61. 解決策と誕生日
お願いだから行かせてと言った私を、玲は静かな瞳でしばらく見つめた。
そして長い沈黙の後、彼はふうと吐息して。真っ直に私を見て、言ったんだ。
「そんなに俺が馬に乗って行くことが心配なら……荷物もあるだろ。馬車で行こうぜ」
淡々と、玲がそう言った。そして流れるように言葉を続ける。
「北の森に入るまでは獣も出ない。滝に御者してもらって、俺と薫と、荷物も馬車に載せて、夏野は馬に乗って行ったらいい。そしたら、天藍に乗り続けるより俺も楽だし……薫も体力温存できるだろ。どう考えても、夏野と滝に比べたら薫の方が体力ねえんだし」
何がなんでも自分も行くつもりらしい。
「北の森に着いたら、玲は宿で休んでろよ」
と、仕方なさそうに夏野が言って、玲も頷く。
「そうさせてもらう。俺は宿で待ってるから……そこから先は、三人に任せる」
「……仲間はずれなのが嫌だったんだろ?」
にやにや笑って、滝が玲に軽口を叩く。玲はイラッとした風情で、
「好きに言ってろ、なんにしても俺も行く」
と滝に言って、少し笑った。
「じゃあ……馬車と初日の弁当の手配はしておく。滝、御者をまかせていいか?」
と夏野。
「勿論いいぜ。俺様は万能だからな!」
いつも通りの元気な滝の声に、皆が顔を見合わせて笑う。
……と、夏野がふと思い出したと言うように、玲に訊いた。
「……そう言えば、俺に用事と言ってたな。なんだった?」
玲は、ああ、と頷いて、横目で夏野を見て、さらりと言った。
「誕生日おめでとう」
その言葉に、夏野は一瞬ぽかんとして、私と滝は、玲と夏野を交互に見つめる。
「……夏野、今日、誕生日なの?」
一月十六日。覚えておこうと私は心の中で考える。
「十八になるのか?」
と滝。
そうだと夏野は頷いて、
「……それだけ言いに、具合よくねえのにわざわざ青の間まで行ったのか?」
と、玲に聞いている。玲は平然と頷いた。
「そうだけど……思い出したら言うのが筋だろ」
夏野、珍しく声に出してははっと笑って。
「……まあ、ありがとうと言っておくのが筋かな」
玲の言い方を真似て、微笑んでそう言った。
なんか……夏野は玲に愛されてるなあと思って、私としてはちょっとうらやましいくらいだった。
「……さ、皆、明日は神殿の厩舎に六時半集合だ。各自、着物は最低三着……寝る時用の浴衣は別に入れろよ。北は寒いだろうからな。毛布は余分に積んでおく」
夏野が言って、私たちは各自、旅の準備に取りかかった。




