトリもやりたーい!」
「ニコ、構わないか?」
「いいぜー。カトリはまだ9頭立ての先導は無理だし」
「じゃあカトリ、一緒に頑張ろうね」
「はーい!」
夜は更に更けて行く。その日の21番倉庫の明かりが消えたのは明け方近く。倉庫から出てくるサンタクロースとトナカイの顔は、どれも明るく楽しそうだった。