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クレイ=大地の傀儡=  作者: カッパ永久寺
六日目 凱旋
62/75

帰還

「足が痛てぇー!」

 荒野の中を俺は――ヤマタクレイは歩く。……鉛のように重い体を引きずりながら。

「くそう……もうこんなんじゃ歩けねぇぜ」

「武くん、それじゃあ私がおんぶしてあげましょうか?」

「おんぶ?」

「さぁ! 私の背中に身を任せるです!」

 絢は身をかがめ、おんぶのポーズをする。

 俺は――ヤマタクレイはその背中に身を任せ、

 プチ、

「絢ぁああああー!」

 絢は虱のようにみじめに圧死しましたとさ。

 おしまい。

「それで終わっちゃったらバッドエンドでしょーが!」

 そうだよなぁ。

 でも、そういう終わり方もみてみたい気がする。

 ……こういうブラックな終わり方じゃなくとも、

 たとえば、剛実が山の王者に君臨し、そして山の動物を従えて世界中を征服して、最後に高らかに『ターケタケタケタケ!』と叫んで締める終わり方とか……。

 もしくは、卑弥呼の引きこもりビームにより、世界中の人間が引きこもりになって終わるとか……。

 そ、そんな終わり方は嫌だ……。

「何やら武くん……妙なことをいろいろ考えてるようですが……」

「もう頭が痛くて……妙なことしか考えられねぇんだよ……」

 とにかく、早く休息したい。

 と思って、俺はその場でバタンキューと倒れる。

 ドスン、

「うわわわ、武くん!」

「パトラッシュ、僕はもう疲れたよ……」

「逝っちゃだめですよ! 武くん!」

 うー、眠い。そして暑い。

 読者の皆様の中で忘れている方もいるかもしれないが、……俺は今制服を着ている。

 さすがに学ランを脱いで、Yシャツと中のシャツを脱いで上は裸になっているが、それでも暑い。これ以上何を脱げって話だ。皮膚でも剥げというのか……。

「ほ、ほら武くん、早く立ってくださいです! 立て! 立つんだ武!」

「うー……」

 何とか頑張って立つ。

「あとヤマタ国までどれくらいまでなんだ?」

「えと……、結構歩いたからもうすぐじゃないんですか?」

「そうか……」

 それじゃあ、

「走っていくぜ!」

「えっ?」

 俺は猛スピードで正面に見えるヤマタ国に向かって走っていった。

「ま、まってくださいです武くん!」

 俺が走って数秒もしないうちに、絢の姿が点のように小さくなっていた。

「さぁ! あの太陽に向かって走ろうぜ! 絢!」

「待ってくださいですよ! 武くんのヤマタクレイじゃ私追いつけないじゃないですか!」

 俺たちは荒野をがむしゃらに走った。


 そしてヤマタ国に着く。

「おお、武殿」とのん気な声が聞こえる。声の主は引きこもり女王卑弥呼だ。

「はぁ……はぁ……、卑弥呼、お前帰ってたのか」

「おお、そうじゃ。……わらわの方が早かったようじゃのぉ」

 卑弥呼はツクヨミとの戦いのときに現れて、自分がおとりになって、俺をイザナギのところへ行かせ戦っていたんだったなぁ。

「……卑弥呼、お前大丈夫だったのかよ」

「ああ……。そうじゃのぉ……、まぁ、のぉ……」卑弥呼がのらりくらりと言う。

「そんなことよりも武殿、お主は大丈夫なのか」卑弥呼は話を変えた。

「ああ! 俺は勝って来たぜ!」俺は高らかに言う。

「イザナギを倒したぜ! これでヤマタ国に平和が戻るぜ」

「おおおおおー! ヤマタ国に平和が! それはなんと……、武殿! 主は……本当に素晴らしい男じゃ! このヤマタ国のヒーローじゃ! 武殿、お主には何と言ったらいいか……」

 卑弥呼は号泣していた。

「うう……武くん……」

 隣にいたスサノさんも号泣した。

 ヤマタ国を統べる兄弟は二人して泣き崩れていた……。

「ところで武殿、絢殿はどうした?」

「えと……実は……」俺は口ごもる。

「絢殿に何かあったのか……」

「絢は……絢は……もう……帰ってこないんです……」

「そ、そんな……」

「戦いの中、巻き込まれて……それで……」

「ううー! そんな馬鹿なぁ……」

「馬鹿なぁ……」

 絢、お前はもう天に昇っているか――――

 どうか、俺たちを温かく見守ってくれ――――

 完。


「勝手に殺すなーです! それとかってに終わるなーです!」

 絢が駆けつけてきた。

「絢! お前生きてたのか!」

「絢殿……お主生き返ったのか!」

「も、もしかしてゾンビなんじゃ……」

「勝手なこと言うなですー! だから私は死んでなんかいないですよー!」

 絢は怒った顔で俺の方を見る。

「絢、なーにそんなに怒ってんだよ」

「そりゃ怒りたくもなりますですよ! ……武くんに放ってかれて、荒野の中を一人走ってきて……おまけに勝手に死んだことにされちゃってたら誰でも怒りますよ!」

「まぁまぁ絢、俺たち勝ったんだし、細かいこと気にすんな」

「何が細かいことですか! 思いっきりマクロな話ですよ!」

 絢は体中をじたばたさせている。怒りがヒートアップして暴走機関車みたいになっていた。

「とにかく武殿、絢殿、まずはヤマタ国の中へ戻ろうかのぉ。……それからいろいろ話をしようじゃないかのぉ」

「ああ、そうだな。ついでにお茶とか出してもてなしてくれ」

「お主は女王に向かって何を言っておる……。まぁ、今日はお主は頑張ったから、それくらいはしてやろう」

「よし! それじゃあ行こうぜ! 絢」

「はいです!」

 俺たちはヤマタ国の内部へと歩いていった。


 久禮堂にてクレイを戻し、俺はクレイから離脱する。

「ふ、ふぅ……」

 ああ……、やっとクレイの中から出られた。

 すんごい解放感だ。……そういえば俺は昨日からずっと、およそ一日ほどヤマタクレイの中にいたんだよなぁ……。

 それで……ラスボスのイザナギと長い長い戦いを繰り広げてたんだなぁ。随分俺は酷なことをしていたんだなぁ。

 と言うわけで、もう体はタコのようになっていた。

 ぐにゃり、と地面に倒れる。

「うわぁ! 武くんがタコになってます!」

「うん、今の俺はタコなんだ……。無セキツイ動物なんだぜ」

「タコ焼きにして食べちゃうです!」

「フッフッフ……まんまと罠にはまったようだな。私のカラダを食べたものは……24時間以内に顔がタコに変化してしまうのだ!」

「な、何ですって!」

「ほぅらみろ! お前のくちびるがみるみるうちにタコくちびるに……」

「キャアー! です!」

「……お前たち何してるんだ」

 突然誰かの声がした。その声の方を見ると……そこにあの『大将』が立っていた。

 ……なんか妙なところを見られてしまった。

「お前たち、もう戻ってたのか」

「あ、ああ……。無事に勝って帰って来たぜ!」

「そうか、それはよかったな……」大将の顔は自然と微笑んでいた。

「チュー、うわぁ! くちびるが チュー! タコくちびるに!」

「お前まだそのネタやってるのかよ!」

 絢が必死になってタコくちびるをしていた。

「お前には散々助けられて、それで最後にはヤマタ国を救って……、ホントありがとうよ武、もうお前はガキじゃねぇかもしれねぇなぁ」

「な、何大将らしくねぇこと言ってんだよ……」

 べ、別に嬉しくなんかないんだからな!

「そういえば、お前の連れのやつは大丈夫なのか?」

「俺の連れのって……剛実のことか?」

 剛実……

 剛実だああああああああああああああああ!

 あいつどうなってんだああああああああああああああああ!

「早く剛実のところいかねぇと剛実がああああああああああああ!」

「た、武くん落ち着いてくださいです! 剛実くんの怪我ならちゃんと手当てしましたから……」

「そ、そうなのか……」俺は少し安堵する。

「まぁでも……まだ起きてなかったから大丈夫でしょうかねぇ。……もしかしたらもう起きてるのかもしれませんけど」

「そうか……とにかく剛実のとこへ行こうぜ! 早くあいつの顔拝まねぇと気が済まねぇんだよ」

「もぅ、武くんせっかちですねぇ……。さっきまでタコになってたのに……」

「今の俺はイカだ!」

「あんまり変わってないような気が……」

「とにかく行こうぜ絢! 剛実は何処に居るんだ!」

「ホノニギさんの研究所です!」

「よし! 行こう!」

「おう! です!」

 俺たちは久禮堂を駆けて出ていく。

「よくやったな、武」

 大将がそう言ったような気がした。



 

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