夜の牢
夜の牢屋の中。
イザナギはまだ眠りについていなかった。
イザナギは胡坐をかいて座っている。まるで大仏のようにそのままの姿勢でじっとしていた。
辺りは静か。この監獄にはイザナギのほかに誰も囚人がいなく、他の牢屋は空っぽだった。
そんな静かな場所に、足音が聞こえた。
誰かが歩いてくる音。
その音はしばらくすると停まる。
「レッカさん」ホノニギの声が聞こえた。
「ホノニギさんか……」イザナギは背を向けたまま答えた。
「明日……僕は元の時代に帰ります」
「それなら知っている。……前にホノニギさんが言ってたでしょう」
「……覚えてたんですか」
「忘れるわけはない」イザナギが言った。
「ホノニギさん……あんたなら、世界を救えるかもしれない。……俺は何もできなかったが、ホノニギさんならできるかもしれない。……だってホノニギさんはずっと正しい道を進んでいる。その正しい道を進んでいけばきっと……世界が救えるはずだ」
「世界が救えるなんて……そんな大げさな……」ホノニギははにかんだ。
「僕はただ元の時代に帰るだけです……。そこで世界を救うとかは何も考えてません。……ただ正しい道を進みたいだけです」
ホノニギはイザナギの方を見据える。
「でも……レッカさんが世界を救いたいというなら……僕は世界を救いましょう。……それがレッカさんの望みなら」
「ホノニギさん……」
「僕は……正直怖いです。元の時代に帰るのが……。帰ってきたらすぐにモサク一族に殺されるかもしれません……。それでも、僕は戻らなくちゃいけません。そこが、僕の生きるべき時代だからです……。生きるからには……僕は戦います。戦って……いつか幸せな日々を掴みたいんです。……いつかレッカさんの家に呼ばれたときみたいに」
「ホノニギさん……」
イザナギの肩はぶるぶると震えていた。
その震えは……心の震えなのだろうか。
「レッカさん……もう、これでお別れです。僕はあなたと会えて本当に良かったです。……あなたのおかげで、幸せと言うものを知ることができたんです。僕たちには重い重い厄災が降りかかって……それでレッカさんも……修羅に堕ちてしまって……。僕たちは確かに不幸だったのかもしれません。でも……不幸なんてものは単なる外的なものでしかないんです。大事なのは僕たちの内面……。僕たちは振り回されなければよかったんです。不幸なんかに……。僕たちはもっと単純に考えればよかったんです……。もっと単純に……」
「単純にねぇ……確かに俺は複雑に考えすぎたのかもしれない……。だから世界を救うとか言ってヤマタ国を襲おうなんて考えてしまったのかもしれないなぁ」
「レッカさん」ホノニギが声をかける。
「顔を見せてくれませんか」
それを聞いたイザナギは、むっくりと体を動かす。
イザナギはホノニギに顔を見せる。
「レッカさん……お元気で……」
「ああ。そっちも、頑張ってくださいね」
「はい……―――」