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クレイ=大地の傀儡=  作者: カッパ永久寺
一日目 初陣
10/75

ホノニギ研究所

「ふぅ……何とか生きて帰れたぜ」

 ヤマタ国の中央にそびえたつ木造の塔のような蔵、『久禮堂』に着いた。

 久禮堂に着いた俺、とヤマタクレイ。俺はヤマタクレイを元あったところまで動かしておいた。

 すると、見計らったかのように俺はあの白い光に包まれた。全面がホワイトアウトし、そして白い光が薄まっていくと、そこは久禮堂の木の足場の上であった。

「戻った……か……」

 とりあえず俺は梯子を下りて足場から降りた。目の前にはあの戦う土人形の『ヤマタクレイ』があった。

 俺はあれに乗って、リングクレイとヤマタクレイと戦っていたのか。なんだか信じられない話だ。タイムスリップしたことと同じくらい信じられない話だった。

 そんなことを思っていると、

「おーい、武くーん!」

 という声がした。絢の声だ。絢と、ホノニギさんとスサノさんがこっちに向かってきてるのだろう。

 絢たちがいたところの方が久禮堂に近かったと思うが、やはりクレイの歩みに人間の歩みが追い付かなかったようだ。結果、俺が先にここにたどり着いたということか。

「武くーん!」久禮堂の扉を開けて入ってきた絢が飛びついてきた。

「お、おい、くっつくなよ……」いい年して恥ずかしいことするなよ……。

「お疲れ様です、武くん」続いてホノニギが入ってきた。

「た、武くん……や、ヤマタ国を守っていただき……ありがとう……ございます……なんとお礼を言ったらいいか……」そして泣き顔のスサノさんが入ってきた。スサノさんは涙ですごい顔になっていた。なんかこっちが申し訳なくなってしまうような顔だった。

「見事生きて帰ってきてくれましたね……武くん……」ホノニギさんが言った。

「生きて……ねぇ……」

 さっきも思ったが、あんまりそんな実感がないんだなぁ……。

「武くん……姉さんの(かたき)を討ってくれてどうもありがとうございます……このご恩は一生忘れません……」

「敵って……」卑弥呼さん勝手に死んだことになってないか……?

 なんだかホノニギさんたちと俺たちの間には温度差があるような感じがする。別にニヒルを気取っているわけでわないのだが、素直に驚けないというか、混乱してるというか。

 そんな中、俺に飛びついてきた絢は、俺の腰のあたりでうずくまっていた。

 絢は黙ったままであった。まさか……スサノさんみたく泣いているのか……?

「すぅ……すぅ……すぅ……すぅ……」

 寝ていた。

 姫野絢は、寝ていた。

「…………」

「絢さんは疲れて眠ってしまったそうです」ホノニギさんがそう説明した。

 俺の腰を枕にして、絢は気持ちよさそうに寝ていた。

「武くん、絢さんは君に力を与えたんです」

「力?」

「君が山仁、いやヤマツミと戦っているときピンチだった君に力を与えたんです」

 力……そうか、俺がヤマタクレイに乗って戦っていたとき、ピンチだったとき、あのヤマツミに殺されそうになったとき、注がれた不思議な力は……こいつが送っていたのか……。

 ……って、

 なんで絢がそんな力を?

 そんなこと突っ込んだら、どうして俺がヤマタクレイに乗れたとか、どうして弥生時代にタイムスリップしたとか、どうして卑弥呼は引きこもりなのか……と、ほかにも矛盾が目白押しである。

 世の中おかしなことだらけだ。

 こういうのもなんだが……目の前のホノニギさんも、なんだか矛盾したような感じの人に思えるんだが……。

「武くん」と、そのホノニギさんが声をかけてきた。

「ちょっとこの後、僕の研究所に来てくれませんか?」

「研究所?」

 研究所、というものが弥生時代にあったのだろうか……うーん、まぁ弥生時代なんて誰も行ったことないようなところだからおかしなことがあってもおかしくないのかもしれない。

 おかしなことがあってもおかしくないのかもしれない?

「はい、いろいろ話さないといけないことと訊きたいことがあるので」

「はぁ」

 絢は未だ、俺の腰の中で眠っていた。

 腰の中って……どんなけ身長小っちゃいんだよ……

 というわけで、俺たちはホノニギさんの研究所へと向かうことになった。


「ここが、研究所ですか」

「はい、研究所と言っても、物置小屋みたいなところですけど」

 俺たちはホノニギさんの『研究所』(ホノニギ研究所というらしい)に来た。絢はぐっすりと眠っていたため、俺がおんぶして運んできた。

「さ、どうぞ座ってください武くん。お茶でも用意しておきますから」

「お茶……?」

 お茶って弥生時代にあったっけ……

 しばらくするとホノニギさんが急須に入ったお茶と湯呑みを持ってきた……

「さ、ゆっくりしていってください」

 なんかしっくりこないような気がするが、

 まあいいいか。

「くふぅ~、むにゃむにゃ~」

 そんな漫画みたいなセリフがつぶやかれた。どうやら絢が起きたようだ。

「絢、大丈夫か?」

「くふぅ~、なんだか疲れましたです」

 そういえば、絢は俺に力を注いでくれたんだ。

 力を注ぐって、そんな漫画みたいなこと想像できないが(実際あったんだが)とりあえず俺は絢に危ういところを救われたんだ。

 俺は絢を救おうと思ったんだが、まさかその絢に救われるとは……俺もまだまだなんだなぁ……。

「……ありがとな、絢」

「え?」

「いや……俺、あの時お前の力で助かったからさぁ……」俺は照れながら言った。

「なーに水臭いこと言ってるんですか! 武くん!」と、絢が言った。

「私と武くんの仲じゃないですか。何年一緒にいると思ってるんですか。武くんのピンチは私のピンチですよぉ!」

「絢……」

「それよりも、武くんのほうがすごいじゃないですか! あのリングクレイをやっつけて、ヤマツミとかいうのに二撃も食らわせたなんてたなんて、武くんは今世紀最大のヒーローです!」

「いやぁ……」

 今世紀最大のヒーローか……。

 今世紀って、確か3世紀ぐらいだったなぁ。

 まさか、歴史の教科書に載ったりとかなんてことは起きないだろうなぁ。

「でもまぁ……確かに俺の功績もあるかもしれないが……。でもお前は俺の命を救ってくれたんだ……。あのままだったら俺は殺されてたかもしれないんだ……だからお前には感謝するよ」

「命を救っただなんて……私も武くんに命を救われたようなもんですよ」

 命を救う……ねぇ……。

 こいつの命だけは、何としても救わないと……。

「それで……ここってどこなんですか?」

「ああ、お前寝てたから知らないのか。なんかホノニギさんが話あるって言うからここに来たんだが」

「…………」

 いきなり絢が黙った。

 まるで電池が切れたみたいに、突然ぷつんと。

 いや、電池は切れていない、モードが切り替わったというか、スタンバイモードに切り替わったというか。

 絢は眼前のお茶の入った湯呑みをじぃーーーーっと見ていた。

 こんな絢、久しぶりに見るなぁ。

 なんかやなことでもあったのだろうか……。

「武くん、絢さん、今回はヤマタ国を助けていただきありがとうございました」と、ホノニギさんが感謝の言葉を告げた。

「いやいや、俺たちもなんか無我夢中だったんで」

 確かにあのときは無我夢中だったなぁ。

「武くん、まずは君たちに説明しなくちゃなりませんねぇ」

「説明?」

「クレイやこのヤマタ国のこと、そしてタイムスリップのことを。色々武くんも聞きたいことがあるでしょう」

「はぁ……」確かにいろいろ聞きたいことはあった。何せことがことなだけに訊きたいことは山のようにある。

「まずは……このヤマタ国のことについて話しましょうか?」

「ヤマタ国ですか」

 ヤマタ国、実際には『邪馬台国』だったか。タイムスリップした俺たちが行き着いた『くに』。そして今現在も俺たちはそこにいる。

「なぁ、ここって邪馬台国なのか?」前にも言ったが俺は基本的に年上の人にもため口で会話する。さすがに学校の先生と部活の先輩は例外だが、大抵ため口である。なんでため口かと言われれば……まぁ、癖みたいなものである。

「ここは、おそらくは武くんが歴史の授業で習った邪馬台国と思われます」と、ホノニギさんが言った。

「建物や服装、くにの大きさ、そして位置、そしてヒメノミコト様という人がこの地を収めている……これらを加味するとここは邪馬台国だと思われるんです。まぁ、『ヤマタ国』という別の名前になっていますが、これはおそらく実際とは名前が違っていたという話だと思うんです。邪馬台国があったという話は中国の『魏志倭人伝』に乗っているんですが、何分昔の書物ですから実際のと誤差があってもおかしくないんですよ。何せ千年以上前の書物ですからねぇ」

「…………」

 高校を剣道の推薦で入った俺にはさっぱりな話だった。絢にはこういうのはしっくり来る話なのだろうか。

「……つまりはここは『ヤマタ国』という名の『邪馬台国』なんですよ。同じように卑弥呼の名前もヒメノミコトという実際とは違う名前になっていますねぇ」

「卑弥呼がヒメノミコトでヒメノミコトのヒは引きこもりのヒってことだな」

「まぁ……大体そうです……」ホノニギさんは怪訝な顔してそう言った。

「でも、ここが邪馬台国として考えると一つおかしなことが残るんじゃねぇのか?」

「おかしなこと、ですか?」

「クレイだよ……。あんなの俺の歴史の教科書には載ってなかったぞ……」

 テレビにもネットにも、そのほかの文献とかにもそんな史実は載っていなかったと思う。いくら俺でもそれは確信を持って言えることである。漫画やアニメやはたまた小説でもないかぎり、そんなことは起きるわけがない。あったわけがない。

「そうですねぇ……クレイはこの時代にはかなりイレギュラーな存在ですからねぇ。イレギュラーというより『バグ』と言った方がいいですかねぇ。武くんが言った通り歴史の教科書には『クレイ』があったとかいう事実は載っていません。もちろん、ほかの歴史に関する文献にもそのようなことは書かれていません。しかしですねぇ武くん、文献にないからと言って『無かった』とは言い切れないんですよ。邪馬台国がどこにあったか論争になってるのはご存知ですよね。邪馬台国がどこにあったかわかっていないようにこのようなことがあったことがわかっていないんですよ。もしくは……『隠蔽』されたとも考えられますしねぇ。GHQの検閲とか……」

「じゃあ、実際にはヤマタ国、いや邪馬台国にリングクレイが襲ってきたってことになってるのか?」

「実際にも何も……『実際に』武くんはリングクレイと戦ったじゃないですか」

 確かにそうだが……ついさっきまで戦っていたんだが。

 しかし話がややこしい。これじゃあまるで歴史の授業じゃないか……。

「で……あのリングクレイってなんでここを襲ってくるんだ?」俺はホノニギさんに尋ねた。

「リングクレイが襲ってくるというより、モサク一族の者たちが襲ってきているんですよ」

「モサク一族……なんかよく名前が出るけど、それってどんな一族なんだ?」

 一族って……『犬神家の一族』とかのやつか……現代っ子の俺たちには馴染みのない言葉だなぁ。

「モサク一族はクレイを使ってこのヤマタ国を襲おうとしている一族なんです。さっき武くんが戦っていたヤマツミもモサク一族の一人なんですよ。モサク一族は『父上(ちちうえ)』のイザナギ、『長男(ちょうなん)』のヤマツミ、『次男(じなん)』のワタツミ、『(むすめ)』のツクヨミから構成される『家族』なんですよ」

「なんなんだよその四天王みたいな家族は……」

 その家族ってやつは……家族ぐるみで『ヤマタ国』を襲おうとしてるのか……。間違ってもそんな家族なんか俺はなりたくないと思った……。なんか名前も妙にカッコイイし……。イザナギとか、ツクヨミとか、なんか聞いたことあるような名前だなぁ。

「何分この時代は『太古』の時代ですからねぇ……。怪しい集団もわんさかいるんですよ」

 怪しい集団なら、俺たちの時代にもわんさかいると思うが……。

「そのモサク一族とかいう『家族』がクレイを使ってここを襲ってたってことなんだなぁ」

「そうです……。とはいってもここを襲い始めたのは一か月前からなんですけどねぇ」

「一か月前……結構最近なんですねぇ」

「一か月前から、モサク一族はクレイを使って一週間に一回ずつここを襲ってきてたんです。でも、この前は3日前に襲ってきてて……。それでヒメノミコト様の力が足りなくなっちゃったんですけど……」

 もし、俺たちが今日リングクレイと戦ってなかったら、俺たちがこのヤマタ国にタイムスリップしていなかったら今頃ヤマタ国はどうなっていたのだろうか……。というより、日本の歴史はどうなっていたんだろうか……難しい命題である。そんなことは神のみぞ知ることなのだろうが。

「そのモサク一族って……どうしてヤマタ国を襲おうとしてるんだろうなぁ……」

「彼らは……信念を持ってここを襲っているんです」

「信念……ねぇ……」

 信念という言葉は聞こえがいいが、その『信念』で命を脅かされるとなればたまったもんではない。

「その信念ってのは……モサク一族がここを襲う信念ってのはいったい何なんだ?」

「それは……『ヤマタ国を滅ぼすこと』自体が彼らの信念なんですよ」

「は?」俺は拍子抜けした。

「モサク一族は『父上』のイザナギの命令でクレイを使ってここを襲ってるんです」

「『父上』の命令……?」

「そのイザナギの信念……本懐は『ヤマタ国の滅亡』なんですよ」

「そのイザナギってやつ、ヤマタ国に何か恨みでもあるのかよ……」俺は訊いた。

「恨みですか……それは……よくわかりません。とにかくその『父上』のイザナギがヤマタ国を滅ぼそうとしている……それが彼の信念なんです……」

「イザナギとやらの信念は分かったが……ヤマツミとかほかのやつらはどうしてそのイザナギの命令で戦っているんだ?」

 彼らにも……あのヤマツミにも、『信念』というものがあるのだろうか。

「……それは単純に、ヤマツミたちが『父上』ことイザナギの子供だから……だから彼らは逆らえないんです」

「父親に逆らえないって……そんな……。ヤマツミとかはその『父上』のイザナギに脅されてるのか……?」

「イザナギはある事情でかなりの暴君になってしまったそうです」

「暴君?」

「ええ、それとイザナギの子供たちがみんな父親に逆らえないのは……脅されてるからというより……洗脳されてるからなんですよ」

「洗脳……⁉」

 洗脳……そんな……しかも父親になんて……。

 そんな馬鹿なことが、そんなふざけたことが……。

 狂っている……モサク一族は、狂っている……。

「洗脳されたイザナギの子供たちがヤマタを襲おうとしてるんです。あのリングクレイは『娘』のツクヨミが遠隔操作して、『長男』のヤマツミはヤマツミクレイに乗って、『次男』のワタツミは『ワタツミクレイ』に乗ってヤマタ国を襲おうとしているんです。イザナギの子供たちはみんなイザナギに操られている傀儡(くぐつ)なんです」

「傀儡ねぇ……つまり悪いのはその子供たちの『父上』のイザギミってことだなぁ」

「はい……。そういうことになります……」

「イザナギめ……。許せねぇぜ……」

 いくら何でも許せねぇ。洗脳なんて、その上ヤマタ国を襲おうなんて……。

「俺がクレイに乗ってそいつを倒してやるぜ!」と、俺は威勢良く叫んでみた。

「倒す……ですか……。武くん、言わなくてもわかっていると思いますが……なるべく戦いでモサク一族を殺さないでくださいね。ツクヨミの操る『リングクレイ』は遠隔操作型なので人は乗っていないのですが……今回のヤマツミ野みたいな人間が乗っている、搭乗型クレイもありますから……」

「殺しなんてそんな……。俺は……人なんて殺したことねぇからよぉ」

 人なんて殺したことない。誰かを殺すなんて考えたこともない。

 だけど……このモサク一族との『戦い』で、俺は果たして誰も殺めずに生き抜くことはできるのだろうか……。

 もし、誰かを殺さなきゃ生き残れない状況になったら?

 俺はどうすればいいのだろうか……。

「ですが武くん、君の命、武くんの命だけは一番に考えてください。武くんみたいな若い人が死ぬのは僕たち大人たちにとって辛いことですから」

 ホノニギさんは俺の命を一番に考えろというが……。俺はどうしてもそのホノニギさんの願いを受け入れることができなかった。俺の命よりも大切なものがあるなんて……死ぬほど恥ずかしいこと言えなかったが。

「それに、武くんが死んだら悲しむ人がいるでしょう」

「……悲しむ……人……」

 俺はふと隣の絢を見た。絢はなおも黙っていた。というより一言もしゃべってなかった。ここにきて怖くなったのだろうか……。モサク一族とかのことが……。

「怪しい……です……」

 小さな声で絢が何かつぶやいた。

「怪しいですううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!」

 絢の叫びがホノニギさんの部屋中にこだまする。まるで爆発音のような叫びであった。

「あ、絢……?」俺は絢の突然の叫びに目が点になっていた。

「怪しいです怪しいです怪しすぎるです! この人絶対怪しいです! この人絶対怪しいですううううううううー!」

「こ、この人って……まさかホノニギさんのことか?」

「そーですよ! この人絶対スパイですよ」絢はホノニギさんの鼻を真っ直ぐに指差した。

「スパイって……なんでホノニギさんがスパイに……」

「だってこの人『歴史の教科書』とかわけのわからないこと言ってましたよ!」

「『歴史の教科書』のどこがわけわからないんだよ」

「だってここは弥生時代なんですよ! なんで弥生時代の人が『歴史の教科書』とかいうんですか!」

「確かに……」

 そりゃそうだ。なんで弥生人のホノニギさんが歴史の教科書なんて知ってるんだ? 普通教育でも受けたのか? 確か学校というのができたのは明治からだし……。弥生時代じゃ寺子屋も立ってない。

「それと、『タイムスリップ』だとか『ロボット』だとかの未来の外来語を使ってますです! これはどう考えても矛盾してます! 時代錯誤です!」

 なんだかホノニギさんの話す言葉に違和感があったのはこのことか。やはりおかしかったのだ。ていうか思いっきりおかしかったよな……。外来語が出てくるのはこの小説の作者のミスかと思ったが、ちゃんとした伏線だったんだな。俺みたいな馬鹿な奴しか引っかからなかっただろうが……。

 そう考えると……ホノニギさん自体が『おかしい』存在になってしまう。絢の言うとおり『怪しい』のだろうか?

「それと……この人敵のモサク一族のことについて知りすぎていませんですか!」

「知りすぎてるって……知りすぎてるからホノニギさんが『スパイ』だというのか?」

 確かに……よくよく考えてみれば敵の情報を知りすぎてるのも怪しいよなぁ。

 でも……それでスパイというのは横暴じゃないのか? 偶然詳しく知ってたということもあるだろうし。

「だってこの人、ホノニギさんはヤマツミのことを『山仁くん』って言ってたです!」

「えと……」

 思い出してみよう。確かあの時……


「山仁くん! 君は君のお父さんに操られているんだ! だから……こんな無意味な争いはやめるんだ!」


 とか言ってたような……。

「あ……」とホノニギさんがぽっかりと口を開けてつぶやいた。

 『やってしまった……』というような顔をしていた。

「山仁くん……ホノニギさんは山仁くん、いやヤマツミと知り合いだったんじゃないですか!」

「うっ……」

 ホノニギさんは絢に責められ打ちひしがれていた。ホノニギさんがお母さんにおこられている子供の様に見えた。

「とにかくホノニギさん、あなたは怪しいです! スパイです!」

「あ、絢さん、落ち着いてください! は、話せばわかります!」

「あなたは犬養毅ですか!」絢の妙な突っ込みが来た。

「さぁ、白状しなさい! 懺悔しなさい! すべて話しなさいです!」

「分かりました絢さん……。白状します……」

 すると、ホノニギさんは一度咳払いをし、そして真っ直ぐに俺たち二人を見据えた。

「僕は……君たちと同じように……タイムスリップしてきたんです……」

「えっ?」

「僕は……未来から来たんです……。未来の……世界から……」

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