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クレイ=大地の傀儡=  作者: カッパ永久寺
四日目 死守
39/75

臨戦

 何とか間に合ったみたいだな……。

 穴が塞がった瞬間、俺はクレイの中に入って、そして急いでここに向かった。

 そして目の前のワタツミクレイに突撃したわけだが。

「……大丈夫ですか、大将さん」

 何も考えずに突撃したので、もしかしたら大将さんを踏んでしまったのかもしれない。

 そ、そんなことだけは……起きちゃいかん!

「おう……ガキ」大将が言った。

 大将はヤマタクレイの左下辺りにいた。

「頑張って来いよ……」大将が言った。

「ああ」俺は返事した。

 そして、正面のワタツミクレイを見る。

 ワタツミクレイは槍を構えてこちらを見据えていた。

「ようやく来たか。流山武。尻尾を巻いて逃げたかと思ったが、間一髪のところで来たもんだなぁ」

「へへっ、俺が逃げると思ったのかよ!」

「とにかく来てくれてうれしいぜ。これでお前を殺しきれるんだからなぁ!」

 ワタツミクレイが槍をぎゅっと構える。

「さぁ! 来い! 流山武! この槍を越えて俺を倒してみろ!」

「上等だ! 俺はお前の槍を超えてやる!」

 俺はもう油断なんかしない。

 俺は何としても勝たなければ。

 俺はもう……死なない。

 死んでやるもんか!


 ヤマタクレイとワタツミクレイは、ヤマタ国より少し離れた位置の広い荒野へと移動した。

 荒野にはヤマタクレイとワタツミクレイ。

 二つの傀儡(クレイ)が対峙する。

「さぁ! かかって来い!」

 ヒュン――ヒュン――ヒュン――

 ワタツミクレイの槍が薙がれていく。

 その槍の薙ぎは、じりじりと俺の間合いへと近づいていき、

「おりゃあ!」

 ヒュン――

 ヤマタクレイの真横に薙がれる。

 が、ヤマタクレイは、

 ヒョッ、

 と素早く跳躍し(かわ)す。

 集中だ。集中だ。

 絶対にあいつの間合いへ行ってやる!

 続いて、ヤマタクレイの横にさっきとは逆方向からの薙ぎが来る。

 ヒョッ、

 俺はそれも躱して、そしてついにワタツミクレイの懐へと来た。

 絶好のチャンスだ。

 俺はワタツミクレイの胴に向かって、

「ドオオオオオオオオ!」

 胴打ちをした。

 胴打ちをした俺は、素早くワタツミクレイの横をすり抜けていく、

 そして、残心を取り、

 ……やったか?

「ハハッ、結構やるじゃねぇか」

 そこには無傷のワタツミクレイが槍を携えていた。

 防がれたのか。くそぅ、うまくいったと思ったのに。

「武くん! ファイトです!」

「武! 勝負はこれからだぞ!」

「負けるんじゃないわよ! 武!」

 みんなの声援が絢の勾玉を通して聞こえる。

 俺には守るものがあるんだ。大切なものがあるんだ。

 だから……勝たねぇと。

「うぉおおおおおおおお!」

 俺は突撃する。

 気合百倍で、そして冷静に。

 すべての攻撃を避けてやる!

「避けれるもんなら避けてみろ!」

 ヒュン、

 一撃目を躱し、

 ヒュン、

 二撃目を躱し、

「おりゃあ!」俺はワタツミクレイの頭上に向かって面を打つ。

「それでは足りんぞ!」

 ヤマタクレイの剣の軌跡は、ワタツミクレイの頭上には届かず、ワタツミクレイの顔を(かす)めるか掠めないかの辺りを通っている。

 このままでは当たらないように見える。

 が、

 ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアン

「な、何!?」

 俺の面打ちが炸裂した。

「届かないなら、届かせたらいいんだよ」

 俺は面を打つとき、撃つ直前に、添えた右手を離して左手だけで打った。

 左手で、真っ直ぐに、そして長く。

 両手で打つより、片手で打った方が遠くの方に当たるのだ。

「くそぅ、やりやがって、やりやがって!」

 ワタツミは槍を構え、

「おりゃああああああああ!」

 ワタツミが突撃する。その長い槍を俺に向かって刺突してくる。

 俺はそれを、身をひねらして躱し、そしてそのまま真っ直ぐ進み、

「とりゃあ!」

 剣を振りかぶり面打ちをしようとする。

 だが、

 ゴンッ、

「ぐはっ……」

 腹に重い感触、これは……

 俺は気づいた時には地面に倒れていた。

「ハハッ、さっきのはまぐれかよぉ!」

「ぐ……」

 槍を構えるワタツミクレイ。

 くそぅ、速く立たないと。

「うう……と、」

 俺が立ちあがった瞬間、

 ヒュン、

 ドンッ、

「うわぁああああ!」

 また倒れた。しかも今度は立った瞬間に。

「く、くそぅ……」

「ハハッ、負け犬は負け犬らしく地面を這いつくばっていろぉ!」

 そして、間髪入れずにワタツミクレイの薙ぎが来た。

「とわぁっと……」

 俺はそれをなんとか躱すが、

 ヒュン、

 また薙ぎが来て、

 ヒュン、

 また薙ぎが来て、

 ヒュン、

 また薙ぎが来て!

 ……俺は何とか紙一重のところで躱していた。

 油断したら殺される。

 油断したら殺される。

 油断したら殺される!

「とりゃああああああああああああ!」

 総ての精神力と体力と気力とを絞り出して、俺は駆ける。

 避けて、避けて、避けて、

 そして決めてやる!

「おりゃああああああああ!」

 ドンッ、

「グハ……」

 くそぅ……どうしたら、どうしたら、あいつを倒せるんだ。

 俺には……守るものがあるんだ。だから……絶対に倒さねぇと。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 のどを嗄らすほど、頭が空になるほど叫ぶ。

 俺はやるんだ!

「おりゃああああああああ!」

 ドンッ、

 また倒れた。

「おりゃああああああああ!」

 ドンッ、

 また倒れた。

「おりゃああああああああ!」

 ドンッ、

 また倒れた……。

 体が痛い腕が痛い腹が痛い腰が痛い脚が痛い頭が痛い喉が痛いすべてが痛い!

 頭がくらくらとする。

「お前もよくやるよなぁ、かなわねぇ敵にこうも果敢に向かってくるとは。無様を通り越して感服してしまうぜ」

「…………」

「おやぁ? そろそろ力尽きたかなぁ? じゃ、俺がそろそろ『御仕舞』にしてやろうかなぁ」

「……ぅ……俺は……」

 死にたくないんだ。生きていたいんだ。

 ……これからもずっと、あいつらと一緒に、未来を生きていきたい。

 それが、俺のささやかな楽しみなんだ。

 だから……そのために……

「うぅ……」

 剣を持て!

 大地に立つ。よろめく体を重力に(あらが)い、大地に抗い、傀儡に抗い。

 天を見上げる。天には二羽の鳥が飛んでいた。


 あの鳥のように、飛んでいきたい。

 クレイは、飛べるのだろうか。

 クレイは……


「武くん、それではヤマタクレイを動かしましょう。クレイはあなたの意志に応じて動くロボットです」

「俺の意志に通じて……」


 クレイは、俺の意志に通じて動くロボットだ。

 俺の意志、俺の……想い!

 俺は……あいつを……


「さぁ、そろそろ終幕と行こうか、これでお前もホントにこの世からおさらばだ。恨むなら恨めよ。自分の運命ってやつをな!」

 ワタツミクレイは、ヤマタクレイの腹に向かって、槍を付いてくる。

 その槍は鋭く、そして素早く、

 刹那の間に、ヤマタクレイの腹の元へと到達し――


 ――――シュン――――


「…………へっ……………………」

 ワタツミは、呆気にとられた。

 目の前のヤマタクレイが、突然消えていたことに。

 呆然としていたワタツミクレイが、ふと天を見上げると……

「!? あれは!?」

 ヤマタクレイが、空中(そら)にいた。

 太陽を背に、太陽を受けて。

 剣を掴み、剣を振りかぶり。

「まさか……光速を!?」


「あれは光速ですよ!」ホノニギさんが叫んだ。

「光速? シーですか」

「……昨日、ヤマツミクレイを見つける前、光速を出す練習をしたでしょう。……まさかこんな短期間で習得するとは……」


「うおりゃぁああああああああ!」

 上空のヤマタクレイが落ちていく。

「武くん! 頑張るです!」

「頑張れ! 武! お前ならやれる!」

「行けぇ! 武!」

 その時、俺に絢の力が注がれる。

 燃える体、飛ぶ体。

 まるで、不死鳥のように。

 そして、太陽を受けて光る(くろがね)を振り下ろす。

 ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 上空からのヤマタクレイの面打ちが、ワタツミの頭上に当たる。

 その衝撃で、ワタツミクレイは後方へと押されていった。

 そして、押されたワタツミは、頭を抱えて倒れていた。

 そこにすかさず、

「おりゃあ!」

 俺は剣を振り下ろす、

 ワタツミクレイの腹を目がけて、

 ヒュン、

「観念しろ! ワタツミ!」俺は叫んだ。

 振り下ろされた剣は、寸でのところで止めておいた。

「これでお前の負けだ! ワタツミ!」

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