修復中
というわけで、俺たちは久禮堂に来た。
「へぇ。なんか倉庫というか格納庫というか……。すごいところねぇ……」
久那は久禮堂の内部を見て感嘆していた。
「……で、あれがクレイなのね」
「ヤマタクレイです!」
久禮堂の中央にヤマタクレイが直立していた。ヤマタクレイの腹には昨日穿たれた穴がぽっかりと開いていた。
そのヤマタクレイを囲うように、建設現場で使われるような、木製の足場が組まれていた。組まれた足場には幾人かの兵士が歩いていたり立っていたりしていて作業をしていた。
「おはようございます! ホノニギさん!」作業中の兵が言った。
「おはようございます。……作業の方は進んでますか?」
「いえ……。あまり進んでいません」
「そうですか……、確かにこういうことは初めてですからねぇ。根気よく頑張ってくださいね」
「はい!」
兵の人たちはいそいそと作業を進めているが、その反面、ヤマタクレイの穴は一向にふさがっていなかった。
……いつになったらふさがるんだろうなぁ。
「くふぅ~、なんだかこうして見るとクレイを作ってるみたいに見えますねぇ」
絢は興味津々にヤマタクレイを眺めていた。
「そういえばホノニギさん、ヤマタクレイってのは誰が造ったものなんですか?」
「それが……、誰が造ったかわかっていないんです」
「分かっていない?」
「ええ。ヒメノミコト様いわくヤマタクレイはずっと昔からこの国にあったものなんです。おそらくですが、このヤマタクレイは敵の進撃を防ぐための兵器だったと思われます」
「兵器ねぇ」
「ええ。とはいっても、このクレイが使われ始めたのは……昔がどうだったかはわかりませんが、一か月前のリングクレイ襲来時からなんです。それまではこの国でずっと鎮座というか沈黙をしていたんです」
「ヤマタクレイっていうのは昔兵器として活躍していたんですかねぇ」
「さぁ、詳しいことは分かりませんが、容姿が武人ですからおそらくそうだったのかもしれませんねぇ」
「はぁ」
ヤマタクレイってのは昔の兵器で、一か月前のリングクレイが襲来した時に使われなくなっていたヤマタクレイを再起動して戦ったってことか。
昔の兵器なら……誰が造ったかわからないもんなぁ。
「それじゃあホノニギさん、モサク一族のリングクレイとかワタツミクレイってのは誰が造ったんですか? まさかそれも昔々に造られたものだったりするんですか?」
「ええ。おそらくですが、モサク一族のクレイも昔に造られたものだと思います」
モサク一族の方も昔に造られたのか……。
そこで俺はふと、妙なことを思った。
「ヤマタクレイは昔モサク一族のクレイと戦っていたのではないか」という憶測を。
もしそうだったら、なんだか因縁めいた話である。
まぁ、そんな物語みたいなことは現実的にはないと思うけど。
俺はそんなことないないと首を横に振る。
「しかし……なかなか修復が進みませんねぇ」
「そうですねぇ、なかなか壁の形状を作るのに苦心してましてねぇ……」
何かよくわからないものをこんな時代に作るとなるとやはり難しいんだろうなぁ。
ていうか、ちゃんと修復できるのかね……。
そんなことを考えていると、
「いいこと思いついたです!」と絢が叫んだ。
「いきなり何だ絢」
「私の力を使うといいです!」
「力? 力ってお前……昨日なんか切れたんじゃなかったのか」
「なんだか力が入ったような気がするんです。充電完了ってやつですか」
「充電って……」お前はバッテリーなのか。
まぁ、力が戻ったならいいことなんだけど。
「でもその力でヤマタクレイが修復できるのかよ」
「さぁ、私にも分かりかねますね。でもやってみる価値はあるんじゃないですか」
そうだなぁ。もしかしたらうまくいくかもしれないし。
「じゃ、お前の力ってのをヤマタクレイに注いでみてくれよ」
「はいです!」
と言って絢は赤の勾玉を取出し掲げた。
ピカッ――ピカッ――ピカッ――ピカッ――
ヤマタクレイと勾玉がピカピカと光り輝いていた。
その輝きの中、ヤマタクレイに穿たれていた穴は……
「お、これは……」
ヤマタクレイの穴に、砂粒のようなものが吸い付いてきてる。穴がまるで掃除機のように砂粒を吸い上げていた。
「これって、修復してるのか」
「おそらくはそうでしょう。しかし絢さんの力に修復能力もあったとは……」
とホノニギさんが関心をしていると……、
ドンッ――!
「な、なんだ!」
「何が起こったですか!」
「な、なんなのよ!」
「なんだなんだぁ!」
突然の地の揺れに俺たちは驚いた。いったい何が起きたのだろうか。
「まさか……クレイですか……」
「クレイだとぉ!」
クレイだと。
リングクレイか! それともワタツミクレイか!
いったい何が来たんだ!
「み、皆さん!」すると入口から一人の兵が駆けてきた。
「た、大変です! 海神久禮がこちらに向かってきてます」
「ワタツミクレイだと!」
蛮族が藪から棒に現れた。