58. そして、秘密計画
私は夏野と朱鷺子に、南の谷での翡翠のことを話した。
「南の谷の水牢で、翡翠が助けてくれて……その時に、聞いたの。
翡翠は西羅と、水面下で、お互いを大事に思っていたって。
……でも、西羅がおかしくなったことに気付いて、翡翠は出奔して西軍にいると教えてくれて。
そして、翡翠が言ったの。西羅は自分に暗示をかけてしまってるって。
そのことを、戻ってきてから玲と話していて、その西羅の自己暗示と、速水がやられた催眠術に、共通点がある感じがしていて。どうにか西羅自身の術を解くことができて、西羅が正気に戻ったら……そして、翡翠と西羅が愛し合っているって話が本当なら、結果的に東軍と西軍の戦は終わりにできる……和平交渉ができるんじゃないかなと、そう思って」
朱鷺子が微笑み、夏野は理解したと言うように頷いた。
「西羅の術をどう解くかは検討が必要だが……催眠を解くための精霊草はこちらの在庫も必要で、西羅にも使えるなら一石二鳥、……ということだな」
と、夏野。
「そういうことになるわね。お願いするわ」
朱鷺子の声に私は頷く。
そして、私は考えながら、朱鷺子と夏野を見て言葉を選んだ。
「玲は、速水救出と、私をもう一度助けに南の谷に連続で行ったことで、疲れて弱っているよね?
私、その薬草……月零草と精霊草を採りに北の森に行きたい。でも、森まで三日もかかるなら、玲が行ったら余計疲れるかもしれないね……。
……それって、どうにか内緒で行ったりできないかな」
私の言葉に、夏野も朱鷺子も頷く。
「俺が単独で行こうかと思っていたが……」
「夏野一人で行くのは危険すぎるわ。足のこともあるでしょう」
朱鷺子の声に、夏野、少し考えるような表情をして。
「今日は木曜か……薫、午後から滝の鍛錬だな。滝にも打診してみるか」
「そうね、滝が行ってくれるなら百人力よ。そして、新月は十九日……四日後よ。今月行くなら、明後日の朝には出発しないと間に合わないわ」
では急ごうと話はまとまり、夏野も一緒に話してくれると言うので、午後からの滝の剣術指南の時に、北の森行きを相談してみることにした。
◇
「そりゃあ、俺以上に適任な奴はいねえな」
不敵に笑い、あっさりと滝は了解した。
「助かる……明後日の朝、早い時間に出発しようって夏野と話してるんだけど、神殿の厩舎前に集合でいい?」
「俺は早起きだからな。全然構わねえ。朝早くって、六時半くらいか?」
「それくらいだろうな。朝飯は食ってきてくれ。昼は……食堂に頼んで初日の弁当は手配しておく。馬で片道二日半だ。一月の野宿は寒すぎるだろうからな。初日の十七日は途中の藍鉄の町、十八日は北に近い竜河の町、十九日は北の森の麓にある宿に泊まる予定だ。
宿代は翡翠宮持ちだから気にしなくていい。冬だが、泉に入ったりする可能性もある。着替えは少なくとも三着は持って行けよ」
と夏野が言う。
そうだ。速水の家に帰ったら、私も用意しないといけない。
滝は少し思い出すように視線を空にさまよわせた。
「そうだよな……。俺はその、通り道の負荷ってやつは詳しく知らなかったが……。
こないだ、南の谷で速水を助けた夜、玲にしては珍しく息切れしてたからな。ちっと気になってたんだ。……ま、あいつは肝心なことはいつも言わねえから想定内ではあるな」
よくわかってるなあと、私は感心してしまう。そう。肝心なことはいつも、玲は何も言わない。それでつい、心配したり不安になったりしてしまうのだ。
「今日はこれから、滝の剣術稽古して……夏野は玲に、二~三日休めって言ったんだよね?」
「ああ。秘密で行くって話になったからには、明日の朝もあいつの状態を見るには見るが、確定的にもう一日休めと言って休ませる」
私と滝、顔を見合わせて頷く。
「じゃあ、明日はここで、行程の打ち合わせとか、する?」
「部屋の中でやってもいいだろうがな」と滝。
「速水の家でやるってことでもいいよ?」
私が言うと、
「かえって玲の部屋に近いからな……」
と夏野が渋る。
「翡翠宮の裏口は玲の部屋の前だから、裏じゃなく玄関から出て、道沿いに速水の家に行ったらいいんじゃねえか?」と滝。
「なるほど、そうしよう」
夏野が頷いて話はまとまり、私たち三人はまた明日、詳しい行程を詰めることになった。




