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クレイ=大地の傀儡=  作者: カッパ永久寺
五日目 決戦
52/75

懺悔:ホノニギ

「先ほどお話しした通り、僕とレッカさんとレッカさんの奥さんはこの弥生時代にタイムスリップしてきました。もっとも、ヤタクレイに乗った時はどこの時代にタイムスリップするかなんてわかりませんでしたが……。

 僕たちは白い光に包まれて、そして辺りが真っ白になって、そしてまどろみの中……気づいた時には僕はヤマタ国にいたんです。僕は驚きました。眼前には弥生人の人がいまして、辺りにも弥生人がたくさんいまして……僕は夢でも見ているんじゃないかと思いました。そしてしばらくして、ヒメノミコト様とスサノさんが現れました。……その当時のヒメノミコト様はまだ14歳で、まだ女王としては初々しかったですね。それでヤマタ国のことについていろいろ聞きまして……、それで、あらかたのことは理解しましたね。……僕が戦禍の中にあった元の時代から、この弥生時代にタイムスリップしたということ。そして僕はヤマタ国というくにに連れてこられたことをわかりました。

 僕はその時、僕を連れてきた弥生人に僕が倒れている周りに誰かいなかったかと訊きましたが……誰もいないと言っていました。そのあと、弥生人の人たちと共に僕が倒れていた場所へ向かったんですが……そこには瓦解してぼろぼろになったヤタクレイがあっただけで、ほかには何もありませんでした。僕は……レッカさんたちはどうなったんだろうと思いました。別の時代に飛ばされたのか、はたまた別のところに飛ばされたのか……。前者なら調べようもありませんんし、後者だったとしても辺りは荒野ですから、調べようもありませんでした。とにかくレッカさんたちは行方知れずになったわけです。こうなっては……どうにもこうにもできませんから、僕はレッカさんたちのことはあきらめてその場を後にしました。そこにあったヤタクレイは後日回収しましたが……ぼろぼろになっていて使い物になりませんでした。

 僕はヤマタ国に戻ってもずっとレッカさんたちのことを考えていました。……レッカさんたちは生きているのか、元気でいるのか、どこに居るのか……。考えても仕方のないことでしたが、考えられずにはいられませんでした。……まぁ、いくら考えてもどうにもならなかったので、時と共にしだいにレッカさんたちのことは考えなくなりましたけどね……。どこかで元気に暮らしてるだろうと、勝手に頭の中で補完していました……。

 ヤマタ国では僕は便利屋さんみたいな感じで働いていました。……土器などの工芸品、もしくは日時計とかの発明品を作って生計を立てていました。ヒメノミコト様は僕に研究所をくださったんです。『ホノニギ研究所』……。僕が研究所で仕事をしていたと言ったらくださったんです。……ホント粋なはからいですねぇ。それで僕はモノを作って生計を立てつつ、いろいろな研究をしていました。まずは暦を調べましたね。今が太陽暦で何月何日か……。そしてクレイの研究をしました。クレイ、ヤマタクレイというのは、絢さんには前にもお話ししましたが、昔からこのヤマタ国にあったものなんです。僕はヒメノミコト様の許可を得てヤマタクレイの研究を始めました。研究といっても何分弥生時代ですからちゃんとした機材もありませんでしたから研究には時間がかかりましたけど、もともと研究していたものだったので、あらかたのことは研究できました。ヤマタクレイには昔人が乗って戦っていたと聞いたことがあります。しかし……戦いが終わって、その乗っていた一族が途絶えてヤマタクレイに乗るものがいなくなっていました。そのせいなのか、ヤマタクレイには霊的なエネルギーがほとんどなくなっていて、その当時はヒメノミコト様はヤマタクレイを動かせませんでした。……クレイはエネルギーがないと動くことができないんです。

 それからまぁ、クレイの研究と暦の研究をしていましたね。暦の研究は元の時代に戻るときに必要だと思って研究していました。僕はその当時はクレイを使って元の時代に帰る方法を模索していました。正直なところ、その当時はまだ元の時代に帰ろうなんて思っていませんでした。しかし……心の片隅では、僕は元の時代に帰ろうと思っていたんです。……たしかに、この弥生時代でのんびり過ごしていくのは悪くない話ですが……しかし、やはり、この時代に自分がいるのは間違いだと思いました。あの時は逃げるのに必死でタイムスリップをしてしまいましたが……しかし、自分は自分のいた時代に戻らなければ、帰らなければいけないと……思ったんです。どんなにひどい時代でも、そこは自分の生きる時代です。そこで戦わないといけないと……僕は思ったんです。

 そしてそれから4年のときが過ぎまして……僕はもう34歳になったましたね。ヒメノミコト様も18歳になりましてすっかり大人になりました。もっともこの時代では10歳ぐらいで大人になりますけどねぇ。僕は相変わらずクレイの研究をしていました。で、ある時、村の老人から『モサク一族』の話を聞いたんですよ。昔ヤマタ国はモサク一族と戦っていたとかいう話を聞きました。今はそのモサク一族がどうなっているか不明になっていると聞きました。それで、モサク一族とヤマタ国はクレイを使って戦っていたという話を聞きまして……クレイを研究していた僕はモサク一族について興味を持ちました。そして老人からモサク一族の棲家――遺跡を聞いてそこへ向かってみたんです。

 ヤマタ国から北東へずっと向かって進むと、そこに大きな石組の遺跡が見えました。こんな精巧な石組の遺跡があるんだなぁと感心しながら、僕は中へ入っていきました。まぁ、モサク一族はもともとヤマタ国の敵だったので、こっそりと入っていったんですけどね。こっそりと入ってこっそりと中の様子を覗こうと思っていたんですが……。

 その中に僕の知る人物がいたんです。

 レッカさんと、レッカさんの奥さんが……3人の子供に囲まれてそこにいたんです。僕は口を押えて驚きました。そして……涙が止まりませんでした。レッカさんは僕の方へと駆けよって、そして……『お久しぶりです、ホノニギさん』と言いました……。

 レッカさんとレッカさんの奥さんは……タイムスリップした時そのモサク一族の遺跡の前に不時着したそうです。そして、起き上った二人は何が何だかわからないまま遺跡の中に入っていって、そこで3人の子供……山仁(やまひと)くん、海斗(かいと)くん、月子(つきこ)ちゃんと出会ったんです。月子ちゃんが話していた通り、モサク一族は飢饉と、それによっておこった紛争で壊滅状態、絶滅状態になり、残ったのはこの3人の子供たちだけになってしまっていたそうです。レッカさんと奥さんはその3人の子と出会い、そしてモサク一族の事情を子供たちから聞いて……この3人を育てていこうと思ったそうです。この弥生時代に来てからレッカさんたちは4年間ずっとこの遺跡で3人と共に過ごしていたというわけです。

 僕はその日、レッカさんたちと食事をすることになりました。食事の席にはレッカさんとレッカさんの奥さん、そして山仁(やまひと)くん、海斗(かいと)くん、月子(つきこ)ちゃんの3人の子供たちが座っていました。子供たちは突然来た僕に少し驚いていましたが、久しぶりに出会ったレッカさんとの会食は楽しいものでした。……ちょうど、初めてレッカさんの家に来た時のような……そんなあったかい感じがしました。3人の子供たちは……もう、子供たちというほど幼い年頃ではないですが、3人はレッカさんと奥さんを慕っていて……本当の家族のようでした。本当にあたたかい感じがしました。

 僕はレッカさんに僕のヤマタ国での生活のことについて、クレイの研究について話しました。そして……帰り際にレッカさんに元の時代に帰りたいかどうか訊いてみました。そしてらレッカさんは――今の生活を続けたいと言いました。

 僕は自分の考えをレッカさんに押し付けるつもりもありませんし、それにレッカさんが……過去のことと決別しているのならそれでいいと思いました。元の時代に帰るというのはあくまで僕の考えですから、レッカさんの考えではありません。僕はそのレッカさんの意見を受け入れて、僕は洞窟を後にしてヤマタ国へ戻りました。まぁ、そのあとも週に一回ほど洞窟に(おもむ)いて食事をしたりはしましたけどね。……しかし、レッカさんと僕との考えは反対方向の考えでした。どちらが悪いとかどちらがいいとかはありません。まぁ、そんな感じで半年がが過ぎていきまして……。

 ある日、レッカさんの奥さんが子供を授かりました。

 レッカさんたちの初めての子供でした。レッカさんの奥さんのお腹は日に日に大きくなっていきました。そんな様子を子供たちはうれしそうに眺めていました。まるで自分たちの本当の弟が生まれるみたいに、楽しそうに眺めていました。お腹の子の名前は早いうちに決まっていて、――『燐』という名前でした。燐君はもうすぐ生まれる……ところでした。

 しかし……現実は残酷なものでした。

 燐君が生まれた日……レッカさんの奥さんは……死んでしまいました。

 十分な医療も何もなく、助産師もいませんでしたから……出産は大変困難なものでした。僕はその時居合わせていなかったのでそれを知ったのは後からなのですが……。

 レッカさんの奥さんは土の中に。そして残されたレッカさんは子供たちと共に失意の中にいました。そんな中、泣き叫んでいた燐君……。レッカさんは……心に相当なダメージを負っていました。そのダメージのせいで、今まで心の中に抑えていたあの過去のことも込み上げていて……。

 そしてレッカさんは、我が子を殺しました。

 僕がすべてを知ったのは事がすべて終わってからでした。すべてが後の祭りでした。僕が気付いた時にはもう……二人が死んでいました。どうして……こんなことになったのか、あんなにあったかかった日々がどうして暗転してしまったのか……。

 レッカさんは遺跡のずっと奥の方に隠れていました。その中に入って……僕はレッカさんに会いました。その部屋のテーブルには、紅い色が塗られた刃物がありました……。

 レッカさんは僕に訊きました。『自分はどうすればいいのか……』と。僕は……言葉が見つかりませんでした。何もかも無くなって、修羅に堕ちたレッカさんを……もうどうにもできませんでした。

 僕はその日から遺跡には向かいませんでした……が、やはりレッカさんのことが気になってそれから数か月後、また遺跡に向かってみたんです。そして、久しぶりに出会ったレッカさんは……

 レッカさんは、険しい顔をしていました。

 その顔には……微塵の明るさも希望もありませんでした……。あるのは絶望だけでした。レッカさんはそんな顔で僕に一言『もうここに来るな』と言いました。

 レッカさんは……ヤマタ国を襲うと言いました。ヤマタ国を襲ってヒメノミコト様を殺すと言いました。どうしてそんなことをしようとするのか僕はレッカさんに尋ねました。レッカさんは……『この世界を救うためだ』と言いました……。

 僕とレッカさんが元いた時代で戦争を起こしたモザークの祖先は……卑弥呼の祖先なんです。卑弥呼……おそらくヒメノミコト様のことです。レッカさんは……ヒメノミコト様が死ねば、つまり卑弥呼が死ねば……元の時代のモザークという組織なんてものがそもそもなくなると考えたんです。そうすれば……自分の元いた時代が救われる、世界が救われる……レッカさんはそう思ったんです。

 しかし……そんなことをしても、今のレッカさんが救われることはありません。世界は救われたとしても……レッカさんはずっと闇の中で死ぬまで生きていかなければなりません。僕は何度もレッカさんに襲撃をやめさせようとしましたが……レッカさんは聞く耳を持ちませんでした。レッカさんに再度『もうここに来るな』と言われ……僕はしぶしぶヤマタ国へと戻っていきました。

 それからヤマタ国に戻った後、レッカさんがここを襲撃することをヒメノミコト様に報告しました。僕とヒメノミコト様は襲撃に備えるため久禮堂へ行ってヤマタクレイを見に行きました。どうせ動かないけど……どうにか動かさないと襲撃されてしまう。そう思って久禮堂の中へ入ってみると……ヤマタクレイが赤く光っていたんです。ヤマタクレイはエネルギーを取り戻したようでした。……まるで何かの霊がとりついたかのように。ヒメノミコト様はご自分の力を使って、クレイを起動し、操作しました。そして、その三日後、ヤマタ国にリングクレイがやってきました……。そしてそれからヤマタ国とモサク一族との戦いが始まったというわけです……」

 ホノニギは、喉を詰まらせながら話し終えた。

「世界を救うって……そういうことだったんですか。……でも、ヒメノミコト様が死んだら、レッカとホノニギさんはどうなるんでしょうか? モザークがいなくなるから……そうなったらそもそも弥生時代なんかにホノニギさんたちは来ることはなくなりますよね。そこらへんどうなるんでしょうねぇ」

「さぁ……どうなるかは前例がありませんからわかりませんが……。でも、人を殺すというのは……ずいぶん危ないかけだと思います。祖先を倒すということはその祖先から生まれたすべての人々がなくなるということですから……ヒメノミコト様一人を殺すだけで、たくさんの子孫が死んでしまうことになります。そうなったら、自分たちの元いた時代さえも違うものに変わってしまっているのかもしれません。下手すれば自分が死んでしまってるというか存在していないこともあり得ます。……自分がヒメノミコト様の祖先だったら自分が存在しなくなりますからねぇ……」

「それじゃあ……ヒメノミコトを殺しても元の時代が違うもとの時代に代わってしまうからあんまり意味ないんじゃ……」

「そうです。しかしレッカさんはそれでもヒメノミコト様を殺そうとしています。……それほどモザークが憎かったんでしょう。……レッカさんのご友人もモザークに殺されたと聞きましたし。すべての敵討ちをレッカさんはしようとしているのでしょう……」

「そんな……いくらヒメノミコトさんがモザークの祖先だからって殺すなんておかしいですよ!」

「そうです……。殺すなんて言う解決は……そもそもおかしな解決方法なんです。殺すことは自分を殺すことでもありますから……」

 ホノニギはうつむいていた。

「とにかく、僕はレッカさんを止めないといけません。これは僕たちの罪ですから、僕たちが償わなければなりません。僕は何としてでもレッカさんを止めて見せます」

 そう言って、ホノニギは立ち上がる。

「お二人とも、剛実くんの看病をお願いします。傷は塞ぎましたからもう大丈夫と思いますが、何かあったら村の人でも呼んでください。……僕はこれから遺跡へ向かいますから」

 そう言ってホノニギは入り口の方へとむこうとする。

 その時、絢が立ち上がった。

「ホノニギさん私も行かないといけませんです!」

「絢さん……」

「私、武くんのサポートするのすっかり忘れてましたから」

「あ……そういえばそうでしたね」

「武くんもう戦っちゃってますかねぇ。私のミラクルパワーなしで何とかなってますかねぇ……」

「さぁ、どうでしょうねぇ」

「『さぁ、どうでしょうねぇ』ってホノニギさん! そんな不安なこと言わないでくださいよ! 武くんが『な、なんじゃこりゃぁ!』とか言いながら殉職してたらどうするんですか! ま、とにもかくにも早く行きましょうですホノニギさん!」

「は、はい……」

「久那ちゃん、剛実くんのお世話お願いです!」

「はいはい……こいつの世話なら慣れてるからねぇ。頑張っていってきなさいね」

「はいです!」

「武に頑張ってって言ってきてね」

「はいです!」

 絢とホノニギは研究所を後にした。

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