よん 想い人がいました
よろしくお願いします。
婚約破棄の数年前。
穀倉地帯の上流、とある伯爵家の領地で。大河の堤防工事をリリシアーナはアンナと護衛数名を連れてこっそり視察に来ていた。
リリシアーナは魔法で薄い金髪を茶色に緑の瞳も茶色に変えていた。リリシアーナは背は普通くらい、少し細めの体格。凄い美人ではないが、知的で可愛らしい顔立ちをしている。
前年、大雨で堤防が切れて川下の穀倉地帯が被害にあった。新たな堤防の工事が行われていた。
伯爵家と国費での共同工事現場。
土のうを運ぶ人足たち。
木材を運ぶ牛馬が引くソリ。
指図の大声、人足達の掛け声。牛馬のいななき。
工事現場は活気があるように見える。しかし、
「もっと工事費と人件費を出さなければいけないわね。」リリシアーナ。
「工事の人足が足りませんか?」アンナ。
「もっと頑丈な堤防にしなきゃ、また崩れるわ。物資も足りてない。古い工法で工事してるわ。同じ様な貧弱な堤防を作っても意味ないの。また大雨で人命も穀物も失う。やり直しになればまた建設費がかかるし。それに、人足達がひょろひょろよ。良いものを食べさせて、良い住居を用意すれば活気が出ると思うの。良い人足は良い工事現場に集まるものよ。」
「へー、わかったように言うけど、人材のアテあんの?」背後から男の声がした。
「イイトコのお嬢様に見えるけど、何しに来たの?」
「無礼者!お下がり!」アンナ。
「まあまあ、怒んないで、オネーサン。」アンナにウインクする男。
「どちら様ですの?」リリシアーナ。
「ちょっと遠いけど、地方領主の縁者。デッカイ工事があるって聞いたけど、提示した金額が安くてさ。その話を辞退したの。で、その工事はどーなってんのかなって、ちょっくら見に来たんだ」
リリシアーナより少し年上らしき、ヘラヘラした男が言う。よく見れば黒髪に青い目のなかなかの美形だ。背が高くガッシリはしていないが騎士のような鍛えた体躯をしている。
「オレ、ルディってんだ。工事見学中ね。」
「そうでしたの。私もです。私はリリと申します。」リリシアーナがニッコリ男に笑いかけた。ルディと名乗った男も嘘くさい笑顔を返した。
「提示された費用、覚えてらっしゃいますか?」リリシアーナ。
「そーだなー。たしか、、、これが昨夜確認した値段。」
ルディの出したメモには、走り書きの工事費用の数字。リリシアーナはアンナにメモをとらせた。
「確かに安いですわね。」
「そーだろ?人も機材も物資も出したら出すほど赤字だ。ほとんどのマトモなトコは手を引いたね。、、、でも、工事してんだな。一昔前の工法だけど。この低価格じゃしよーがねーな。リリと同意見。もっと頑丈に作らなきゃ、二の舞いになると思うね。上は何考えてんだか。」呆れたようにルディは言う。
じゃーな、とルディは去っていった。
「お嬢様、もしや。」アンナ。
「ええ、帰って費用の書類を確認しましょう」リリシアーナ。
その後、城で書類を調べ上げたリリシアーナ。中抜きで現場にお金が下りてない状態だった。搾取した業者を工事から外し、返金させた。次の工事業務管理者を洪水地域を故郷とする平民出身の文官に変えた。
工事現場見学したその日、ルディとリリシアーナは市場、酒場で再度お互いを見かけた。
その後も、お忍びで行く病院建設現場視察、学校建設視察、各地のきな臭い現場でルディとリリシアーナは出くわした。
その度、大雑把な意見交換をルディとリリシアーナは率直に言い合った。
そのうち、食事を共にし、論議を交わすようになり。同じ宿に泊まり数日行動を共にしたり。(部屋は別)
リリシアーナを害しうとした刺客をルディがコ◯したり。(「オレへの刺客かと思った」とルディは言っていたが)
リリシアーナが、望んだ人材をルディが紹介したり。
一度だけ、軽くルディがリリシアーナに言った。
「なー、リリには決まった相手いんの?ないなら、オレの連れ合いになんねー?結婚は出来ないんだけど、他の女は一生作んないからさー」
「なんですか?それ」リリシアーナ。
「気が合うし。、、好きだから。リリにプロポーズしてんの」ルディ。
「結婚は出来ないって言うのがプロポーズとは私、初めて知りましたわ」リリシアーナが吹き出した。
「立場的に結婚出来ない」ルディ。
「そうですか。立場的に、ですか。面白いプロポーズですわね。ふふっ。プロポーズされたのは初めてですわ。」リリシアーナ。
「お嬢様、相手にしてはいけません。その男は妾にならないかと言っているのです。プロポーズではございません。」アンナ。
「そうね。妾はお断りです」リリシアーナ。
「惚れてる。妻の立場には無理だけど。出来る限り大切にする」ルディが食い下がる。いつものちゃらけた雰囲気はゼロだ。リリシアーナを見つめる瞳は真剣だ。
それを見てとったリリシアーナもはっきり言った。
「私にも立場がありますの。婚約者がおります。すべきことを投げ出すわけにはまいりません」リリシアーナ。
「そうか」
「はい、そうです」
二人は同じ方向を眺めながら沈黙した。
その後も、王太后が亡くなるまで、リリシアーナの視察にルディは現れた。もうプロポーズはしなくなったけれど。リリシアーナを何度も助けた。
ルディの側近が一度尋ねた。
「リリ様がどこのご令嬢が調べましょうか?」
「いらん。婚約者がいるのなら、オレは知らんほうがいい」ルディ。
リリシアーナにもアンナが問うた。
「怪しいルディとか言う男、調べます」
「調べないで。知りたくないの。」
ルディとリリシアーナはお互いに惹かれていた。だから、この先の未来、好きな人の結婚の知らせなど聞きたくなかった。
あと1話で完結します。
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