罪
「はぁ……………………っ」
俺は大きな息を吐いた。
先ほどから何度も言っているが、……俺の体はもうぼろぼろだ。
腕と脚は木の棒、腹は拘束されたようで、頭の中と外はフラフラ……立っているのがやっとである。
先ほど絢の力で少しましになったように思えたが、あまり体の損傷とかは回復していない。
そんなフラフラな状態で立っているヤマタクレイのもとに、絢とホノニギさんが来た。
「やったです武くん! 完全勝利です!」絢がガッツポーズしている。
あれは完全勝利と言えるのだろうか……。相手が勝手に白旗上げたようなもんだし……。あのまま普通に戦ってたら間違いなく俺は……殺されていたはずだが。
とにもかくにも俺は生きている。……絢を守ることができた。
まずはそれを喜ぼう。
「おっしゃー!」俺はガッツポーズをする。
ちなみに剣道の試合でガッツポーズしたら……駄目な決まりになっているが、まぁ今回は剣道の試合じゃないし、無礼講といこうか。
俺はうれしさのあまり絢に抱きつく。
「って、そんなことしたら私踏みつぶされちゃいますよぉー!」
絢に近づこうとしたら絢は後ずさっていった。
「最期にお前が踏みつぶされて終わったらいいオチになると思うんだが」
「それバッドエンドですよー!」絢が叫ぶ。
「武くん……よく頑張ってくださいました。これで……ヤマタ国も平和になります」
「ああ! ホノニギさん! これで心置きなく元の時代へ帰れますね!」
「……ええ」
ホノニギさんは向こうのイザナギクレイを見た。
イザナギクレイはピクリともしない。
おそらく意識を失っているか、ただ黙っているかのどちらかだ。
「ホノニギさん……えと、これからどうしましょう……」
これから、というのは、
倒したイザナギのことだ。
倒したと言ってもまだ生きている。……これからイザナギをどうしようか。
「……お二人とも、先にヤマタ国に帰っておいてください」ホノニギさんが言った。
「僕は……レッカさんとお話ししますから……」
「そうですね……」
「それじゃあヤマタ国に戻りましょう、武くん」
「ああ」
俺と絢は扉を開けて部屋を後にする。
「ホノニギさん、またあとで」
「はい……」
部屋の扉を閉める。
俺たちは歩いていった。
「――――イザナギ、俺を還せ」
イザナギがそう言うと、イザナギクレイの頭上から白い珠が現れ、それが浮遊し、地面へと移動し、移動した珠は次第に形と色を確かにしていき……イザナギの形となった。
「レッカさん」ホノニギが呼んだ。
「ホノニギさん……お久しぶりです」
「お久しぶりって、この前会ったじゃないですか」
「そうですね……」イザナギはうつむく。
「レッカさん……あなたはこれからどうするんですか。……もう、世界を救うことは辞めますか……?」
「世界を救うねぇ……。ホント、どうしてそんなバカげたことを……俺は命を懸けてやってたんだろうなぁ」
「バカげたことじゃありません」ホノニギが言った。
「ただ……方法を間違えただけです」
「方法……だけじゃない。時代も間違えたんだ」レッカが言った。
「俺たちは、この時代に来ちゃいけなかったんだ。……もとの時代で生きなければならなかったんだ。……それが俺たちの罪だ」
「レッカさん……」
「ホノニギさんはその罪を背負い、反省し、元の時代へ戻ろうとした。……だが、俺は間違えた。罪を重ねて、罪を幾重にも幾重にも重ねて……取り返しのつかないことになってしまった。俺の罪はもう、背負おうにも背負えないほどの大きいものになってしまった」
イザナギは顔をうつむけた。悲しい顔をしていた。
「俺は、罪を償う……」イザナギはつぶやいた。
「もう償えることもできないような大きな罪を背負ってしまったが……。これでもう、終止符を打とう。ホノニギさん、俺をヤマタ国へ連行してくれ。……そして、俺を裁いてくれ。ヤマタ国の人たちで」
「連行って……裁いてって……。レッカさん、あなた、そんなことしたら」
「死刑になるかもしれない」イザナギは顔を上げた。
「とにかく、もう俺は裁かれるしか道はないだろう。人を殺したんだ。……裁かれて当然だ。死刑で当然だ」
「レッカさん……」ホノニギはレッカを見つめた。
「レッカさん……分かりました。それがレッカさんの意志なら、そうしましょう。レッカさんを捕えて、ヤマタ国へ連行します」
「ああ……」イザナギはうなずいた。
そのイザナギの方へと、ホノニギは歩み寄る。
イザナギはうつむいて、ただそこに立っていた。
ホノニギはみすぼらしい姿のイザナギを悲しい目で見ていた。
「あの巫女装束は……」イザナギがつぶやいた。
「ああ……。あれは……」
「妻のようだった」イザナギがつぶやいた。
「俺はあれで心を洗われた。……あれで正気に戻った。……本当に俺は、どうしようもないなぁ」
イザナギはうつむいた顔のまま微笑した。
「レッカさん」ホノニギがイザナギの前に来て言う。
「あなたと、あなたの奥さんの、……本当の名前を教えてください」
その言葉を聞いたイザナギは。
「ああ……そうだな……」
そしてイザナギは口を開いて、その名前をつぶやいた。
「そうでしたか……」