64. 馬車の中、玲の夢
北の森に薬草を採りに行く途中、急にあらわれた風狼を避けそこねて腕に傷を負った。
その私の身体も翌朝には少し回復して、腕の傷はまだ微妙に違和感があるけれど、聖水のおかげで熱もなく動けるようになり、私たちは翡翠宮への帰途についた。
行きと同じく滝が御者、夏野は馬に乗り、馬車の中でうとうとした玲が私に寄りかかる。
まだ玲の顔色は良くなかったけれど、私は少しだけほっとしていた。
帰ったら月零草を朱鷺子に渡す。
乾燥させて煎じてもらって、玲に処方してもらおう。薬草と聖水を手に入れた安心感で、私の心の中は少し明るかった。
がたごとと馬車が揺れている。もっと揺れるものかと思っていたけれどそうでもない。
行き帰りともに滝が御者をしてくれているけど、激しい性格の割に、馬車や馬の扱いがものすごく丁寧だと思う。
「……ん……薫……?」
「うん? どうかした?」
隣でうたた寝をしていた玲、不意に私の名前を呼んだ。私が反応したら、玲がぱちりと目を開けて身体を起こして。何か信じられないものを見るように、じっと私を見た。
寝ぼけてる……?
「玲? 大丈夫?」
思わず覗き込むように見る私。玲はぱちぱちと瞬きをして、納得したように頷く。
「…………あー、悪い。なんか、夢見てた……」
私の夢ということ?
咄嗟に理解が追いつかず玲を見つめる私に、玲はふふっと微笑む。
「よかった……。薫がいなくて、ずっと探してたんだ……」
そのままほっとしたように息をつき、こてんと私の肩に頭をもたせかけて。すぐに安らかな寝息が聞こえてきた。
するりと、玲が首にかけている木彫りのチャームがすべり落ち、俯いた私の視界に入る。
それは私がまだ日本にいた頃に、玲の誕生日にあげたものだ。
……夢で私がいなかったら、探してくれるの。
そして今も、このチャームを大事に身につけてくれている。
胸打たれた私の目には、思わず涙が浮かんでいる。
玲に嫌われたらどうしようと、心の奥でずっと思ってた。でも違う。
嫌われてなんかいないんだ。その逆なんだ。
私は北の森に出かける前、玲から「誕生日おめでとう」と言われた夏野にやきもちを焼いたことを、ごめんと心の中で謝った。
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