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92. 星空の舞と春風の舞

 五月初旬の祝宴(シュクエン)で、私は初めて(アキラ)の舞を見た。


 祝宴には西の(トリデ)から翡翠と西羅(サイラ)も招かれていて、私は玲の舞がはじまる前に、少し翡翠と話すこともできた。


 その日の彼女は、以前会ったときの薄紫に銀糸の刺繍の着物姿ではなく、祝いの席のためなのか桜色に金糸で扇の刺繍が施された華やかな着物を身につけていた。


「翡翠、今日も綺麗だね!」


 私が声をかけると翡翠は(ツボミ)がほころぶみたいに微笑んだ。


「薫も、その薄紅(ウスベニ)色の着物、とても似合ってるわ。帯が瑠璃(ルリ)色なのもいいわね! 今度その組み合わせ試してみるわ、いいでしょう? 西羅」


 無邪気に西羅を振り返る翡翠に、西羅もかすかに笑って頷く。そのやり取りで、二人が引き続きうまくいっていることがすぐに伝わり、私も笑うと翡翠が囁いた。


「あのね、薫。私、最近、西羅に協力してもらって、呪術と私の癒しの光が融合できないか、研究をしているの」


 驚いて私は翡翠を見つめた。彼女は"癒しの光"というヒーリング能力を持っているのだ。


「神殿の巻物より、呪術については西の砦の蔵書がすばらしくて。力を融合して呪いを解いた事例の記述もいくつか見つけたの。そして近いうちにこちらに越してこようと思っているの。だから何か困ったことがあったら言ってね」


「えっ、翡翠宮に戻るの?

うれしい! これからもよろしくね!」


 私が狂喜して飛び跳ねると、翡翠もうれしそうに笑って、西羅はそんな私たちを見守ってくれていた。



     ◇



 そして祝宴が始まってしばらくした頃、玲の舞が始まった。


 僧医の清涼さんと速水が笛を吹く。その流麗な音に乗せた彼の舞は、扇の一振りも、変則的な足拍子も、星が降るような美しさを(タタ)えたものだった。


 私は、至宝だと言っていた夏野(カヤ)の言葉を思い出しながら、頭の隅で、私の兄・(イク)の春風みたいな舞を思い出していた。



 郁が五歳で私が四歳の頃、私たちはおじいちゃんから舞を習いはじめた。私は基本を習っただけで辞めてしまったけれど。郁は、その穏やかな性格も合っていたのか、その後も祖父の家に舞を習いに通っていた。


 郁が振りに合わせてくるりと回ると、ふわりとあたたかい風が吹くような感じになった。


 私は自分が辞めた後も、おじいちゃんに舞を習う郁を、板張りのお部屋の隅でいつも見ていた。

 見る度、郁の性格の優しさやあたたかさが感じられて、にこにこ笑うような気持ちになった。



 でも、玲の舞は少し違った。



 それは夏野が至宝と評するだけあって、他の誰にもできないだろう、言葉を失うような美しさだった。でも、冴え冴えとした冬の星みたいなそれは、どうしてか彼の内面の孤独や、はかりしれない冷たさを感じさせた。


 玲と話していて、そんなことを感じたことは一度もない。

 彼は心の奥底、誰にも見せない場所に、いったい何を持っているんだろう?


 そして私の中に、祝宴が終わり日を重ねるごとに湧き上がった想いがあった。


 私は彼を守らなきゃ。

 でもまだ足りない。


 その気持ちは、青い炎の夢を三日続けて見たことで、加速した。



     ◇



 私が風雅の国のことを学ぶ『姫教育』は、(イクサ)が終わった今も続いていた。

 午前中は翡翠宮専属の医師である朱鷺子の医学講習と、軍神と呼ばれている黎彩(レイサイ)からの戦術講義。最近では、黎彩が知る限りの呪術についても教えてもらっていた。


 そして今日の午後は、(ハヤセ)の剣術訓練だ。

 玲を、皆を守るために私は今まで以上にがんばらなければ!


 私はそう決意して、その日も翡翠宮へと向かった。


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