三度目
ところ変わって、時代も変わって、
現代、小売山高校の職員室。
そこに眼鏡をかけた女生徒がいた。
「先生、学級日誌です」女生徒の久那が言った。
「おう、ありがとうな乙女山」担任の教師が言った。
「そういえば……お前、藤ノ木の家の近くに住んでるんだよな」
「はい」
「……藤ノ木はまだ帰ってないのか」
「はい……、まだ帰ってません」
「そうか……」教師は落胆していた。
「そういえば……昨日は流山と姫野も休んでたんだな。……お前と藤ノ木と流山と姫野と、よくつるんでるが、お前、3人のことでなにか聞いてないか?」
「さぁ……聞いてませんねぇ」
「そうか……、藤ノ木と姫野は……まぁ、あれだから置いとくとして……、流山もかねぇ……。それで乙女山が残ってると……。まさかまた何かしでかしてんのかねぇ、姫野のやつ」
「はぁ」
「大方流山はそれに巻き込まれてるとかかねぇ。まぁ、あくまで推測だが。本当にお前何も知らないんだな」
「はい……、私も何も聞いてません」
「そうか……」
武と絢が休んでいた。
というより、いなくなっていた。
絢が突然いなくなることはよくあることだが、今回は武もいない。
……まぁ、絢に巻き込まれて武もいなくなったこともあったけど。
久那は帰路を歩いている。
茜色の夕焼けを、山が浴びている。
空でカラスが鳴いていたり、虫が鳴いていたりしている。道の端には田んぼがずらりと並んでいる。田んぼには一面に透明の水が満たされている。今、その水面は茜色の空を鏡面のように映していた。
この町では最近、こんな噂が立っている。
……箸墓古墳が、夜中に光りだすという。
箸墓古墳は、最近巨大土人形が出土して話題となったところだ。
そこが夜中に光りだすという噂がある。
しかもその噂は、巨大土人形が出土した後から広まったもので、『土人形様のタタリ』とか言われてたりする。
祟り、神隠し。そんなものがこんな時代にあるのだろうか。
夜。
久那は布団から起きる。
時刻は0時前。枕元にあった眼鏡をかけ、そのままの姿で部屋を出て、泥棒のごとく抜き足差し足で家を出る。
そして玄関を出て、一人夜の道を歩いていく。
「ここね……」
久那は木々に覆われた古墳を見る。そして辺りを見回してからその中へと入っていく。
「ホント私って何やってるんだろうね……」久那が自嘲気味に言った。
そして、木々の中をぐんぐん進んでいくと、
正面に大きな土の人形が見えた。
「絢はこれを見に来たのかしらね」
武人の埴輪のような不思議な人形。しかも大きい。しかも作り物でなく本物。
しばらくその人形を眺めていると――
ピカアアアアアン!
「⁉」
久那は、白い光に包まれた。