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身代わり姫と複雑王子 ー風雅の国ー  作者: MegumiS
身代わり姫と複雑王子
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57. 北の森の秘薬

 速水の処遇について、(アキラ)と神殿の僧医たちと話し合った翌日、一月十五日の朝。


 姫教育を再開すると言われていた私は、朝から青の間に向かった。


 部屋に入ると、朱鷺子と夏野(カヤ)が待っていたけれど、珍しく玲の姿が見えない。

 青の間の瑠璃色の壁が、窓からの冬の日光に照らされてところどころ金色に光る。


 玲はいつも、私には笑って問題ないとか大丈夫と言うけれど、昨日も顔色が良くなかったし、手も少し熱かった。やっぱり体調が良くないのかなと思っていたとき、夏野が言った。いつも冷静な切れ長の瞳がきらりと光る。


「薫、通り道の負荷のことは玲が話したと聞いた。

 あいつは放っておくとすぐに無理するからな。今朝、食堂で会った時あまり顔色がよくなかったから、強制的に部屋に連れて行った。二~三日休ませようと思ってる」


 私はやっぱりと思って、うんうん頷く。


「そうだよね……昨日、速水のことを話しに一緒に神殿に行ったときも、顔が少し青かったし、心配してた。そのことで……私、朱鷺子さんと夏野に聞きたいことがあったんだ……」


 私の言葉に、朱鷺子と夏野、なんだというように身を乗り出す。

 私はいつもの席につき、目の前に座る二人を見て切り出した。翡翠宮の専属医師の朱鷺子と、参謀兼医師見習いの夏野。薬に精通しているはずの二人に聞きたい事があった。



「玲の、通り道の負荷での体調不良を軽くするには……安静にしておくしかないのかな。何か、薬草とか、薬はないのかなって思って、聞きたかったの」


 私が尋ねると、夏野が真剣な顔で頷く。


「日々、炎症を抑える薬湯は飲ませているんだがな。特効薬的なものが無いのか、実は俺も、調べていたんだが……。


 少し遠いんだが、ここから馬で二~三日のところに、北の森というのがある。そこに新月の前後にだけ咲く、月零草(ゲツレイソウ)という薄紫の花があると、神殿の巻物には記されてる。


 花が咲いた月零草を摘んで、乾燥させて煎じたものに、通り道など過度な能力使用で弱った神官の身体を癒す効果があるらしい。俺も巻物に描かれていた絵でしか見たことがないが……それを取りに行った方がいいんじゃないかと少し考えていた」


「医術書にはそのことは書かれていないのよね。玲の前に通り道を発現させた神官……玲のお母さまは、ずいぶん前に亡くなっているし、巻物に伝説的な秘薬としてしか書かれていない。そして、北の森は危険なのよ。霧が深い上に風狼(カゼオオカミ)っていう獣がいて」


 と、朱鷺子も続けて言う。玲が小さな頃にお母さんが亡くなったという話は、何度か聞いたことがあった。そして風狼という獣の話は、初陣の時に(ハヤセ)から聞いたなと思い出す。


「……風狼って、呪いの獣なんだよね。初陣のときに、ちらっと滝から聞いた……。攻撃されて命を落としたりすることもあるのかな」


 私が聞くと、朱鷺子も夏野も大きく頷いた。


「風狼の牙や爪で引っ掻かれると、毒というか……呪いの関係で、通常の刀傷よりも化膿や発熱がひどいのよね。もちろん、深傷を負った場合は亡くなることもあるわ。細心の注意を払って行かなければならない」


 薄茶の髪を掻き上げて考え深げに朱鷺子が言うと、夏野も難しい顔をする。


「北の森は風狼がいて危険だから、俺が神殿に来て以来十年以上、行ったという人間の話を聞いたことがないんだ。神殿の巻物によると、北の森の奥には月夜見の泉という泉があって、その泉の水は聖なる水で、風狼の傷にも効くとされている。万病に効くとも書かれていたから、玲の負荷にも多少は効くんだろうが……一番必要なのは、最初に言った月零草だな」


「そうね、それと……」


 朱鷺子の声に、私と夏野は朱鷺子を見つめた。


「この前、速水にかけられていた催眠術を解くときに使った薬草……精霊草(セイレイソウ)も、北の森の入り口に生えているらしいの。翡翠宮の薬草庫の在庫を使い切ってしまって、事前に形状を教えておくから、行くならそれも併せて取ってきてもらえるとありがたいわ」


 玲のことが頭を占めていて気付かなかった。朱鷺子に言われて、私は思い出す。


「その精霊草って、……もし、西羅(サイラ)が自分に暗示をかけているとしたら、それを解くのにも使える薬草?」


 私の言葉に、夏野が微笑む。


「……西羅を助けるために、翡翠が西軍に潜り込んでいて、お前を南の谷で助けたという話は玲から聞いたが……、西羅が自分に暗示をかけて狂戦士のようになっている、という推論のことを言ってるのか?」


 夏野の言葉を受けたように、朱鷺子も言う。


「……薫が気がついたときに、玲に話していた……南の谷で翡翠が、『西羅は変わってしまった』と言っていた、って話の続きってことね」


 二人ともカンが良くて助かるなと思いながら、私は頷いた。



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