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システム=神  作者: 橿倪・クレナイ
インフェルニティ第二端末
20/21

第19セクション‐‐‐紅き雨

「うあ、あああ、おあああああああ!!」


「く、紅さん!!」




 紅は怒りにまかせてエネルギーを周囲に放出し続ける。緑色のエネルギーが雷のようにスパークしながら辺りを走り回る。


 放出されたエネルギーに引き寄せられて集まってきたウイルスによって、今この場所はウイルスで覆い尽くされている。地面など一ミリも見えない。


アルファはビルの陰から暴走する紅を見ることしか出来なかった。




「あんた達のせいで、あんたらさえいなければ!」




 開かれた双眸からは絶え間なく涙が流れ、怒りの眼差しでウイルスを睨みつける。ウイルスは相変わらず機械音のような耳障りな奇声を発している。倒しても倒してもやってくる。キリが無い。




「はあっ!はッ!・・・・このっ!」




 尽きかけているエネルギー残量を気にもせずエネルギー弾を放出する。


だが、さすがのウイルスは軽く避け、飛びかかってくる。そして紅の左腕と右脚に狼型のウイルスが噛みつく。

 なんとも言えない気持ち悪い感覚が全身を駆け巡り、体がスパークする。


そして、ついに左腕と右脚がガラス塊を叩き割るかのような激しい音を立てて微細なポリゴン化して四散した。




「っ・・・・!!」




片足を失った紅は地面に転がる。もう、エネルギー弾を放出できる程のエネルギーは残っていない。今ので大半が消失した。 


 獲物がもう動かないとわかったウイルスは徐々に近づいてくる。万事休すだ。


 だが、突如ウイルスの動きがぴたりと止まった。まるでビデオを一時停止したような感じだ。




「やれやれ、君達もかい?」




 頭上から声が響く。さっと顔をあげると、ビルの上からこちらを見降ろしている者がいた。にこにこと気持ち悪いほどの笑顔だ。寒気がしてくる。




「あんたは、東風直人」


「うん、君達の生みの親だよ」





 どういうことだ?奴は生身の人間のはずだ。どうやってこのデジタルデータの世界に。




「ポリゴンで僕用のアバターを造ってそこに僕の脳を直接リンクしてるんだよ。細かいことはいいか。いやあ、夢に見たヴァーチャルリアリティの完成だよ」




 奴は笑っている。

 自分の発明が楽しくてたまらないというふうだ。




「ネルクは?あんたシステム管理者なんだから今ネルクがどうなってるか分かるでしょ」


「ん?彼か。彼は今この世界にいない」




 一瞬奴が何を言ったのか分からなかった。ネルクがもうこの世界にいない。ということはウイルスに飲み込まれて消失したということか。




「消えては無いよ。ただちょっと邪魔だったから彼を別のサーバーに移させてもらった」




 ネルクが邪魔だった?こいつは何を言っているのか。三年前と同じように、ウイルスに浸食されたこのサーバーを助けに来たのではないあのか。




「ああ、このウイルス達は僕が放ったんだ」


「な、なんで・・・・」


「実験だよ」




 対して悪びれた様子もなくサラッと言う。

 ウイルスを放つことが正義だとでもいうように。


 奴は手元に操作パネルを呼び出して何かを操作する。すると、紅の身体が見えない何かに地面に押さえつけられ、指一本すら動かせないようになる。


 オブジェクトをこの座標に固定された。システム権限を持たない紅にはどうすることもできない。




「まあ細かいことは君に話す必要は無いね。君も今ネルク君がいるサーバーに移させてもらうよ。あとそこにいるお嬢さんも」




 物陰に隠れていたアルファがビクリと体を震わせる。


 紅は強く歯を噛み締める。神的な存在である奴には逆らえない。システムが重く立ちふさがり、体への信号を遮断する。

 アルファも同じく地面に押さえつけられ、オブジャクトを固定される。


 紅はこちらを見降ろしてくる東風直人を睨みつける。その顔にはいつものように気持ち悪い笑顔が張り付いている。




「そんな恐い顔をしなくてもいいじゃないか。これは実験だからすぐ終わるよ」




 ふと紅は視界に、あるものを捕えた。それは赤く発光していて長細い。赤い黄昏の空に突如として出現したそれは、くるくると回転しながら徐々にこちらに落ちてくる。


 段々と近づいてくるにつれてそれの形がハッキリとしてくる。あれは刀だ。数千本の刀が空から雨のようにウイルス達に降り注ぐ。




「なっ!」




 東風は慌てて後ろに飛びし去る。動きを止められていたウイルス達は紅き刀の雨を避けることはできず、爆砕音が立て続けに響く。


 これは、この赤い刀は彼の象徴。

 紅の瞳から涙が溢れる。よかった彼が来てくれた。




「ふう、あぶないなあ」




 東風は刀が放たれた方角を見る。ビルの上に誰かが立っているのが見える。その人影は徐々にこちらに近づいてくる。

 片手には赤い刀が握られている。


 東風の表情が固まる。先ほどまでに浮かべていた笑みはどこかに消え、今は眼を見開いて驚きの表情を見せている。




「よう、てめえを倒しにきたぞ」




 ネルクは東風を睨みつけ、刀をまっすぐに突きつける。












読んでいただきありがとうございます。

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