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システム=神  作者: 橿倪・クレナイ
インフェルニティ第二端末
12/21

第11セクション‐‐‐リコール

 リアルの世界を模倣し、絶対的なシステムで構築されたこの世界インフェルニティ

この世界には端というものはない。行こうと思えば、どこまでも行くことができる。無限の可能性を秘めたブラックボックス。

人間がネットワーク世界を管理するために創られたリアルの世界を支えるための世界。

リアルの世界の人間を元にしてデジタルデータのポリゴンで形成され、人工知能を積まれた住人《ブレイカ―》が管理している。




























 この世界を管理するブレイカ―の一人。ID、0005 ネルクこと俺は何もないただ白い風景が無限に広がっている空間にいた。音や体の感覚がなく、とても不可思議な感覚に囚われる。





――― メディカルチェック終了 各身体結合データの異常無し 

 全信号オールグリーン 再リンクを開始します お疲れ様でした―――




 人工的で電気的な響きのある女性の合成音声と共に、眼の前に緑色のシステムメッセージが表示される。

 音や景色、体の感覚が戻り、俺は眼を覚ます。


「お疲れ様です。これで今月の定期メンテナンスは終了です」


 白髪でやや高めの身長を持つブレイカ―が、ホロキーボードを叩きながらこちらに話しかけてきた。

 今日は一カ月に一度ある定期メンテナンスの日だ。デジタルデータの塊で構成された俺達の体は、時たま妙なバグが発生する。バグが多くなると体を思うように動かせなくなり体の形を維持できなくなる。こうして体の状態を定期的に検査するというのはとても重要な事だ。

手術台のようなベッドに寝かされていた体を起こし、無言で頷きメンテ施設を出る。


 メンテ施設に入った時はまだ太陽が空の頂点にあり明るかったが、今は夕陽で赤く染まった空に変わっていた。

















 あのサーバー奪還作戦から三年の時が過ぎた。あの時受けたこちらの打撃はまだ完全には回復していない。数多くのブレイカ―が消え、ウイルスに浸食されしまった一部の空間を切り離す羽目になった。俺の心にも大きな傷を負わせたままだ。


 ポリゴンで形成された俺達は歳をとることなく、何か問題さえ無ければずっと同じ容姿でいることができる。しかし俺達を創った天才科学者、東風(こち)直人(なおと)が「君達を創り出した親としては、君達の成長した姿が見たいなあ」とかなんとかほざき、現在俺達の容姿は三年前からかなり変わっている。


 三年前、日本の男子高生の平均的な身長だったあの頃よりは背が高くなっている。だいたい百七十ちょいある。まだ幼かった童顔は鋭く切れのある顔になり、以前は白のカッターシャツと黒のズボンだったが、今着ているのは黒のアンダーシャツと真っ黒のコートだ。黒のズボンは同じだが、いたるところにポケットが付いている。白いシューズだった靴も今はブーツだ。


「ん?・・・あれは」


 施設を出てすぐにある植木のベンチによく知る少女が座っていた。長い茶色の髪を後ろでポニーテールにし、三年前よりも大人に成長した体。白のカーターシャツと濃紺のスカートだった服装が、短めの短パン、黒のニーソックス、そして黒い上着という物に代わっている。


「おう、紅。待っててくれたのか」


 ベンチに座っていたのは、ID、WJ・2003 白御(はくみ) (くれない)。ツンデレ要素が半端ない奴だ。


「別にあんたなんか待ってないわよ。ここには違う用事でいるだけなんだから」

「あー、はいはい。んじゃな」


どう聞いても息苦しい言い訳にしか聞こえないセリフをスルーして歩き出す。


「あ、・・・・ちょっと待ちなさいよ」


しばらくその場でまごついていたが、すぐに追いついてきて俺の左横を歩き始めた。


「用事があったんじゃないのか?」

「さ、さっき終わったのよ」


 ったくこいつはいつになったら正直者になれるんだ。別に見え透いた嘘で誤魔化さなくてもいいと思うのだが。


「ほら、行くぞ」

「あ、・・・・」


 そわそわしている紅の右手を半ば強引に取る。ポリゴンで形成された体にも関わらず、かすかな体温を感じる。

 ビルの間を風が吹き抜け、冷たい風が容赦なく俺達に吹きつける。俺はコートを着ているので問題はないが、短パンの紅はどう見ても足が寒そうだ。


「ったく、何でこの季節に短パンなんて穿いてるんだ?」

「なによ、人のファッションセンスに文句付ける気?」














 三月十日、現在はまだ肌寒い冬の気象設定だ。

 この世界の天候や気象は現実(リアル)の世界と完全に一致している。現実の世界で雨が降れば、こちらの世界でも雨が降る。向こうで晴れればこちらも晴れる。

 この世界を創った科学者のこだわりらしい。


「どうしたのよ?」


紅が俺の顔を覗き込んでくる。考え事をしていた俺の足はいつの間にか止まっていたようだ。


「いや、何でもない」

「・・・そう」


 再び歩き出した俺の左肩にぽすっと頭を預けてくる。かすかにシトラスの香りが漂ってくる。まったくこいつは、相変わらずだ。苦笑して、俺達は家に帰る足を進めた。





























 俺と紅の家は高度なセキュリティを持ち、かつ一等地に建つ五階建ての高級マンションだ。俺は五階に、紅は四階に住んでいる。

 五階は全て俺の部屋、四階は全て紅の部屋という風に、このマンションは各一階につき部屋が一つしかない。広々とした空間で、五十人が楽々と入ることができる。


 右手の平をセンサーに押し当て、ゲートを開く。


「んじゃあな、紅。さっさと寝ろよ」

「あんたもしっかり寝なさいよ」


 離した手をしばらく名残惜しそうに見つめていた紅と分かれ、五階にある自分の部屋へと向かう。エレベータで上がってもいいが、階段で登った方がどちらかというと速い。


 オートロック式の扉を開け、部屋に入る。広い玄関とリビング兼ダイニングと、シルバーに輝く器具で揃えられたキッチン。本棚や大きなソファーが置かれている。


「ふいー・・・・」


 ふかふかのソファーに体を沈め、一息つく。今日は大した仕事をしたわけではないがメンテナンスの日はいつも何故か非常に疲れる。

 今日はさっさと寝てしまおうと着ているコートの着衣解除を行おうとした時、視界の左端に丸い赤色のアイコンが点滅しているのに気が付く。これはメール受信の表示だ。右腕を軽く振り、システムコンソールを呼び出しメールを確認する。

 メールの発信者はジェネだった。内容は、「メンテナンスが終わったら連絡してくれ」とのことだ。


「おい、ジェネ。何か用か?」


 すぐさま通信回線を開き用件を聞く。相変わらず忙しいらしく、あわただしく動き回っている姿が見える。


『お、ネルク。検査は終わったか?』

「ああ、今さっき。で?何の用件だ?」

『新しい仕事だ。詳しい話は直接説明するので今からこちらに来てくれないか?』

「了解、すぐ行く」


 回線を閉じ、脱ぎかけていたコートを着込み直し部屋を出る。玄関を出てすぐに足を止め、システムコンソールを再び呼び出す。

 ポーンという軽い音を立てて半透明のパネルが手元に出現する。


「権限使用、ID、MJ・0005 ネルク 転送 管理塔へ」


 0000から0009までのIDを持つ者しか使用することのできないシステム権限を使用し、一気に目的地まで飛ぶ。

 淡いブルーの燐光が体を包み、視界が真っ白の光で消える。二秒ほどのねっとりとした気持ち悪い感覚が消えると、転移が終了して俺の身体は《管理塔》に移動していた。









こんにちは、クレナイです。

    

「システム=神」が再び始まりました。


     

もう1つの作品をメインとして書いているので、次話の投稿はかなり時間があきます。



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