宴 其の参
「……ホント、今日はいろんなことがあったわねぇ」
久那が、中央に燃える炎をぼんやりと眺めながらつぶやいた。
「まるで夢のような一日だったわね。ていうか……夢じゃないのこれ?」
「くふぅ~、夢じゃないですよ久那ちゃん」
「俺も前は夢だと思ってたがな……」
突然来た久那にとっては今日のことは充実過ぎるというかハチャメチャすぎただろうなぁ。
「そういえば……久那、お前のいたというか、俺たちのいた時代ってのはどうなってたんだよ? ……俺たちが捜索されてたりするのか?」
「そういやあんたたち学校で話題になっていたわねぇ」
「話題になってたのか……」
「絢と剛実がまたなんかやってるのかとか言ってたわねぇ」
「俺はなんて言われてたんだ?」
「武は二人に巻き込まれたんじゃないかって言われてたわよ」
「そうか……」
やはり、誰も俺たちが弥生時代にタイムスリップしてるなんて思わないだろうなぁ。
そんな荒唐無稽で支離滅裂で奇想天外で摩訶不思議なこと思わないだろうなぁ。
せいぜい絢のハチャメチャに巻き込まれたと思われるぐらいだ。絢とつるんでるせいか、俺は(というか俺たちは)多少妙なことがあっても驚かれないようになってしまったようだ。絢の幼馴染の『運命』というやつなのだろうか。そんな運命背負いたくないもんだ。
「でも……ホントに帰れるのかしらね。元の時代に……」久那が呟く。
「そんな悲観したこと言うなよ……。俺も頑張ってんだしさ」
「そうだったわねぇ……。武、今日もめちゃめちゃ頑張ってたしねぇ」
「ああ……」
ヤマツミが殺され。
ワタツミが自害し。
残るは……えと、モサク一族の残りは何人だ?
あとでホノニギさんにでも聞いておこうか。
「とにかく……俺はモサク一族を倒して、そして元の時代に帰るんだ。そのために頑張らねぇと」
「武……なんか若干剛実みたいになったわね」
「へ?」俺は驚く。
剛実みたいに? 俺が?
「いや……なんか言うことが真っ直ぐになったというかさ。前の武だったらあんまりそういうことは言わなかったような気がするんだけど」
「そうなのか……」
ここに来て4日間。たしかにボリュームがありすぎるほどの出来事に見舞われたが……。そのおかげで俺も変わることができたのだろうか。
あれだけのことがあったんだから、少しぐらいは変わったのだろうか。
「俺は……変わったのかな」
「何呟いてるんですか武くん」隣に来た絢が訊く。
「……お前は身長が変わんないんだな」
「何言ってるですか! 武くん!」憤慨する絢。
「ホント絢って小っちゃいわね。小っちゃくてかわいいわね。よしよし」
「く、くふぅ~! 久那ちゃん頭なでないでくださいです! 私は子犬じゃないんですから」
「ほ~らワンって鳴いてぇ」
「ワン! って何言わすんですか!」
そんな感じで絢は久那にもてあそばれていた。
そんな風に時間を過ごしていると、
「ん? なんだろこの音?」突然、久那が言いだした。
「音?」
「音ですか?」
「音なのか!」
「うん、なんか音がしないかしら?」
俺たちは耳をそばたててみる。すると……
……ドン――――
かすかにドンという音が聞こえた。ような気がする。
「太鼓の音……みたいだけど」
「太鼓の音……」
太鼓の音。確かに今現在は宴の最中だが、太鼓の類の物は演奏されてないし存在もしていない。
それじゃあこの音は……。
どこかで聞いたことある音だぞ。
確か……
「うーん……何だったけ」
俺はぼんやりと北東の方を眺めると……
一瞬、何かが見えた。遠い向こうに、何か黒い塊のようなものが動いたような気がした。
「何なんだありゃ……」
「ん? 何なんですか?」
「いや……向こうに何かあるような気がするんだが……」
そう言うと、絢たちは向こうの方をじっと見据えた。
「何かあるよぉな……何かないよぉな……。武くん、向こうに何があるですか?」
「さぁな……暗くてよく見えないから……」
「馬だ!」突然、剛実が叫んだ。
「え?」
「でっかい馬がいるぞ!」
「な、な、何だって!?」
そう言われて俺たちは北東の方を見る。
そこにあった黒い塊は、次第に形が確かになっていき、
それは……
馬の形になった。
馬の形の大きな埴輪が見えた。
「あ、あれはリングクレイ!」
「リングクレイですか!」
ドン――――ドン――――ドン――――ドン――――
大地を震わす音が次第に次第に次第に次第に……大きくなっていった。