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クレイ=大地の傀儡=  作者: カッパ永久寺
五日目 決戦
43/75

朝 其の肆

 久那との初めての出会いは、確か身長がまだ今の絢ぐらい(過言)の小学一年のころだった。

 古山神社の隣の公園にて、俺たちは遊んでいた。

 俺と絢、そして剛実、そして剛実の隣に、

 ――当時、見覚えのなかった少女がいた。

「こいつはおれのとなりの家の子なんだけどよ」若かれし頃の剛実が言った。

「くふ? お名まえは?」若かれし頃の絢が訊く。

「おとめやまくな」若かれし頃の久那が言った。

「くなちゃん?」

「うん」久那は無表情で言った。

「くふ、きれいな服です」絢が久那の服を眺め言った。

 久那の服はフリルの付いた上品なドレスを着ていた。

「それじゃあ遊びに行こうぜ!」剛実が突然言い出した。

「おう!」俺も続いて言う。

 そしてと俺が並んで歩く。その後ろを絢が歩く。

「くなも来いよ」剛実が後ろを振り返り言った。

 そうして4人が歩いていく。

 久那との邂逅は実にあっさりとした出会いだった。まぁ、このころは俺たちはガキだったわけで、人付き合いというものはこういう感じにあっさりで単純なものだった。

 そして久那とはこの日からずっと友人であった。

 久那は初めのころはおとなしい性格だったが、剛実の暴走、次いで絢の暴走に巻き込まれる中……突っ込み役というか、二人の(たまに俺も)保護者みたいになっていた。

 そして、絢の保護者である俺と境遇が合致していたからか、久那とは気の合う友人だった。

「ホント剛実のやつバカなんだから……」

「絢の野郎またアホなこと考えてやがるぜ……」

 久那との会話は7割ぐらいあの二人の愚行についての愚痴だったと思う。

 ずっとそんな感じで久那とは過ごしていたと思う。

 そして……俺と同じように久那はいろんな二人の奇行に付き合ってきた。

 そして今、久那は捕えられた。


 これは俺たちと付き合ってきたゆえの因果なのだろうか。

 もしそんな因果があるのだとしたら……俺はそんな因果を許さない。

 たとえ俺たちと付き合ってこうなってしまったとしたなら、俺たちは全力で久那を助けに行かなければならない。

 久那。

 あいつは真面目な奴だ。

 絢か剛実にマイナス符号を付けたかのような、馬鹿とは対極のやつだ。

 そんな真面目な奴を捕えるなんて……神様はどうかしてる。

 いや、神様なんてどうでもいい。

 そんなことよりも何よりも捕えられた久那を助け出さないと……





 朝。

 いつも3人が寝る竪穴住居の中。

「昨日のリングクレイの襲撃は……おそらくツクヨミの手によるものです」

 ホノニギが部屋の中の皆(俺と絢と剛実)に言った。

「ツクヨミって」

 誰だったけ。と皆が言う。

「……4日前にやってきたリングクレイを操っていたモサク一族の一人です。……まぁ、本人が出てきていなかったので覚えていないのは仕方ないとは思いますが……」

 そういえば『ツクヨミの輪偶久禮』とかどこかの誰かさんが言ってたなぁ。

「話を戻しますと……、昨夜、ツクヨミの馬型のリングクレイによって兵の宿舎とヒメノミコト様の宮殿、そのほか一部の建物が被害を受けました。……そしてリングクレイ襲来のさなか、久那さんが行方不明になりました……」

「行方不明って……見つからなかったのか?」

 あの後俺は疲労困憊で眠りについてしまったが、起きた後も久那がいないということは……

「昨夜、ヤマタ国の人たち総出で久那さんを捜索しましたが見つかりませんでした。おそらく……ヤマタ国には久那さんはいないと思われます」

「ヤマタ国にいないって……」

 それって……

「久那さんは……さらわれたのかもしれません」ホノニギさんが重い声で言った。


「さらわれたって……一体誰に……」

「分かりませんが、もしかするとモサク一族の誰か……いや、もうモサク一族はイザナギとツクヨミしかいないからツクヨミにさらわれたのかもしれません」

「ツクヨミ……でも、ツクヨミってリングクレイを動かしていたんじゃ……」

「リングクレイを動かしながらでもほかのことをしようと思えばできます。そのためには修練が必要ですが、ツクヨミはほかのことができるくらい修練を積んでいたんでしょう。ツクヨミはリングクレイを操りながらヤマタ国へ侵入、そしてヤマタ国の人たちの混乱に紛れて、久那さんをさらっていったんでしょう」

「そうですか……」俺はため息をついて言った。

「でも……、ツクヨミがここに侵入するとき、ツクヨミはどうして見つからなかったんでしょう? 入り口の門には一応兵もいたし、なによりも武くんがそこで戦ってたんでしょ? 武くん、戦ってる時に何か人影みたいなの見ませんでしたか?」

「うーん……あんときゃ戦うので精いっぱいだったから覚えてないが……。でも誰の人影もみてなかったと思うぞ……」

 それじゃあどうやってツクヨミはヤマタ国に侵入したのか。

「リングクレイに乗って、行ったんじゃないでしょうか?」

「リングクレイに?」

「ええ。リングクレイの陰に隠れれば誰にも見つからずヤマタ国の中へ入っていけると思います」

 リングクレイに乗ってか。

 確かに俺は3体のリングクレイを逃している。その3体のうちのどれかに乗って行けばヤマタ国の中に誰にも見つからず入れるということか。

 そして侵入してきたツクヨミが久那をさらっていったと……いうことか。

「剛実、どういう理屈かわかったか?」

「さっぱりだぜ!」

「お前はもうちょっと頭を使え……」

 仮にも幼馴染のピンチだというのに。

「まぁ、とにかくツクヨミってやつが久那をさらっていったって話だな」剛実が納得したような顔で言った。

「まぁ、簡単に言えばそうだが……」

「許さねぇぜ! ツクヨミ! 久那をさらっていくなんて……」

 そう言って、剛実は立ち上がり、

「俺が助けに行くぜ! 久那!」木刀を天に掲げる。

「ちょ、ちょっと待て剛実。落ち着けって……」

 俺だって内心じゃ落ち着いてないんだからさ……。

「でも久那ちゃん……大丈夫なんでしょうか……。モサク一族に連れて行かれるなんて……」

 昨日のワタツミや、その前のヤマツミ……そして極悪非道の『父上』のイザナギのことを考えれば……久那がさらわれたということは、かなり危険な話なのかもしれない……。

 まさか、殺されたりなんか……。

 そんなことを思うと悪寒が背中中に走った。

 絢と剛実も、そんな恐怖を感じたのか、背筋をぴんと伸ばしていた。

「確かに危険な状況ではありますが……しかし、モサク一族が久那さんを殺そうと思うならそもそもさらうことなんかしなかったと思います。さらうことには何か意味があったと思います」

「意味があったって?」

「生きてさらったということは……人質としてさらったんじゃないでしょうか」

「人質……」

 モサク一族は、久那を人質にして何をしようとしてるのだろうか。

 久那を餌にして、俺たちをおびき出そうとしてるのか。

「久那さんを人質にとって、そして僕たちをモサク一族の本拠地におびき寄せようとしてるのかもしれません。モサク一族は残るところツクヨミとイザナギ。残った二人で何とかして『信念』を叶えようとしてるのかもしれません」

「『信念』ってのは『ヤマタ国を滅ぼすこと』ですよね。……それでどうして俺たちをおびき寄せようと……」

「『ヤマタクレイ』を滅ぼすためかもしれません。ヤマタクレイさえ滅ぼせばヤマタ国は力を失いますからねぇ」

「でも……それでなんで私たちをおびき寄せるんでしょうねぇ。ヤマタクレイを滅ぼすならほかにも方法あると思いますですけど」

「さぁ……、もしかしたら僕たちをおびき寄せて罠にはめようとしてるのかもしれませんねぇ。何せ敵の本拠地におびき寄せようとしてるんですから、……その本拠地に最終兵器とかあったりするのかもしれません」

「最終兵器って……」

 久那を助けるために来た俺たちはその最終兵器の餌食となって……、

 罠にかかったネズミとなってしまう……。

「でも、敵が罠を仕掛けていたとしても……久那さんを助けないわけには行けませんよねぇ」

「そうですよホノニギさん! だから早く久那を助けに行きましょう!」

「そうですね……確かに早く助けに行った方がいいと思いますが……」

 そう言って、ホノニギさんは俺の方を向いた。

「武くん、体の方は大丈夫でしょうか?」

「体ですか? 大丈夫ですよ。ちゃんと熟睡しましたから」

 実のところを言うと、まだ若干昨日の痛みというか疲れが残っていた。

 しかし久那のピンチにそんな弱音は吐いてられない。

 俺は平静な顔で応えた。

「そうですか。それならさっそく久那さんの救出に向かいましょう」

「救出にって、モサク一族の本拠地に向かうってことですよね」

「はい……、そこでは戦闘になるかもしれませんから、ヤマタクレイに乗って向かいましょう」

 戦闘って……ツクヨミとイザナギととか?

 その二人を倒せば大団円で元の時代に帰れるのだが……。

 しかし、その二人と戦うとなるということは……もう最終決戦というところか。

 気を引き締めていかねぇと。久那の命がかかってるんだから。

「モサク一族の本拠地はここから北東の位置にある大きな洞窟です。そこはモサク一族が()んでいたところでしたが、……今はツクヨミとイザナギがいるだけです」

「そこにツクヨミとイザナギがいるのか……」

 モサク一族の本拠地ということは、ヤマツミもワタツミもそこに居たんだろう。

 リングクレイの襲来、ヤマツミの襲来、ワタツミの襲来……。

 幾度も襲来されてきたヤマタ国だったが、今回はこっちから来る番である。

 最終決戦――早くすべてを終わらせて元の時代に帰ろう。

「それじゃあみなさん、早く久禮堂に向かいましょうか。武くんはヤマタクレイに乗って、僕たちはそれに付いていく形でモサク一族の本拠地へ向かいましょう」

「はい!」

 一同は立ち上がり、部屋の中を後にする。


 久禮堂に向かう途中。

「くふぅ~……やっぱりヒメノミコトさんの宮殿駄目になっちゃってますねぇ……」絢が卑弥呼の宮殿を眺めて言った。

「引きこもりの治療にはいいんじゃないのか」

「なに! 引きこもりが治ってしまうとな!」

 突然、後ろで声がした。

 振り返るとそこには卑弥呼とスサノさんがいた。

「あ、卑弥呼だ。どうしたんだよ」

「どうしたもこうしたも、わらわは今家をなくしておるからこんな風に外におるのじゃ」

「やっぱり引きこもりの治療にはよかったんだな」

「引きこもりの治療とな⁉ ……そんな……わらわは引きこもりでなくなってしまうのか」

「あれ……? なんで引きこもりじゃなくなってしまうのに悲しんでんだ……卑弥呼は……」

「だって……引きこもりとは『とってもえらい人』という意味じゃろ!」

「えっ……?」

 引きこもり=とってもえらい人。

 ……そんな等号式が存在するのか……?

 隣の絢を見るとなぜか絢は困った顔をしていた。

「絢……お前何か言ったのか?」

「さぁて、わかりませんです……」絢はしらを切った。

 まぁ、なんか面白そうだから真実は伏せておこう。

 『引きこもり』の卑弥呼さん。

「それよりも、主たち、昨日久那殿がさらわれたようじゃのぉ」卑弥呼が言った。

「皆さん申し訳ありません……私たちが力不足なばかりに久那さんが……」

「スサノさんが謝ることじゃありませんよ。憎むべきはモサク一族です。……だから俺たちは今からモサク一族の本拠地に向かうつもりなんです」

「ほぉ、そぉじゃったのか」ヒメノミコトが言った。

「主たち……わらわが非力なばかりにいろいろ苦労させてきてすまんのぉ。主たちには言葉で言い表せないほどの感謝をしているぞ」

「感謝って……俺たちゃヤマタ国の人たちに頑張ってんだ。別に卑弥呼のために頑張ってんじゃねぇよ」

「わらわもヤマタ国の人間の一人なんじゃがのぉ……」ヒメノミコトが呟いた。

「それに今回は久那のためにも戦いに行くんだからなぁ。卑弥呼、スサノさん、これで全部終わらせてきます。そしてヤマタ国を平和にしてやります!」

 平和。俺たちのいた時代が当たり前に享受していたもの。

 それを……ここの人たちにも感じてもらいたい。

「おお……主よぉ……」卑弥呼は感動していた。

「ね、姉さん……そんなに泣かないでくださいよ……」

「だって……武殿が……あんなにも頼もしいから……わらわよりも頼もしいから……」

 『わらわよりも頼もしい』って……あんたこの国の女王じゃなかったのか……。

「……スサノさん、それじゃあ急ぎますので卑弥呼のことお願いします」

「あ、はい。武くん、頑張ってきてください。そして、どうか生きて帰ってきてくださいね!」

「はい」俺は答えた。

「うぉおおー!」卑弥呼はなおも感動していた。


「おーい! ガキども!」

 またまた後方から声が聞こえた。

 声の主は……大将ことタヂカラオ。

「おう……大将じゃねぇか」

「大将じゃねぇかとはなんだ。ガキは年上を敬え!」

「そのガキに助けられた奴の言う言葉かよ」

 俺がそう言うと、大将ははにかんだ顔になった。

「まぁ、今はとにかくお前の力を頼るしかないようだなぁ……。うちの宿舎をぶっ壊しちまうような奴だからなぁ」

「宿舎の方は今どうなってんだよ」俺が訊く。

「今修復中だ。それと負傷した兵の手当ても行ってるところだ」

「そうか……」

「で、お前たち。お前たちは今からどこかに行くのか?」

「ああ……、今からモサク一族の本拠地に行くところなんだ」

「モサク一族の本拠地……」タヂカラオはつぶやく。

「……お前たちは、モサク一族と戦いに行くのか」

「ああ。なにせ久那の命がかかってるんだからなぁ」

「そうか……それなら気を付けてこいよ」

「ああ」

「……死ぬんじゃねぇぞ、絶対に」

「ああ」

「お前は俺を助けてくれた。俺に敵わない敵をお前はあっさりと倒してくれた。お前は強い。強くなったはずだ。だから胸を張って戦って来い! そして胸を張って帰って来い!」

「ああ!」

 そう言って、俺たちは久禮堂へと向かっていった。


 久禮堂の中。

 巨大な武人の土人形、ヤマタクレイと対峙する。

「俺、最初はこの人形を嫌ってたっけな……」

 俺たちをタイムスリップさせた諸悪の根源と言って俺はこの人形を嫌っていたが、

 しかし、俺はこの人形に乗って、リングクレイと戦って、ヤマツミと戦って、ワタツミと戦って……

 たった数日間だったが、この人形とは随分と世話になった。

 燐。

 その名を呼ぶと、俺はヤマタクレイに乗れる。

 その名はヤマタクレイの名なのか、誰かの名なのか……

「おい、燐」俺はヤマタクレイに呼びかける。

「お前は一体誰なんだ?」

 俺の問いかけにヤマタクレイは応えず、そのまま俺をヤマタクレイの中へと入れた。

 ……結局教えてくれないのか。

 とにかく今はモサク一族と戦うことを考えないと……

 

 ――――僕は『父上』が憎い――――


「えっ?」

 その声は『燐』の声なのだろうか。

 『父上』……父上ってモサク一族のイザナギのことなのか……。


 ――――ともに『父上』を討とう。そして運命と闘え――――


 ともに戦い、そして運命と闘えと――、

 『運命』とは一体……

 俺の運命のことなのだろうか。

「運命だか何だか知らねぇが俺は戦ってやるぜ! 待ってろよ久那! 俺たちが助けに来てやるからよぉ!」

 運命も神様も知らない。俺たちは俺たちで生きて、俺たちで戦ってやる。

 久禮堂の戸をあけて、ヤマタクレイは歩き出す。

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