薙刀
「やっ!」
「うぉっと」
「はっ!」
「とぉっ」
村の空き地にて、長い木の棒を振り回す久那とそれに竹刀を持って向かう俺。
俺は棒の振りを見切って避けていくが、懐に入ってから3振り目ぐらいで棒にぶつかってしまう。
「はぁ……」
なかなかうまくいかないものだなぁ。
何とかして、突破口を見つけねば……。
で、どうして俺は久那と槍でやりあってるかと言うと……、
卑弥呼の宮殿より帰った後。
「くふぅ~、それじゃあこれから何をしましょうですか」
「そうだな……。ホノニギさんのとこにでも遊びに行くか」
「そうだな! 遊びに行こうぜ!」
「ちょっと待ちなさいあんたたち!」久那が叫ぶ。
「ん? どうしたですか久那ちゃん」
「どうしたもこうしたもないわよ。こんな朝間っから遊びに行こうなんて……。あんたたちどんなけ能天気なのよ……」
久那の言うことはもっともである。
俺達は……何のしがらみもないこの時代を謳歌しすぎてちょっとナマケモノになってしまったみたいだ……。
「そうだな……。学校がないからって朝間から遊び呆けるのはどうかと思うな……」
そういえば……俺にはやるべきことが山積みにあったんだった。
モサク一族を倒すこと。
ワタツミとの戦いに備えること。
なんでこんな大切なこと忘れてんだ!
「そうだ! 俺はワタツミに勝たねぇと!」
「そういえばそうでしたね」
「そういえばそうだったな」
「俺の友人はどうしてこうも能天気な奴ばかりなんだ……」
「ほんとよね……」久那が呟いた。
「くそぅ……こんなのんびりしてる暇なかったんだな……。何とかワタツミに勝てる方法を考えねぇと」
「ワタツミに勝つ方法って何かあるんですか」絢が訊く。
「ねぇよ。ねぇから今から考えねぇといけねぇんだよ」
「じゃ、こんな時は頼れる剛実くんに訊いたらいいんじゃないですか」
そうだな、こんな時こそ剣豪剛実の出番だ。
「剛実、お前ワタツミに勝てる方法とか知ってないか」俺は訊いた。
「うーん……。俺も槍相手に戦ったことないしなぁ……俺もちょっとわかんねぇや」
「剛実がわかんねぇとなると……どうしようもねぇなぁ。……せめて槍を扱えるやつがいたら練習とかできるかもしれねぇけど」
槍を扱えるやつねぇ……。
絢は元気があるけどスポーツとか武道はできないし(頑張るけど技術的なものが欠落していたりする……)。
久那は……そういえば昔、習い事とか結構やってたようだけど。
「久那、お前槍とか扱えたりするか」俺はためしに訊いてみた。
「槍ねぇ。……薙刀ならやったことあるけど」
「まじかよ」それは聞いたことなかった。初耳だ。
「やったことあるって言っても随分昔の話だから。それにかじった程度しかやってないんだけど」
「まぁとにかく、久那は薙刀使えるんだな」
「まぁ、基本的なのならねぇ」
「それなら話が早い。久那、俺に稽古をつけてくれないか」
「えっ?」
というわけでワタツミ対策のため久那に稽古をつけてもらってるんだが、
……やっぱ剣は分が悪いなぁ。やっぱ他流試合というのは難しいもんだ。
こっちが間合いに入ってこようとすると、長い棒が薙がれてくる。それに対して俺は進むか下がるか……。進むとたいていの場合胴に棒が当たってしまう。下がったら最初の位置に戻ってしまうだけである。
なんか、どうにもならないなぁと、俺は手をこまねいていた。
「頑張るんです! 武くん!」
「そうだ! がんばれ武! 本気出してやれ!」
本気か。
久那相手に本気を出すのはどうかと思っていたが、そろそろ本気を出すか。
「てりゃぁああああ!」
俺は久那に向かって疾駆する。
ヒュン――――、
棒が薙がれる。
俺はそれを跳躍で躱す。
ビュン――――、
棒がさっきとは反対に上部に薙がれる。
俺はそれをしゃがんで躱し、
久那の間合いへと向かう。そして、
シュン、
久那の喉元向かって突きをする。……もちろん寸止めだが。
「わっ……」久那は目を見開いて正面の俺を見据えた。
「ふぅ……。何とか間合いに入ることはできたな……」
「び、びっくりしたわ……。本当に武が刺してくるかと思ったわ……」
「お前相手にはしねぇよ……」
絢や剛実にはやるかもしれないが。
「まぁ、とにかく相手の間合いに入っていけば何とか攻撃できるんだな」
それが難しいんだが。それに戦う相手は久那でなくてワタツミだし。
「よぉし、久那。この調子でバンバンやっていこうぜ」
「バンバンって……、私がやらないといけないの……」
久那が若干の疲労の顔を見せた。
まぁ、事が事なので、久那の言い分を無視して続行することにする。
「ふぃ~……」思わず絢みたく妙な感嘆を漏らしてしまう。
約一時間ぐらい打ち込み続けたろうか。
俺は汗をだらだらとかいていたが、対する久那はあまり汗をかいていない。
それで俺の体にはいくつか打撲の跡があったが、久那の体にはもちろん何の怪我もない。
「何か……私が武をいじめてるみたいでなんだかやるせないわ……」久那がそう零した。
「なぁに、これくらいどうってことないよ」
久那との稽古で何となく槍との戦い方が分かったような……気がする。
あとはこれでワタツミを倒せればいいが……。
稽古の後、空き地にて俺たちは休憩をしていた。俺たちは空を流れていく雲をぼんやりと眺めていた。
「そういえば剛実」
「なんだ久那?」
「あんたそういえば……修行の旅に出てたんだったわね」
「ああ、出てたぜ!」
「それで修行の旅に出て、あんたここにタイムスリップしてきたの?」
「ああ、まぁそういうところだなぁ」
「ふぅん……、で、武と絢はどうしてここに」
「ああ、それはな……」
というわけで、俺と絢がここにきて今日にいたるまで(クレイの話やタケタケ様の話も含む)を久那に話してみたが……。
「……………………………………………………………………………………」
予想通り、久那は目が点になっていた。
「さっき宮殿で訊いたクレイの話もそうだけど……ホントいろいろぶっ飛んでるわね……」
「そうだなぁ」
「あんたのことだからね!」久那が剛実を指差す。
「タケタケ様って何よ! 何が山の神様よ! いい年して何やってんのよ!」
「いやぁ、山の神様ってのもなかなか楽しかったぞ」剛実は笑いながら言った。
「まーまー、こうして剛実くんも人間に戻ったんだからいいじゃないですか」
「よくないわよ! ったく、人が心配してる時にあんたは何やってたのよ……」
久那はそんな感じで剛実に突っかかっていた。
なんか、はたから見ると「頼りない旦那を叱る奥さん」みたいに見える。まぁ、仲がいいってことである。長い付き合いだからだろうなぁ。
そんな感じに剛実と久那の言い合いを見ていると、
「おはようございます、皆さん」ホノニギさんが背後から現れた。
俺と絢は「おはようございます(です)」と挨拶する
「……そちらの剛実くんと話している方は」
「ああ、ホノニギさんは知らないのか。こっちは俺の友人の久那ですよ」俺が答える。
「武くんの友人って……またタイムスリップですか……」
「ええ、まぁ……」どうして俺の友人はこうもタイムスリップしやすいんだろう。絢の陰謀とかじゃないだろうなぁ……。
「おはようございます」とホノニギさんは剛実と久那に挨拶する。
「おはようございます!」
「おはようございます……ええと、どちら様で」
「私はホノニギと申します。このヤマタ国の土師をしてるものです」
「ええと、ホノニギさんって確か……未来人の人だったけ?」久那は俺に訊く。
「ええ、僕は君たちより未来からここに来たんです」ホノニギさんは言った。
「はぁ。未来ですか。あ、私は乙女山久那って言います。武たちと同じ時代から来ました」
「久那さんですか。しかしご友人が揃ってこの時代に来るとは、とても強い友情で結ばれてるんでしょうねぇ」
「いやいや、ただの腐れ縁ですって」俺は答えた。
「そういえば武くん、……昨日のことなんですが」
「昨日のことって、……昨日のワタツミのことですか」
「ええ。昨日ヤマタクレイはワタツミに刺されたでしょう。その修復を今久禮堂で行っているんですが……、まだ穴が修復できてないんですよ」
「そうですか……」
「いつワタツミが来てもいいように急いでやっていますが……なかなか難しくてできていないんです」
「そうですか……」
「武くん、申し訳ありませんが、修復するまで待っていてください。必ず修復してみせますから待っていてください」
「はぁ、別に待つのは構いませんが」
別にワタツミの方もそんなすぐに襲ってこないと思うしなぁ。
「くふぅ~、ヤマタクレイの修復ですかぁ、ぜひとも見てみたいですねぇ」絢は目を輝かせて言った。
「ホノニギさん、今から久禮堂に行って修復現場を見せてもらえないでしょうか」
「ええ、いいですよもちろん」
「いいんですか!」
「はい、もちろん」ホノニギさんが答えた。
「くふぅ~、それじゃあ武くん、さっそく久禮堂に向かいましょう。レッツゴーです」
「お前はホント気が早いなぁ」はしゃぐ絢に俺は言った。