65. 玲の危機
北の森から帰って数日が経過していた。
西羅の暗示を解くための精霊草、玲の身体を救う月零草。そして、浄化と止血の力を持つ聖なる水。これで、翡翠のことも玲のことも助けられると信じていた。
翡翠宮に帰り着いた金曜日の夜は、旅の疲れのせいか玲の顔色が悪く、私も北の森で怪我をした左腕のことがあり、土曜日と日曜日は夏野も滝も含めて休日にしようと話した。
そして週が明けて月曜日、一月も終わりに近づいていたその日。
私は朝から姫教育のため青の間に向かい、朱鷺子に渡していた月零草の乾燥状態を見せてもらって、そろそろ煎じることができないか朱鷺子に聞いてみようと思っていた。
玲の状態を少しでも早く良くしたかったのだ。
青の間に行くと、朱鷺子と黎彩が私の座学のために朝から来ていた。
夏野が、
「玲は、今日は朝から神殿に、速水の様子を見に行くと言っていた。
もう少し休んでろと言ったんだが……本当に言い出したら聞かねえんだよな」
と、少し苛々した口調で言って、私も玲の体調が心配だなと考えていたその時。
廊下を走る足音が聞こえたと思った次の瞬間。
激しく青の間の扉が開き、その速水が血相を変えて駆け込んできた。
速水が着ていた巫子用の白い上衣に、返り血みたいに赤茶色の染みが点々とついているのが見えて、怪我でもしたのかなと思い、私が立ち上がったその時。
速水の今にも泣き出しそうな声が、青の間に響いた。
「夏野さま! 朱鷺子さん! 大変です!
玲さまが……血を、お吐きになって……!」
心臓が、止まるかと思った。
速水は今、何と言った?
アキラサマガ、チヲ、オハキニナッテ。
……血?
玲が血を、吐いた?
速水の大きな瞳は涙でいっぱいで、その声は震えていた。
急いで歩み寄った夏野が、速水の肩をつかむ。
「落ち着け、速水。
どんな状況だ? いま、玲はどこにいる?」
いつも冷静な夏野のその手が、かすかに震えているのを私はぼんやりと見つめた。
速水はしゃくりあげながら必死で答える。
「神殿の中庭で、僕と話していたとき、急に咳き込まれて……血が……。
清涼さまを呼んで、こちらの治療室に近い方が良いという話で、玲さまの私室に運んでもらって……いま、清涼さまが玲さまの着物を、……着替えさせてくれています……!」
途切れ途切れの速水の声。私は思考が停止して頭の中が真っ白になるような気持ちで、目を見開いたまま動くことができなかった。
玲の身体が弱っていることは知っていた。でも、吐血だなんて……?
速水の話はこうだった。
玲はいつも通りの雰囲気で、速水に「修行はどんな感じだ?」と尋ねた。玲のことをとても慕っている速水、がんばっています! と伝えたところ、玲は、そうか。と頭をなでてくれた。
速水が玲を見上げて、少し痩せられたかな、顔色もよくないみたいだと思ったとき。
ふいに、玲が腰を折り、口元を両手で押さえた。
次の瞬間、玲の両手から、血があふれた。




