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システム=神  作者: 橿倪・クレナイ
インフェルニティ第二端末
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第20セクション---堕天

「よう、てめえを倒しにきたぞ」


「・・・・そんな・・・ばかな・・・」




 ネルクは東風を睨みつけ、刀をまっすぐに突きつける。

 東風の顔からはいつもの不気味な笑みは既に消え、驚きで蒼白になっている。だがすぐにいつものようににこにことした笑顔にもどる。


 そして慣れた手つきで再び手元に操作パネルを呼び出す。




「やれやれ僕としたことが、まだバグが残ってたみたいだね。しかたない、今度はもっとシステムが厳重な別のサーバーに転送させてもらうとしようか」


「させるかよ」


ブツッン!!




 俺の一言で東風の手元に表示されていたパネルが消失する。




「!!」


「システムアクセスID,MJ・0005ネルク。東風直人から権限を剥奪する」




 東風が驚愕の表情を浮かべる。もう一度操作パネルを呼び出そうとするが何も起こらない。彼の周囲を守るように立っていた数体のウイルスが爆砕音を響かせて砕け散る。




「そんな、なんで君が僕より高いシステム権限を?」


「てめえに話す義理はねえ」




 ネルクは腰のベルトに挿してあるもう一本のフォトンブレイヴを抜き、二刀を構える。

 絶対的なシステムに守られているというアドバンテージを失った東風の顔からは余裕の笑みはもうない。驚きと小さな恐怖が張り付いている。




「てめえだけはこの手で倒す」




 ちらりと視線をビルの下へと向けると、紅とアルファが地面に倒れているのが確認できる。クレナイは左腕と右脚を失っているようだが、まだ生きている。その眼差しからは強い光が消えずにしっかりと灯っている。


 視線を東風に向けると、驚きの眼差しをこちらに向けている奴がいた。そん顔を見るとさらに苛立ちが募ってくる。




「ふっ・・・!」


「くっ!!」




 地面を強く蹴り、奴の懐へと飛び込む。自らの身体を使った戦いは奴にとって初めてのはずだ。こちらに理がある。


 東風は俺の攻撃になんとか反応し、腰から俺の持つフォトンブレイヴによく似た剣を抜く。やはり戦いは素人らしく、構え方からして隙だらけだ。素手でも倒せそうだ。




「君達は少し勘違いしていると。僕は別に君達を危険から遠ざけようと思って」


「いまさら言い訳は聞きたくない!前々からお前は気にくわなかった。今ここでテメーをブッ倒す」




 奴の言葉を途中で遮る。

 これ以上奴のあの声、イライラするあの笑みを見たくない。吐き気がする。

 不格好に剣を振り回しては、躓いて転がっている。こんな奴が俺達を作った神だと思うと余計にイライラが募ってくる。


 ビルの上を逃げる奴を追いかける。こんな狭い中でどうやって逃げるのか、と思った瞬間、奴の足元にいくつかのパネルが出現し奴の身体を飛ばした。ビルの屋上を次々と跳躍しながら逃げていく。

 やはり、奴のシステム管理者権限はまだ完全に奪い切れていないか。




「逃がすか!」




 こちらも同じく、エネルギーを足から放出してスピードを上げる。だが、奴のスピードには遠く及ばない。畜生、ここにきてもやはり奴には敵わないのか。

 奴の周囲に数体のウイルスが実体化する。今まで見たこともない巨人な狼型の姿をしている。とんでもないでかさだ。データバンクに掲載してあったエジプトという国のスフィンクスとか言う奴みたいだ。




「のやろお!!」




 空中に幾本のも赤い刀を形成する。放たれた刀はくるくると回転しながら奴に向かって殺到する。本来ならここで俺の刀は見えない壁によって弾かれ、消滅させられてしまう。  

 だが突如巨大ウイルスの身体が幾千ものポリゴン片と化して爆散した。刀は何の障害もなく、奴の脚に突き立った。




「・・・・手助けどうも」




 虚空に向かって、現実世界の方にいる協力者に向かって言う。ここまで奴の管理者権限を奪えたのは全てあの秋津(あきつ) (しゅう)とか言う男のおかげだ。ああいった掴み所のない、何を考えているのか分からない奴は嫌いだが、そこは感謝している。



 脚に突き立った数本の刀のせいでバランスを崩した奴はビルの屋上に落下する。

 俺がすぐ近くに行くと、奴の恐怖の顔が見て取れた。だがまだその表情の中には、まだ安堵の気持ちが紛れ込んでいる。まさか君が生みの親である僕を倒せるはずがない、と言う風な感じだ。




「悪いけどな、てめえには何の思い入れもねえ。俺は躊躇しない」




 フォトンブレイヴの出力を最大に設定して常時からは何倍にも巨大になった刀身を持ち上げると、奴の表情から余裕が消えた。




「ま、待ってくれ。これには訳が」


「聞く必要もねえ」




 俺が振り下ろした刀を剣で受けようとせず、両の腕で顔を庇った。そんなものでこれの威力が庇えるはずがないだろう。

 奴の両腕が手首の部分から切断された。赤いエフェクトライトが切断口から漏れ出す。




「ぐあ、ああああ、ああああ!!」




 電子世界の電気的な痛みが奴を襲う。

 別に奴はこの世界の者でもないのでここで死んでも現実(リアル)の世界ではのうのうと生きているだろうが、せめてこの世界でだけでも奴を消しておきたい。

 リアルの人間が俺達に直接関わんじゃねえ。


 立て続けにフォトンブレイヴを振り下ろす。無防備になっている奴は徐々にその体を斬り刻まれている。




「ぐあっ、ああ、うあっ・・・あああっ!!」


「・・・・・・・」




 遂に奴は両手両足を失った状態でビルの屋上に転がっていた。小さな悲鳴を上げているが、俺にとっては嫌悪を与えるだけでしかない。




「ね、ネルク君・・・・・君は、何か・・・・勘違いを・・・」


「うるせえよ」




 俺は何の躊躇もせずに奴の首を刎ねとばした。

 直後、奴の身体を構成していたポリゴンがガラス塊を叩き割ったような大音響をたてて全てばらばらになり消え去った。【Delete】の文字が紫色のフォトンで表示され、徐々に消えていく。




「・・・・・・・・・」




 この世界の創造主の呆気ない最後だった。呆気なさ過ぎて声もでない。これで奴の開発した特殊なウイルスによって浸食され、その機能を停止している多くのサーバーが救われただろう。


 俺はとりあえず操作パネルを呼び出し、ある者に向けて通信回線を開く。繋がった回線に顔を出したのはこの電子世界の者ではなく現実(リアル)世界の者だ。今回の戦いの協力者、東風(こち)直人(なおと)の助手だと名乗る男、秋津宗(あきつしゅう)だ。




『どうやら博士を止めたようだな』


「ああ、あんたの協力のおかげだ。感謝する」


『礼には及ばん。私と君は利害が一致したから協力したまでだ。むしろ感謝するのはこちらの方だ。それに今回の事件は様々なマスコミによって多くの市民が事を知るだろう。博士が逮捕されるのも時間の問題だ』


「まあ細かいことはそっちの世界に従って奴を裁いてくれ」


『ああ、・・・・』




 これでもうあのうざったいアホ科学者と会わなくて済む。自然と体から力が抜けて行くのを感じる。


 通信回線を切り、紅とアルファが倒れている場所まで向かう。回線を切る瞬間、秋津が見せた不敵な笑みがどうも引っかかったが、今はあの二人の方が心配だ。いそうでその場を後にする。


























「おい紅。生きてるか?アルファも」


「まあ、なんとかね」


「た、助かったですう」




 左腕と右脚を失っている状態から回復した紅を助け起こす。すると、よろけるようにして俺に抱き着いた。自然と俺も彼女の背中に手を回す。もう戦いは終わったんだ。

小さくすすり泣くような音が聞こえる。




「泣いてんのか?」


「う、うっさいわね。いいでしょべつに」




 そう言うと彼女は両腕に力を入れてくる。痛い痛い。軽く絞殺される。




「・・・・心配したんだから」


「・・・ああ、悪い」




 伏せている彼女の顔をくいっと上に向けると、涙が一杯に溜まった瞳が見える。久しぶりに見たなこいつのこんな顔。苦笑する。

 右人差し指で涙をぬぐってやる。

 赤くなった紅は何を思ったのか、人差し指をたてて俺の顔を指さすと、




「あ、私と、約束しなさい」


「約束?」


「もう二度と私を一人にしないで」




 思わず笑ってしまった。まさかこいつがこんなことを言う時がくるなんて。

 俺が笑うと紅は両の頬を膨らませていじけたような表情を作った。




「当たり前だ。誰が手放すかよ」












 アルファのゲームサーバーを奪還作戦は作戦開始時から約16時間で終了した。


 東風直人という予期せぬ相手が出現したことは、インフェルニティの世界に大きな影響を与えた。


 これからこの世界の管理者は奴の助手が引き継ぐことになったらしい。


 インフェルニティ世界に再び静かな平穏が訪れた。




読んでいただきありがとうございます。


個人的にはさらに話を発展させていきたかったのですが、様々な諸事情によってここで終了させていただきます。


読んでくれていた皆さま、お気に入りに追加していただいた方々にはとても感謝しております。


この作品はここで終了いたしますが、他の作品はまだまだ続きます。


これからも私の作品をどうぞよろしくお願いします。

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