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魔性狩りシリーズ

スカイスクレイパー・バンシーズ

掲載日:2026/07/02

 20時45分、第二営業部に叫び声が響いた。いつものことである。


 仕事が終わらないのだ。奇声の1つや2つ上げてもおかしくない。


「鶴橋部長、もう限界です。僕は今日でやめます」


 部下の田中が私にそう告げた。非常に困る。彼の仕事は彼のスキルありきの計画が立てられていた。優秀なのだ中田くんは。


「それは困るよ。ほら、前飲みに行ったよしみで何とか頼むよ。お願いだ」


 私はパソコンから手を離して、合掌し頭を下げる。


 納得してくれたようだった。


 何も言わずに中田くんは席に戻ってくれた。


「──でも、今日は帰らせてもらいます。それくらいはいいでしょう?」

「ああ、予定内に終わればね。君に振り分けようと思ってた仕事は梨花さんに任せるよ」


 そういう私を尻目に彼はカバンを持って帰ってしまった。


 まあ、定時は過ぎているのだし彼は仕事はできるのだ。これくらいはゆるそうじゃないか。


 そう思い、自分の残ってる仕事を進める。


 中田くんが本来行うはずだったタスクは新入社員の真瀬梨花さんにお願いした。


自分の仕事は21時過ぎに終わったので部内の仕事が片付いていない者の作業を手伝う。


 助け合いなのだこういうものは。


 会社というものはチームプレイで回すものなのだから。


 そうやって、第二営業部は社内2位の営業成績を収めていた。


 結局家についたのは0時過ぎだった。


 職場のある台東区でアパートを借りるのは家賃的に厳しいところはあるが、利便性に勝るものはないとして私はワンルームの部屋を借りていた。


 ここに引越したのは、つい先月のことだ。


 職場から徒歩十分の場所に位置するこのアパートはこの部屋だけ空いており家賃が地域平均を3万円も下回っていた。


 訳あり物件なのかもしれないが告知はされていない。ラッキーだと思いすぐに入居を決めた。


 部屋に入りすぐに着替え、帰りに買ったコンビニ弁当をかきこみ、流れるようにシャワーを浴びる。


 これが日課になっていた。帰ってからはもう、最低限のことしかしたくないのだ。やることが終わった時には1時になっていた。


 明日も仕事なのでさっさと寝ようと私は布団に入る。


 最近は寝つきが悪くなってきた。歳のせいだろうか?


 まぶたを閉じしばらく経つと物音が聞こえる。


 ここはそれなりに古いアパートだし、隣の部屋の住民だろうか?いや、しかしこんな時間に?


「───だ────が──い」


 話し声のようなものがボソボソと聞こえる。痴話喧嘩でもしてるのか?その割には声は小さいように聞こえる。まるで私が囁かれているようだった。



「お───し────う───い──」


 ずっと聞こえてきた。

 

「──え──な───し──だ──ほ───いい」


 段々とはっきり聞こえるような気がする。というよりも同じことをまるで言っているようだった。


 段々と慣れてきてもう寝れそうな気がしてきた。明日も仕事なのだ。部長である私が皆の手本とならないと。


「お前なんか死んだほうがいい」


はっきりとその囁き声はそういった。


「なんだ貴様は!!」


 私は大声を出して起き上がった。当然部屋には誰もいない。隣の部屋からドンと壁を叩く音がした。いわゆる壁ドンされたのだ。


 いい気分はしなかった。 


 だが、気がつくとその囁き声は聞こえなくなっていた。


 ようやく眠れそうだった。


 だが、2〜3日同じような症状に襲われた。


 同じように仕事に行き、0時過ぎに帰り寝ようとすると例の囁き声が聞こえてくるのだ。


 気味が悪くて仕方ない。


 仕事にも支障が出てきていた。眠気を抑えながら私は職場で昼食を取っていた。カロリーメイトとスポーツドリンクだ。カロリーさえ取れば後はどうにでもなる。それが私の考えだった。


 昼食後に本部長に呼ばれた。


「最近第二営業部の成績が落ちてる。わかってるよな」

「はい、すみません。これからも励みます」

「励んだところで必要なのは結果だよ。鶴橋君分かってるね?」


 怒られてしまった。こんなことはほとんどないのに。例の囁き声で寝れてないのもあるだろう。だが、部全体のモチベーションが落ちているようにも感じた。戻ったら叱咤しないとな。とくに梨花さんは目標に達していない。


 そんなことを考えながら席に戻ると中田くんが来た。


「部長」

「何かね?」


「お前なんか死んだほうがいい」


なんだと?なんといったこいつは?


「てめぇ、何言いやがった!!」


 私は激怒する。その姿を見て中田くんは困惑の表情を見せた。


「僕はまだ何も言ってないです。」

「なに?」


 部の周りの人を見る限り私がおかしなことを言っているようだった。


「すまない、最近変なものが聞こえるようになってな……」

「部長、精神科行ってみるのはどうですか?最近は気軽に行ける場所なんですよ。それで、すみません、明日から休職させてもらいます」


 中田くんの話は全く理解できなかった。精神科?あんなとこは軟弱者が行くところだ。それに休職?いきなりどうして?人事からの書類も用意していた。断る権利は私にはなかった。


「分かった。ゆっくり休んでくれ」


 そういうことしか出来なかった。弱虫め。残った仕事は、仕方ない梨花さんにお願いしよう。


 週末につれどんどんと囁き声が強くなっていった。


「鶴橋部長、早く死んでください」


 今日も家を出ようとするとき後ろから声をかけられた気がした。後ろを振り向くと後藤君がいる。そんなはずはない。後藤君は出勤中の交通事故で去年死んだはずだ!!


 「おい!」


 そう声をかけると人影は消えていた。いったい何がどうなっているんだ。


 私は週末に精神科とやらに行ってみることにした。新規の予約はお断りと言っていたが緊急だと伝え何とか予約を詰め込んでもらった。


「ストレスでしょうね」


 医者はそう言い渡した。悪化するようならまた病院に来いとだけ言って追い払われた。それはそうだろう。ストレスを感じない仕事などないものか。当たり前のことを言い適当に薬を出すだけなのだ。コイツラは。


 私は、軟弱者とは違うので薬は飲まないことにした。鬱病とやらの奴らと同じにされては困る。


「お願いです、早く死んでください」


 次の週も私は何とか仕事をした。中田くんには元気かどうか何度も電話をした。何とか治りつつあるとのことだった。やはり彼は強いのだ。


 だが、私の症状は治まることはなかった。日に日に強くなる一方だった。やはり私は事故物件を掴まされたのだろうか?引越しをしてからこの症状に襲われるようになったのだ。何か関連付けるのが自然だろう。


「早く、早く死んでくださいよ」


 事故物件検索サイトでこの住所を調べたがヒットはしなかった。事故物件ではないいわくでもあるのだろうか?


 そういうことを調べてくれる探偵というものがいるようだった昼休みに連絡をいれると日曜に来てくれるそうだ。これで解決するといいが。


 土曜には中田くんの様子を見に行った。


 私の姿を見て中田くんは驚いたように後ろに飛び退いた。


「どうした?」

「ほん、本物の部長ですか?」

「そうだが?」

「どうしてここに?」

「心配してやってきたに決まってるじゃないか」

「ごめんなさい。早く帰ってください」


 こいつは上司になんて口の利き方をするんだ。流石に説教をした。が、途中で遮られた。


「すみません、最近幻聴と幻覚に襲われてそれどころではないんです」

「なに?」


 気になる発言が出てきた。まるで私の症状と同じだ。


「私も、私もだ!」


 思わずそう口に出した。


「そうですか「それは良かった早く死んでくださいね」」


 具合が本当に悪そうだったので私は帰ることにした。


「仕事に戻ったら、また飲みに行こう」


 去り際に私はそう言い残した。


 中田くんも同じ症状に襲われている??もしかして、あの家ではなく職場に何かあるのだろうか?


 日曜日の午後、件の探偵がやってきた。変なやつらだった。眼帯をつけた若いガキに白髪で巫女服を着た女だった。女の方はえらい美人だった。遊びの誘いをしたが笑顔で断られた残念である。


探偵には、部屋と会社の調査をしてもらった。


「鶴橋さん、ここにも、会社にも何もおかしなことはありません。ですが、そうですね、これは僕からの助言ですが、どうするのか。その決断はしっかりしたほうがいいですよ?」


 それだけ言い残した。役立たずめ。当然文句を言い依頼料は払わないで済むようにした。


「だから言ってるでしょ?早く死になさいって」


 週明け、職場に行くと驚くべきことを話された。中田くんが自宅で首を吊って死んだというのだ。


 どうして。


 なぜそんなことに。


 目の前に中田くんが現れた。


「な、なんだ!お前」

「部長、死んでくださいね。お願いします」



 そういうと消えてしまった。一体何が起きているのか。


 症状は治まることはなかった。どんどんと悪化していった。毎日、ずっと私に何かが声がけてくる。お祓いにも行った。だが何も効果はなかった。もう、もう限界だった。


 早く楽になりたかった。


 この声から逃げたかった。


 会社のビルの屋上のフェンスを跨ぐ。


 眼下には大通りが見える。


「ほら、早く跳んで。早く死んでください」


 たくさんの声が重なり私にそういう。何か私がそうすることを待望するようだった。もう限界だった。希死念慮とか言うらしいやつも止められなくなっていた。


 一体、私が何をしたのか。


 何が悪かったのか。


 ”これまで部下が勝手に14〜5人勝手に死んだだけじゃないか”


 私は飛んだ。


地面までは意外と時間がかかった。


「よかった、これで救われる」


 




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― 新着の感想 ―
管理職の無自覚な圧力と、犠牲になった部下たちの声が怪異として返ってくる構成が強烈でした。本人だけが自分の加害性を理解しないまま追い詰められていく皮肉がよく効いていて、働き方への怖い問いも残ります。
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