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99. 円との出会い、そして夏野とのティータイム

夏野(カヤ)に土産もあるし、白龍亭で和菓子食ってくか?」


 翡翠宮の裏口で(アキラ)がそう言って、それもいいねと私たちは二人で翡翠宮の中に入った。


 裏の縁側で草履を脱いで上がり、途中の青の間で夏野を誘って食堂で食べようと廊下を進む。

 すると青の間の手前で、ぱたぱたと奥から走って来た女の子にぶつかった。


「あっ、玲さま! 申し訳ありません、私慌てて」


 私と同い年くらいの女の子。翡翠宮の使用人の女子たちが着ている淡い若草色の着物に胡桃(クルミ)色の帯を締めていた。色白で私と同じ位の背丈、くるくるとした茶色の長い髪を後ろでゆるく結っていて、後れ毛も巻き毛だ。


(マドカ)か。大丈夫だ。……ああ、こちらが、この前話していた薫だ」


 翡翠宮に住んでいる玲はすでに彼女と顔見知りみたいで、自然に私を紹介してくれる。


「あっ、この方が……! はじめまして、円といいます」


 にっこり笑って会釈(エシャク)するそのふんわりした女の子に、私も「よろしくお願いします」と笑顔で答える。


 すると、玲が言った。


「円は、二~三日前から、翡翠宮に、風呂と洗濯係の一人として入ってきたんだ。年変わらない感じだと思って聞いたら、先月十七になったって言うから、薫が今月十七になるから同い年だなと思って。薫、こっちにきてから同世代の女子って、翡翠以外はあんまりいなかったろ?

 それで、今度紹介するって言ってたんだ」


 にこにこと言う玲に私はまたしてもぐっと来る。すると円と呼ばれた彼女が続けて笑顔でこう言った。


「薫さまは、玲さまの大事な方だと聞いていました。こちらこそ、よろしくお願いします」


 その言葉を聞いて照れながら、私は思い出していた。

 この子の柔和な笑顔も、くるくるの髪の毛も、色が白い繊細な感じも、とても兄の郁を彷彿(ホウフツ)とさせた。そして私が日本にいた頃、高校でいちばん仲良しだった榛名毬花(ハルナマリカ)も、天然パーマを長く伸ばしていたのだ。


「……うれしいな。仲良くしてね」


 思わず子供みたいな笑顔でそう言うと、なぜか円はぽっと頬を染めて頷き、では、午後の仕事の時間が始まりますのでと一礼して去って行く。玲もそんな円を見てくすくすと笑った。


「良い子だろ? ちょっと榛名(ハルナ)さんに似てるなとも思って、薫と気が合ったらいいなって」


 私はそんな玲のやさしさに、思わず玲の着物の袖をきゅっと握っている。今日はなんだかうれしいことばかりが続いていた。


「うん? どうした?」


 やさしい玲の視線に、私も微笑み返して。


「ううん。玲、ありがと」


 玲は、いえいえ、と微笑み、私たちは青の間に、夏野を呼ぶために並んで入った。



     ◇



「街を歩いたんなら、町人たちが皆、玲と話したがって大変だったろ」


 一緒に白龍亭で和菓子を食べはじめた夏野が、私に笑いながらそう言った。


「結構、みんな、そっと見守ってる感じだったけど、ほんとに玲は皆からめっちゃくちゃ愛されてるよね!」


 私の言葉に夏野は微笑んで。


「皆、儀式の時なんかに玲の舞を見てるからな。今年は翡翠もいなかったし戦況も微妙だったから中止にしたんだが……いつもは新年に、神殿の二階の張り出し舞台みたいな場所で、玲が舞ったりするんだ。その時は街のみんなを広場に入れて、神殿から甘酒とかぜんざいを振る舞ったりして、ちょっとした新年の祭りみたいになる」


「ええ~そうなんだ」


「ちょっとした見世物みたいなもんだから、別にたいしたことじゃない」


 玲は少し頬をピンクに染めてそっぽを向いている。これは照れてるんだなとわかった私、にっこり笑って。


「何その謙遜! 玲の舞、星が降るみたいに綺麗だったもん。そりゃあ、皆見たいと思うよ~」


 そう言ったら、玲はまんざらでもなさそうに笑った。


「まあ、あれは特殊技能だから……」


 自分の舞の魅力は自覚してるんだなと、私と夏野は顔を見合わせて少し笑う。和菓子屋さんで買ってきた米の粉団子をおいしそうに食べながら、夏野が「よく俺の好みをわかってたな」と玲に言うと、玲は真顔で頷いた。


「夏野は米の粉団子、俺はよもぎ団子もどっちも好きだって、前に父さんのところで話しただろ」


「龍樹さんのところでお菓子食べたことあるの?」


 私が無邪気に聞くと、玲は頷いて。夏野が微笑んで言った。


「龍樹さんは薬師だが、菓子作りも得意なんだ。クッキーとか清涼に教えて、神殿の定番になってる」


 感心していると、玲も穏やかな口調で言った。


「今度一緒に行ったとき、薫を父さんにちゃんと紹介するから、その時に一緒に食おうぜ。なんかアイツ、俺から薫を、直接紹介してもらいたいらしいんだよな」


「それはそうだろ。恋人ですって親は言ってほしいんじゃねえの」


「恋っ……! 紹介はきちんとするから! どう言うかは考える」


 夏野のからかいに玲はまっ赤になって、ごまかすみたいにお茶を飲んでる。私はうれしいやらおかしいやらで笑いを堪えて、三色団子の最後の一個をいただいた。

 そうしたら、気を取り直したように玲が言った。

 

「父さんはいつも何か作って、余ったら神殿に持っていって清涼と親睦深めたりしてるらしいから、何かあると思うし……なんなら、こっちから今日みたいに土産って言って持って行っても喜ぶだろうとは、思う」


「本当は玲に持って来たいのに、清涼で止まってるんだ。それを清涼が桔梗や俺たちに持って来たりする」


 複雑すぎるな、笑っちゃいけないけど、その遠慮ってなんなんだろう、と思いながら、私は清涼さんの方を話題に出す。


「龍樹さん、清涼さんと仲いいんだね」


 聞いて、玲も夏野も頷いて。


「同い年って聞いたけどな」と玲。


「桔梗とも結構気心知れてるかんじだよな」と夏野が言う。


 私はまだ行ったことのない龍樹さんの家はどんなところなんだろうと想像して、ときめくような気持ちになった。




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