括り
部屋は静寂に満ちていた。
その中で――イザナギは、葛藤していた。
目の前の――流山武を、殺すか――生かすかを。
「…………」
イザナギクレイが前に構えた剣は、がたがたと震えていた。
ヤマタクレイは動かなかった。
もう動こうにも、なんの力も残っていなかった。
燐は力を使い果たし、
中の武は――体中あちこちに傷を負ったまま意識を失っていた。
その状態で、長い時間が過ぎた。
外はもう真夜中。
そこに……
「く、くふぅ……この道長いですねぇ。まだ着ないんでしょうか……」絢が力なく言う。
「もうすぐだと思います……」
ホノニギは真剣な面持ちで歩いていた。……武がどうなっているか、イザナギがどうなっているか、いろいろなことを憂えていた。
ホノニギは隣の絢を見る。
「絢さん……きっと、大丈夫でしょうねぇ……」
「何弱気なこと言ってるんですかホノニギさん! 縁起でもない! 武くんはきっと大丈夫ですよ!」
「絢さんは、武くんを信じてるんですね……」
「ホノニギさんは武くんを信じてますか?」
「そうですねぇ。武くんは大丈夫だと信じています……きっと……」
ホノニギには絢が勇ましく思えた。こんなにも信じあえる関係……、そんなすばらしいものがあればきっと何でも乗り越えることができるだろうと思った。
「あ……、あれが扉です」
二人は正面の朱い扉の前に来る。
扉を開けて中に入る。
「さぁ! 武くんはどこですか! って……」
絢は目の前の光景に驚く。
「うわわわ! 武くんが大ピンチです――! どうなってんですかこれは!」
絢はヤマタクレイのもとへと駆けよる。
イザナギクレイは部屋へと入ってきた絢を見た。
――またガキガキやがったか、とイザナギは思った。
「くふぅ~! 武くん起きてくださいです! 何寝てんですか! 死んだふりしても敵は逃げませんよ! 現実逃避なんか駄目ですよ! 現実逃避なんかしたら引きこもりになっちゃいますですよ!」
そう勝手に叫ぶ絢。そしてそれを言い終えると、後ろに振り向き、イザナギの方を向き――
「あっかんべぇー、です!」下を出し、イザナギを挑発した。
……な、何なんだこいつは。
イザナギは、その容姿をよく見てみた……
「……⁉」
……あれは。
イザナギは、言葉が出なくなった。
あれは、イザナギの知る人――に似ていた。
あの服は、あの巫女装束は……
「……あ……」
イザナギは口をぽかんと開けていた。
――そうだ。これは……目の前のあいつは……。
――俺の求めていたもの……。
――俺のなくしたもの……。
「さぁ、クレイ起動です! 行くですよ武くん!」
絢は形見の桃色の勾玉を取出しそれを掲げる。
クレイはピカピカと白く点滅する。
「武くん! 早く終わらせちゃいましょうです!」
「ん……ん……」俺は目を開いた。
辺りはヤマタクレイの中。……俺は、確か……。
眼前にはイザナギクレイ。
そうだ。……俺はイザナギクレイに……ボコボコに、蹂躙されて、それで意識がなくなって……今まで倒れていたのか。
そして今まで……生きていたのか。
と……あれ?
体中がズキズキと痛んでいたはずだが……今はそんな痛みが全くない。
……一体、どうなっているんだ。
「武くん!」
この声は……絢の声。絢が来ているのか!
「絢!」
絢の方を見る。
絢の手には勾玉がある。
そうか……これは絢の力。
「武くん! 私が助けに来てあげましたですよ!」
”私が助けに来てあげましたですよ”って……。
ははは……。これじゃあどっちが助けてるかわかんねぇじゃねぇか……。
「絢! 離れてろ。……今度は俺がお前を助けてやる」
「くふぅ~! 武くんカッコいいです!」
絢は後ろの方へ下がる。そこにはホノニギさんがいた。どうやらホノニギさんも来ていたようだ。
「さぁ行くぜ! イザナギ!」
俺はイザナギの方へと向かう。
イザナギは……剣を下げていた。
こちらに気づいていなく、向こうのホノニギさんの方を見ていた。
「てやぁー!」
イザナギクレイに剣を入れる。
イザナギクレイはいとも簡単に地面に倒れた。
「うぐ……ぐ……」
「イザナギ! これでお前は元に戻れ! 元の自分に戻れ!」
俺は剣を振る、イザナギクレイは動こうとも防ごうともせずその攻撃を受けた。
ガシャァァァァアアアアーン!
イザナギクレイにいくつかの損傷ができた。
イザナギクレイは動かない。
「おい……イザナギ、どうしてお前、動かないんだよ……」
イザナギクレイは俺の言葉を聞いて……ゆっくりと立ち上がる。
そして……イザナギクレイは……突然、その場で、
正座をした。
そして……
「俺が……悪かった……」
イザナギは頭を地面に付けた。
「これは……全部、俺の罪だ。……俺が全部悪かったんだ」
イザナギクレイは震えながら……土下座をしていた。
「俺を裁いてくれ……俺を……こんな俺を……」
俺は、イザナギクレイに近づき、
「ああ。裁いてやるぜ! 俺が」
俺は剣を振りかぶり、イザナギクレイの脳天に剣を振り下ろした。
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアンー!
これで終わった。