捕虜
外に出ると、そこにホノニギさんと……みすぼらしい姿の男、イザナギがいた。
「あれが……イザナギ……」
「イザナギっていうのか……」
剛実と久那は初めて見るイザナギを興味深く眺めていた。
イザナギとホノニギさんの周りをたくさんの人が囲んでいた。
「み、皆さん、あまり騒がないでください……。誰かヒメノミコト様を呼んでくれませんか?」ホノニギさんは辺りの人たちに言った。
「ホノニギさん!」俺は人だかりの中央のホノニギさんに叫んだ。
「武くん……絢さん……。帰ってきてましたか」
俺たちはホノニギさんのところへ寄る。
隣にいるイザナギは顔を下げていた。
「ホノニギさん……そのぉ」俺はイザナギの方を見て言った。
「レッカさんは、自首しました」ホノニギさんが言った。
「自首と言っても、もう時すでに遅し……みたいなもんだけどな」イザナギが自嘲気味に言った。
「自首って……」
「俺は罪を受ける、裁きを受ける。……今までのすべての罪を背負い、そして裁かれ……そして罰を受ける」イザナギはうつむいていた。
罪を受ける……か。
まさか、こういう終わり方になるとは思っていなかった。
これはこれでいい終わり方……なのだろうか。
まぁ、漫画やアニメみたく悪者がやっつけられておしまいってことに現実はならないということだろうか。悪いことしたら警察に捕まる……裁きを受ける……というのが現実だ。
イザナギは、その現実に従ったのだろう。
しかし罰というのは……。
「俺は刑を服す。それがどんな刑であろうと。……おそらく死刑だろうが、俺はそれを受ける」
「――――――――!」
死刑――――、
そりゃ、ヤマタ国に攻撃を仕掛けて、自分の身内を殺したんなら……そうなるだろうが。
イザナギの罪に対して、それは妥当だと思える。確かにイザナギのやったことを考えれば、死刑は妥当だ。
しかし……俺はイザナギを殺さなかった。……そんなイザナギが、俺が生かしたイザナギが死ぬというのは、なんだかよくわからない気持ちになる……。
「……ガキ、俺は自首するんだ。自らの意志で刑を服すんだ。俺は殺されるんじゃない。ただ……刑に服すだけだ。罰を受けるだけだ」イザナギはそう言った。
刑を服す、死刑で死ぬ……。
俺たちのいた時代にも死刑と言うものがあったが……それを実際に見たりしたことも……身近に感じたこともなかった。
それをイザナギが受ける。……俺が戦ったことによって。
もっとも、戦わなければこっちがやられていたわけなんだが……。
俺たちは神妙な顔でイザナギの方を見ていた。
「ガキども、……お前たちは下らねぇこと考えるんじゃねぇ。……悪は裁かれるんだ。『死刑』と言うものが人が決めた決まりなら……俺はそれに従う。従う義務がある」
イザナギはそう言って俺たちと反対の方向、卑弥呼の宮殿の方を向いてホノニギさんと共に歩いていった。
イザナギが去ると、周りにいた人たちも散っていった。
「イザナギは……死刑になんのかな……」
「武くんは死刑になるのが嫌なんですか?」
「いや……そういうわけじゃねぇが……」
俺たちも”人が決めた決まり”とやらに従う義務があるし。
どんな刑だとしても……受け入れよう。
せめて、妥当な刑を受けてほしいものだ。
この世に妥当な刑と言うものが存在するかはわからないが。