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身代わり姫と複雑王子 ー風雅の国ー  作者: MegumiS
身代わり姫と複雑王子
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59. 秘密の打合せと、玲の本質

私は、翌日も通常通り、午前中は朱鷺子と黎彩(レイサイ)から姫教育の講義を受けていた。


朝から青の間に顔を出した夏野(カヤ)


(アキラ)は昨日より調子が良いみたいだが、大事をとって今日も部屋で寝せてきた」


と言っていて、その言葉に少し安心した。


 昨日より少し玲の体調が良いこと、そして北の森に薬草を採りに行くという計画を、内緒にできそうなこと。その両方にほっとしたのだ。


 新月まであと三日だった。明日の早朝、薬草採取のため北の森に向けて出発する。詳細を詰めるため、いつもは二~三時間やっている(ハヤセ)の剣術稽古を小一時間で終わらせて、速水邸で夏野と滝と三人、行程や必要な荷物など打ち合わせることにした。



 玲に気付かれないように、いつも通っている裏口は通らず、翡翠宮の正門経由で速水邸に戻る。


 翡翠宮の隣に立つ速水邸は、土間になっている台所と、囲炉裏のある居間、そして私が寝ている客間と、速水の部屋、納戸と浴室と厠がある、簡素な造りの日本家屋だ。


 私は速水と住んでいた頃に、かまどの使い方や洗濯も、五右衛門風呂風のお風呂の沸かし方も教えてもらって、日常の家事はどうにか一人でできるようになってきていた。


 玲の『通り道の負荷』を癒すための月零草(ゲツレイソウ)と、催眠術を解く効能がある精霊草。

 森の奥にあると言う月夜見の泉、その水も万病に効くらしいと夏野が言って、少しそれも採取して来ようと、三人で話した。



 薬草と泉の水を手に入れて、玲の身体を少しでも治し、敵将である西羅(サイラ)の暗示も解く。



それは片道二日半、往復で一週間弱かかる旅だった。玲も一緒に行くことは、弱った彼の身体に負担をかける可能性がある。だから玲には内緒で行こうと決めて話を進めていた。





「玲は、自分が周りに何かを与えることは得意だが……逆のことには慣れてないんだよな」


 速水の家、囲炉裏の部屋でお茶を沸かして、地図を見ながらルートを確認していたとき、ふと夏野が言った。


 私は夏野にお茶を注ぎながら、なるほど、と思う。隣で滝も頷いている。


龍樹(リュウジュ)さんが六歳の玲を神殿に置いて、長く旅に出ちまったから、親の愛情に疑問があるからなんじゃねえの?」


 ……と、滝。湖のほとりに住んでいると聞いた、玲のお父さんのことだろうか。


「龍樹さん、って、玲のお父さん?」


 私の問いに、そうそう、と二人とも頷く。


「親の愛情が疑問と言うより、父親が生きてるのに一緒にいた時間が短いから、なんて言うのか……他人からの愛情とか友情、心配とか……そういうものを大幅に受けると、混乱するって言うか。戸惑って動揺するんだよな、あいつは」

 と夏野が言い、滝がくっくと笑う。


「こじらせてるんだよな。大体、龍樹さんは朱鷺子の薬の師匠なんだから、薬草の話もそっちに聞いた方がいいんじゃねえか?」


 滝の言葉に、夏野は頷いた。


「それは対応済だ。玲は、心配かけるとか言って、自分が弱ってる時は龍樹さんに会いたがらない。少し前に俺が個別に聞きに行ったんだが……」


「玲には内緒で行ったのか?」


「当たり前だ。もし行く前に教えたら、玲は行かなくていいとか言ってくるだろ」


 滝の問いに夏野は肩をすくめて、言葉を続けた。


「それで、聞きに行ったんだが、龍樹さんも朱鷺子とほぼ同じ回答だった。

 ……ただ、もし意識が混濁するとか、まずい状況になったときは、龍樹さんが持っている竜骨(リュウコツ)という漢方が効くって話で、そのときは俺から連絡することにしてる」


「え、……意識が混濁するなんてことも、あるの?」


「あまりにも無理が嵩んだ場合だ。絶対にそうならないように北の森に行くってことだ」


 夏野は私を安心させるように断言するけれど、胸の奥で、心配がふくれあがる。


 でも、まずは北の森に行く。

 私はどうにか自分を落ち着かせようと、お茶を一口飲んだ。


 玲は自分のことより他人を優先する。だから、私たちが北の森に行くと知ったら、危険を冒してまで行かなくていいと言う可能性はかなり高い。そのことをわかってるから、夏野も滝も、黙って行くことに同意してくれた。


「新月の夜は光がなくて霧も濃くなる。風狼(カゼオオカミ)は速いから、注意が必要だ、薫」


 夏野が教えてくれる。


「うん。鎧も持って行った方がいいのかな」


「動きが制限されるからな~……弓矢が飛んでくるわけでも刀でもねえし、心配なら薫は鎖帷子だけ持って行くか?」


 滝が首をかしげて言う。


「重くなるから考えちゃうよね。さらし巻いて行くし、無くていいかな……」


「ま、風狼より俺の方がはええけどな。お前への攻撃も防いでやるよ」


 自信満々に滝が言って、鎧は置いて行くことにした。



 私たちが三人で、北の森までの地図と月夜見の泉のことが記録してある巻物、そして風狼の動きを確認していた、その時だった。





「……楽しそうな計画だな」





 土間の方……囲炉裏の部屋と土間を仕切っている引き戸の陰から声がした。


 聞き違えるはずのない、低くてなめらかなその声……。

 玲が土間に入ってきたことに全く気付いていなかった私たち、驚いて固まった表情で、その声が聞こえてきた方向に、ゆっくりと顔を向ける。


 そこには玲が、いつもの綺麗な藍色の着物姿で、腕を組んで立っていたんだ……。


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