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96. 呉服屋デートと去年の今日は。

 翌日、翡翠の街の着物屋さんにて。


 いくつもの反物(タンモノ)を広げてもらって、私がその(イロド)りの美しさに感嘆のため息をついていると、玲が笑った。


「薫はどの色が好きなんだ? 鏡の前で合わせてみて、顔写りも見てみたらいい」


 にこにこ笑ってそう言ってくる。私は色とりどりの布地と玲の上機嫌な笑顔を前にときめいてしまって、ええと、と少し考えた。


「……玲はどんな色が好きなの?」


 思わず、すぐに決められなくてそう聞くと、玲は少し微笑んで。


「俺は桃花(モモハナ)色とか……長春色(チョウシュンイロ)っていう、ちょっと()せたような鈍い赤も好きだけど、……そうだな、ちょっと、この真朱(マソオ)って色、それと薔薇(バラ)色、濃緋(コキヒ)(アカネ)色……この四つ、順番に当ててみて」


 玲が選んだ四色は、グラデーションのように柔らかい赤、明るい赤、鮮やかだったり、えんじ色が混ざったような深い夕焼けみたいな色と、すべて赤系の色だった。


 次々と当ててみる私を微笑んで見つめて、玲が言う。


「ああ、やっぱ、薫は赤が似合うよな。ダイダイ色や朱色もいいと思うけど……薫的にはどれがいちばん好きだと思う?」


 私は新たに加わった橙色と朱色も見比べて、眉を寄せて考える。どれも良い……。

 でも、茜色という派手な夕空のような色を当ててみたとき、一番顔色が明るく見える気がした。


「茜色かな?」


「うん、いいな。模様は何がいい? 肩や裾に刺繍入れてもらえばいい」


「でも、刺繍入れたらお値段結構上がっちゃうよね?」


「贈り物なんだから、それは構わない」


 玲は出かけるときからずっと笑顔で、とてもうれしそうだった。


「薫さま、こちらが模様集です」


 呉服屋さんのご主人、(ヤナギ)さんというおじいさんが、焦茶(コゲチャ)色の着物の裾を上品にさばいて立ち上がり、奥から冊子になった本を取ってきて見せてくれる。


「生地は夏用の薄いやつになるから……花柄がいいかな。小紋みたいに小さな柄を総柄にも出来ると思うけど、薫は大きい花とか扇とかが似合うかもな」


「そうだね~……花だったら、あ、花金鳳花(ハナキンポウゲ)って模様もあるんだね!」


 私の誕生花はラナンキュラス、こちらでは花金鳳花と言うと、この前玲が教えてくれた。


「それは割とあたらしいものですね。若い職人が担当しているのですよ」


 優しく柳さんが教えてくれて、私はうんうん頷く。


「じゃあ、裾にこの花金鳳花を入れてもらって良いですか?」


「地の色が茜色だから……花は桃色とか白にしてもらったら上品かな。中に合わせる襟は金茶(キンチャ)色にしてもらって……柳、帯も近い色で合わせてもらえるか?」


「えっ帯もいいの?」


「どうせだから全部作ろうぜ。楽しいだろ?」


「お金かかるよ~」


「そういうときのための報酬だからいいんだ。なんなら、同じ布で巾着も作ってもらうか?」


「おお、それはかわいらしくて良いですね、玲さま!」


「じゃあ頼む」


 私が返事もしないうちに、とんとんと玲と柳さん二人の間で商談がまとまっている。

 照れもあり申し訳なさもあり、私が小さな声でありがとうと囁くと、玲は機嫌よく、うん、と頷いた。



     ◇



 今日は五月十七日、去年の今日は……と、呉服屋さんとにこやかに会話している玲を微笑ましく見ながら、私は思い出している。


 体育祭の準備で慌ただしかった。私はリレーのメンバーに選ばれて、バトンの練習をやろうって話になって、玲と一緒に帰れない日が何日か続いてた。


 練習の甲斐あって、体育祭当日、リレーは皆で一位になって、玲も短距離で二位になってクラスに貢献してた。ハンバーガー屋さんを皆で予約して体育祭の打ち上げをして楽しかったけれど、玲とは席が離れていたりして、少しぎくしゃくしてるような感じがしていた。


 それで、去年の誕生日は、私、玲に教えられなかったんだよね。


 一ヶ月くらい経って、そう言えば薫の誕生日っていつなんだ? と聞かれて、


「実は体育祭当日だったんだ……」


 と私が言ったら、玲はびっくりして。その次の日曜日に一ヶ月遅れだけどと言って、手作りクッキーとラナンキュラスのネックレスをくれた……。


 なつかしすぎるな。

 あの頃は、一年後にこんな和の世界で玲と一緒に着物を作ってるなんて、夢にも思っていなかった。


「……じゃあ、代金は翡翠宮に玲宛で請求してくれ。出来上がるのは二~三週間くらい?」


 玲が言うと、柳さんは頷いて。


「そうですね。今日が五月十七日ですから……三週間後、六月七日の日曜日に、翡翠宮にお届けに上がります」


「わかった。誰に言ってもわかるようにしておくからよろしく頼むな。

 ……じゃあ、薫、ちょっと誕生日より後になっちまうけど、六月七日に届けてもらうから」


「うん。ありがと」


「……巾着は比較的早く出来上がるとかあるのか?」


 ふと思い付いたように玲が尋ねると、柳さんはにこにこ笑った。


「一週間で出来上がりますから、二五日の午後にお届けしましょう」


「じゃあ、ちょうど誕生日に間に合うな」


 玲はそう言って私の方を見て微笑み、私はぐっと来ながら、よろしくお願いしますと柳さんにお辞儀した。

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